ニューヨークで、いやアメリカで最も有名なステーキハウスと言って良いでしょう。1887年にブルックリンで創業した「ピーター・ルーガー(Peter Luger)」。日本のステーキ業界を席巻したウルフギャングやベンジャミン、エンパイアなどのステーキハウスのルーツは全てピーター・ルーガーにあります。
マンハッタンの中心地から電車と徒歩で小一時間。ブルックリンはウィリアムズバーグという最近流行のスポットに位置します。元々は治安の良くない地域だったそうですが、オシャレの力は犯罪すら撲滅するのだ。
13:45というヘンな時間での入店ですが、店内は芋の子を洗うような大混雑。基本的には予約が必要なレストランなのですが、ウォークイン(予約なし)で入ってバーで飲みながら待つ作戦の人々も多いようです。私はニューヨーク在住の連れが「死ぬほど電話した」おかげで楽勝マンで入店。
古いビアホールのような店内。冷静に見ればシックな店内だと思うのですが、ゲストの衣装がどこまでのカジュアルなので、雰囲気までそう見えてきます。「やっぱりマンハッタンのステーキハウスとは違うなあ。あっちはビジネスマンだらけで、会食みたいに使われることが多い。ここは本気で肉が好きそうな人がいっぱい集まってるもん」
我々のテーブルを担当するスタッフは70に手が届きそうなほどのおじいさん。「あれ?こちらにいらっしゃるのは初めてですか?どちらから?へぇ〜、完全に発音がニューヨーカーですね」感心するように頷いてテーブルから下がっていく好々爺。確かに彼女は純ジャパであるはずなのに、驚くほど英語の発音が良い。
店名を関したPB(?)のビールで乾杯。「うーん、発音、いいかなぁ?仕事では本当に苦労してるけどね。こっちの人たち、メールじゃなくって電話で物事を解決したがるから」そこには謙遜のニュアンスはなく、心から困った、という表情で、彼女は整った眉根を寄せる。
後続の肉塊に敬意を払って、パンには一切手をつけず。もちろんロスすることはなく、ぜーんお持ち帰りにしてもらいました。
「もちろん上司はあたしのこと、英語が母国語じゃないってことは理解してくれてるんだけど、フランス人とかイタリア人とか、他の英語を母国語としない西欧人に比べて、どうしてこんなに英語にできないのか不思議がるのよね」
レタス・ベーコン・ブルーチーズのサラダ。見た目通りの雑な味わいのサラダですが、アメリカのステーキハウスの料理とはこういうものである。
「西欧人は英語が母国語じゃないって言っても、もともとアルファベットの世界で生きてきたでしょ?漢字とひらがなで育ってきたあたしと比べられても辛いわけ。じゃあ君たち日本に来て中国人と同じスピードで日本語学べるの?って言いたい」彼女は唇を嚙んで悔しそうに言う。
スペシャリテの「ポーターハウス・ステーキ(STEAK FOR TWO)」がやってきました。ポーターハウスとは、いわゆるTボーンステーキのことであり、フィレとサーロインの両方が味わえる嬉しい一皿。素材は米国農務省(USDA)の格付けによる最上級のプライムビーフ。それを独自の技法で熟成させ、旨味や香り、柔らかさが増す工夫がなされています。
「ねえ、さっさと写真撮ってよ。こっちはおなかペコペコなんだから」彼女はニューヨークに住むようになってから、随分と物言いが直截になってきた。
「熱いよ!熱いよ!お皿に触らないで!」軽快なフォークさばきで我々の皿に肉を取り分けるスタッフ。なにしろ当店の調理の仕上げは、肉にバターを載せて皿ごと焼き上げるのです。
サイドメニューは全ておじいさんのオススメに従いました。こちらはジャーマンポテト。味の濃いジャガイモを、ホクホクを通り越してガリガリに焼き揚げています。ジャンクな味で、日本人であれば99%が好きな味でしょう。
こちらも定番のクリーム・スピナッチ。見かけは少々グロいですが、大人の離乳食もしくは温かく塩気のあるスムージーといった風味であり、クセになる味わいです。
さて、スタッフによる取り分けが完了しました。肝心のお肉の味わいですが、直線的に旨いと感じられる仕様です。表面はザクっとした食感ながら、中心部はツヤツヤとした噛みごたえ。赤身のはずなのにどこからか溢れ出る肉汁が絶妙。噛めば噛むほど旨味が出る。これは、旨い。私は肉料理全般につきそれほど詳しいわけではありませんが、そういった予備知識を必要としないほど、直感的に美味しいステーキです。
肉はおそらく500グラムはあったでしょう。サラダとサイドメニューを完食した我々の胃袋には立錐の余地もありません。店員はニコニコと微笑みながら、食べきれなかった肉を骨や肉汁と共に袋に詰め(色々漏れない仕組みになっている)てくれました。
お会計はチップ抜きで194.61ドル。チップを込めてもひとりあたり1.2〜1.3万円で済む計算です。ううむ、これはリーズナブルですねえ。日本でちょっとしたステーキを食べればすぐに何万円もすることを考えると、やはり肉はアメリカで食べるべきだなと決心してしまう。ちなみにクレジットカードは一切使えないのでお気をつけて。
「ニューヨークって物価高くてさ。ランチはテイクアウトで15ドル、座って食べれば25ドル。夜も安いレストランですら100ドルは超えてくる。友達とゴハン食べて、2次会行ったらそれだけで3万円近くが飛んでいくの。そう考えればこの店は良心的だよね」アメリカ最高峰のステーキを腹いっぱい食べ、お土産まで持って帰ってこの価格。ニューヨークを訪れるたびにお邪魔しようと心に決めた瞬間でした。
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- トラットリア グランボッカ/飯田橋 ←サイドメニューはイマイチだけど、肉がとにかく旨くて安い
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- ルビージャックス/六本木一丁目 ←店員と恋に落ちるステーキ
- BLT STEAK ROPPONGI/六本木 ←噛み締めるたびにミートの旨味がぽぽぽぽーん
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