小林邦光シェフは「虎ノ門倶楽部」「ハウス・オブ・1999 ロアラブッシュ」などの名店を経て、28歳の若さで地元の平井に当店をオープン。ジビエの調理に定評があり、全国から美食家がジビエ料理目当てで集うことで有名。
酒が安い。グラスのシャンパーニュは1,500円であり、その他のグラスワインも1,000円から始まり、ビールは650円と居酒屋価格です。半量での注文にも気軽に応じてくれ、持ち込みであれば1本3,000円の抜栓料と自由度が高い。
アミューズはカタクチイワシのカナッペ。いわゆる安魚ですがめちゃんこ旨い。雑味がなくクリアな味覚ながら旨味が強い。たっぷりのバターと共に躍動的な1口でした。
前菜はユリネ。岩塩で包んで焼いた後に解体し、トリュフを飾ります。ホックリとした食感に芳醇な甘味。素朴に旨い。
自家製パンが豪華。いずれも穀物の薫りが感じられる逞しい味わいで存在感があります。今次的にはショコラ(カカオ?)入りの真っ黒なパンが好み。甘味のないブラウニーのようで大人の味わい。
ワタリガニのブイヨン。焼かずにボイルのみで抽出したエキス(?)を用いているとのこと。細かな仕様は詳しくないのですが、なるほど一般的なビスクに比べるとクリアな味わいのように感じました。ブロッコリーの白玉がふんにゃりとおっぱいのような優しい食感で名脇役。
手前はカツオの燻製に奥はサバ。それぞれ見た目通りのタフな味わいであり、雄々しい味覚です。10皿近くあるコース料理ながらポーションがドカンドカンと大きいのも大食漢の私には嬉しい。
ワイン選びはソムリエに一任していたのですが、若干の混乱をきたしています。最初に提示されていたストーリーと異なる順序で料理が出されたり、前提として説明された調理と異なる状態で料理を出されたりとアドリブ感が満載なので、じゃあ結局ワインって結局どうしてくれるのよという印象。
ご丁寧に「直前のギリギリまでどう調理するか決めかねていたので」のような解説が付け加えられましたが、そんな裏方のドタバタ劇なんて聞きたくありません。副音声で演者同士の雑談を聞きながら本編を観ているかのような情緒の欠落を感じました。
ウサギとフォアグラのゼリー寄せ。ウサギとは淡白な食材なので仕方ありませんが、どうしてもフォアグラの濃度が勝ってしまいました。結局先のソーヴィニョン・ブランとリースリングが同時並行で供されましたがいずれにもマッチングせず本日一番下がった瞬間です。
ハマグリとムール貝の冷製。これはシンプルな調理で素材の良さが上手に引き出されており文句なしに美味しい。特にハマグリのグニグニとした食感と屈託のない味覚には心躍りました。
ジビエのコンソメスープ。鴨だけで取った、シンプルながら奥行きのある液体です。その香りの豊かさと味覚の複雑性はもちろんのこと、飲み込んだあとの引っ掛かりというか、舌や唇にテロっと残る感覚が堪りません。鴨のミートボールも猛々しい味わいでグッド。
白身魚は左から甘鯛、舌平目、ハタ。恐らくは蒸しただけの単純な調理ですが神がかり的イな温度帯です。瑞々しい食感を残しながらフワフワと口の中で膨らむ。こんな魚の料理は中々ない。身が厚い分、甘鯛での跳躍が目に留まりました。後述のジビエは期待通りの味わいとして、意外性をスコープに入れるのであれば本日一番のお皿です。
他方、ワイン選びならびに接客態度については首を傾げる場面が多々ありました。「半端ない」「ミラクル」などのように、およそ高級フランス料理店に似つかわしくない俗語が頻出し、ボキャブラリーが貧弱に感じます。加えて客の会話に無遠慮に割り込んで入り、その割には発言内容がまとまっていない。何を聞きたいのがわからない新入社員を相手にしているような徒労感があり、サンドウィッチマンであれば「ちょっと何言ってるかわからない」と評されることでしょう。初対面であるのに「~さん」と馴れ馴れしく名前で呼ばれるのも私は好きじゃないのですが、まあそれは私の心が狭隘なだけかもしれません。
真打登場、フランス産青首鴨のローストです。これがベストな舌触りと噛み応えだと設計されたスライスの薄さが素晴らしいですね。肉の逞しさを感じつつも決していやらしくない食感。ソースはもちろんサルミ(内臓を用いた赤ワインソース)なのですが、ビジュアル以上にスイスイと食べ進めることができました。
ワインはなぜかバローロ。もちろんワインの実力は認めますが今ここで飲む必要あるのかなあと不思議に感じていると「たまたま良いバローロがグラス用で開いていたので」と、全く論理的でない回答が返ってきました。うーん、もうちょっとロマンティックな説明があっても良いと思うのですが。もちろんスタッフに悪気は無く、ちょっとポンコツ気味で愛されキャラなだけだとも言えます。
続いて青森県産野兎のロワイヤル風とラーブルのロティ。こちらもスライスの加減が絶妙であり、かなりの熟成を経ているはずなのに実にマイルドな口当たりです。ジビエの名店でありながら初心者にも優しい。左上の円柱状のものには内臓盛りだくさんといった強烈な味覚に右上のマロンのピュレ、ならびにトリュフの薫りが上手に寄り添う。
付け合わせにはパスタにタルト、キノコなど。先のソースをたっぷりつけて余韻を余すことなく楽しみます。
デザートにはフォンダンショコラをチョイス。ブランデーがきいており、カカオのビターな味わいと相俟って大人の味わいです。ココナッツ風味のアイスがちょうどいい具合に中和してくれるのもすごくいい。
連れはリンゴのタルトを選択。アミューズのカタクチイワシに始まり相当な皿数とその量のはずですが、最後の最後まで容赦ないポーションです。やっぱりフランス料理はこうでなくっちゃね。
小菓子も手が込んでおり、とりわけゴボウの風味のきいたわらび餅に心を打たれました。これは小菓子という立場に甘んじることなく、デザートに昇格させてしっかりと食べたい欲望に駆られます。
なるほど「ジビエと言えばコバヤシ」と評価を得た理由がわかりました。ジビエ料理については日本、いや世界最高レベルの味わいです。加えてその他の料理、例えば蒸した魚や貝の調理についても記憶にしっかりと刻まれ、ジビエと言わずクラシックなフランス料理という意味で、東京の訪れるべき名店のうちのひとつと言って良いでしょう。異常に皿出しのテンポが悪くなる場面もあり、まあ、長いコース料理ですからそういうこともあるのかもしれません。
関連記事
「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン
- ナリサワ ←何度訪れても完璧
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある
- ル・マンジュ・トゥー(Le Mange-Tout)/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- キャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレ ←世界を狙える日仏料理
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事