静龍苑(せいりゅうえん)/森下

あまり焼肉については詳しくないのですが、このお店については存じ上げておりました。広告業界における最大手D通、すなわち電通社員御用達の焼肉店。「電話に出ないくせに予約なしでは入れない」という難易度の高めの下町焼肉。
この日は常連様にお連れ頂きました。この日のために電話でなくわざわざ赴いて予約を入れてくれたとのこと。その際、売り切れの可能性のある部位や裏メニューについてもお取り置きの指示。後から知ったのですが、常連とそうでない客の取り扱いをはっきりと区別しているお店のようです。
生ビールで乾杯。由緒正しき中ジョッキが550円。十番あたりだとほんの3口ぐらいのグラスで700円、みたいなお店が多いので、こういったガブガブ系のビールには濡れてしまう。
焼肉屋は一般的に雑な盛り付けであることが多いですが、当店は実に美的センスに優れています。中タンが4人前にハラミとミノが1人前づつ。「上タンも良いが、普通の感覚ならば中タンで充分満足いくはず」とは常連の言葉。ちなみに塩モノは追加オーダーができない一発勝負なので、熟慮を重ねてから注文しましょう。
焼きは全て常連客にお任せ。持つべきものは肉のプロである。網の真上にダクトはなく、ロースターが煙を吸う仕様です。場面で煙がモクついており、涙が止まらないシーンがありました。お洋服も丸洗いできるものでお邪魔するのが良いでしょう。
大学生ぶりに大ライスを注文。当たり前ですが日によってライスの需給が異なるため、「この前来た時はおかわりNGだったけど、その前に来た時は余ってたのか、普通サイズで大盛りにしてくれた」とのこと。旨い肉を前にして売り切れは切なすぎるので、早めに大ライスを注文しておいたほうが良さそうです。
スペシャリテのタン。当店を訪れるゲストの大半はこちらが目的だと言い切って良いでしょう。見た目は霜降り肉のようであり、時代に逆行するかのような薄切り。しかしながらササっと炙って噛みしめるとまさにタンといった具合のグミグミした食感が楽しめます。

特製の塩ダレはわかり易い味わいで直線的。溢れ出る肉汁がどこまでもジューシーであり、ここまで美味しいタン、いや肉料理はそうはあるまい。
上ミノからは特有の臭みなどが完璧に除去されており、焼鳥のコリコリした部分を食べているかのようにクリア。白眉は裏メニューの塩ハラミ。私はフランス料理原理主義者であり、一般的な成人男性にくらべるとやたらとハラミ(バベットステーキ)を食べる生活を送っているのですが、同じ食材とは考えられないほど柔らかく健やか。どうしてハラミがこんなに柔らかいんだろう。印象という意味では、先のタンよりもコチラのほうが強く残りました。
キムチは中くらい。茄子のキムチってのは珍しい。白菜キムチはニンニクの風味が強く、唐辛子というよりもニンニクが辛く感じました。
炙りユッケ。細かく挽かれた上質な肉を卵黄と混ぜ、銀紙にのせて網の上で炙っていきます。脂と旨味のバランスが良く、生肉原理主義者であれば誰でも大好きな味覚でしょう。
ワカメサラダ。葉っぱとキュウリとワカメだけのシンプルなサラダをゴマ油を主体とした塩だれで調味していきます。素朴な味わいではありますがしみじみと旨い。こういうサイドメニューがきちんと美味しいのは味覚のセンスの良さの現れと言って良いでしょう。
タレは1皿のみで上ロース。これはまあ、よくある人気の焼肉店の上ロースといったところでしょうか。美味しいですが、タン塩ほどの衝撃はありません。脂がとても強いのでオジサンたちはご注意を。
ライスに付帯する玉子スープが地味に旨い。特殊な素材などは入っていないはずなのに、中々どうして後を引く味わいです。ウェイパー的な旨味の強さに玉子のトロトロとした食感。記憶に残った1杯です。「ラー油がたっぷり入った『テグタンスープ』も良いんですが、今夜はこの程度に留めておきましょう」とは常連の談。
デザートは自家製プリン。バニラの風味が強く、欧米系レストランの真面目な甘味に比肩する味わいです。ううむ、当店のシェフ(?)は料理の本質をとらえる術を身に着けている。焼肉屋でなく他のジャンルであっても大成したことであろう。

貴族のように好き放題飲み食いして、お会計はひとりあたり1.3~1.4万円。場末の焼肉屋としては絶対額が高いですが、食べた量ならびに質を考えれば大満足。普通の注文量であれば1万円を切ることでしょう。常連は「今日はタケマシュランが初めてってことで、張り切りすぎた」と苦笑い。しかしその声はどこか得意そうであった。

ちなみに現在の店舗での営業は2019年6月いっぱいまで。数か月の充電期間を経た後、清澄白河方面にリニューアルオープンとのこと。今から行くのが楽しみだ。


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それほど焼肉は好きなジャンルではないのですが、行く機会は多いです。有名店で、良かった順に並べてみました。
そうそう、肉と言えばこの本に焼肉担当として私のコメントが載っています。私はコンテンポラリーフレンチやイノベーティブあたりが得意分野のつもりだったのですが、まあ、自分の評価よりも他人の評価が全てです。お時間のある方はご覧になってみて下さい。

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