ピーター・ルーガー(Peter Luger Steak House)/Brooklyn(NY)


ニューヨークで、いやアメリカで最も有名なステーキハウスと言って良いでしょう。1887年にブルックリンで創業した「ピーター・ルーガー(Peter Luger)」。日本のステーキ業界を席巻したウルフギャングベンジャミンエンパイアなどのステーキハウスのルーツは全てピーター・ルーガーにあります。
最近では、日本で「ロウリーズ」や「ユニオン・スクエア・トウキョウ」、「バルバッコア」などを展開するワンダーテーブル社がライセンス契約し、2020年までに東京への出店が決まりました。
マンハッタンの中心地から電車と徒歩で小一時間。ブルックリンはウィリアムズバーグという最近流行のスポットに位置します。元々は治安の良くない地域だったそうですが、オシャレの力は犯罪すら撲滅するのだ。
13:45というヘンな時間での入店ですが、店内は芋の子を洗うような大混雑。基本的には予約が必要なレストランなのですが、ウォークイン(予約なし)で入ってバーで飲みながら待つ作戦の人々も多いようです。私はニューヨーク在住の連れが「死ぬほど電話した」おかげで楽勝マンで入店。
古いビアホールのような店内。冷静に見ればシックな店内だと思うのですが、ゲストの衣装がどこまでのカジュアルなので、雰囲気までそう見えてきます。「やっぱりマンハッタンのステーキハウスとは違うなあ。あっちはビジネスマンだらけで、会食みたいに使われることが多い。ここは本気で肉が好きそうな人がいっぱい集まってるもん」
我々のテーブルを担当するスタッフは70に手が届きそうなほどのおじいさん。「あれ?こちらにいらっしゃるのは初めてですか?どちらから?へぇ〜、完全に発音がニューヨーカーですね」感心するように頷いてテーブルから下がっていく好々爺。確かに彼女は純ジャパであるはずなのに、驚くほど英語の発音が良い。
店名を関したPB(?)のビールで乾杯。「うーん、発音、いいかなぁ?仕事では本当に苦労してるけどね。こっちの人たち、メールじゃなくって電話で物事を解決したがるから」そこには謙遜のニュアンスはなく、心から困った、という表情で、彼女は整った眉根を寄せる。
後続の肉塊に敬意を払って、パンには一切手をつけず。もちろんロスすることはなく、ぜーんお持ち帰りにしてもらいました。

「もちろん上司はあたしのこと、英語が母国語じゃないってことは理解してくれてるんだけど、フランス人とかイタリア人とか、他の英語を母国語としない西欧人に比べて、どうしてこんなに英語にできないのか不思議がるのよね」
レタス・ベーコン・ブルーチーズのサラダ。見た目通りの雑な味わいのサラダですが、アメリカのステーキハウスの料理とはこういうものである。

「西欧人は英語が母国語じゃないって言っても、もともとアルファベットの世界で生きてきたでしょ?漢字とひらがなで育ってきたあたしと比べられても辛いわけ。じゃあ君たち日本に来て中国人と同じスピードで日本語学べるの?って言いたい」彼女は唇を嚙んで悔しそうに言う。
スペシャリテの「ポーターハウス・ステーキ(STEAK FOR TWO)」がやってきました。ポーターハウスとは、いわゆるTボーンステーキのことであり、フィレとサーロインの両方が味わえる嬉しい一皿。素材は米国農務省(USDA)の格付けによる最上級のプライムビーフ。それを独自の技法で熟成させ、旨味や香り、柔らかさが増す工夫がなされています。

「ねえ、さっさと写真撮ってよ。こっちはおなかペコペコなんだから」彼女はニューヨークに住むようになってから、随分と物言いが直截になってきた。
「熱いよ!熱いよ!お皿に触らないで!」軽快なフォークさばきで我々の皿に肉を取り分けるスタッフ。なにしろ当店の調理の仕上げは、肉にバターを載せて皿ごと焼き上げるのです。
サイドメニューは全ておじいさんのオススメに従いました。こちらはジャーマンポテト。味の濃いジャガイモを、ホクホクを通り越してガリガリに焼き揚げています。ジャンクな味で、日本人であれば99%が好きな味でしょう。
こちらも定番のクリーム・スピナッチ。見かけは少々グロいですが、大人の離乳食もしくは温かく塩気のあるスムージーといった風味であり、クセになる味わいです。
さて、スタッフによる取り分けが完了しました。肝心のお肉の味わいですが、直線的に旨いと感じられる仕様です。表面はザクっとした食感ながら、中心部はツヤツヤとした噛みごたえ。赤身のはずなのにどこからか溢れ出る肉汁が絶妙。噛めば噛むほど旨味が出る。これは、旨い。私は肉料理全般につきそれほど詳しいわけではありませんが、そういった予備知識を必要としないほど、直感的に美味しいステーキです。
肉はおそらく500グラムはあったでしょう。サラダとサイドメニューを完食した我々の胃袋には立錐の余地もありません。店員はニコニコと微笑みながら、食べきれなかった肉を骨や肉汁と共に袋に詰め(色々漏れない仕組みになっている)てくれました。
お会計はチップ抜きで194.61ドル。チップを込めてもひとりあたり1.2〜1.3万円で済む計算です。ううむ、これはリーズナブルですねえ。日本でちょっとしたステーキを食べればすぐに何万円もすることを考えると、やはり肉はアメリカで食べるべきだなと決心してしまう。ちなみにクレジットカードは一切使えないのでお気をつけて。

「ニューヨークって物価高くてさ。ランチはテイクアウトで15ドル、座って食べれば25ドル。夜も安いレストランですら100ドルは超えてくる。友達とゴハン食べて、2次会行ったらそれだけで3万円近くが飛んでいくの。そう考えればこの店は良心的だよね」アメリカ最高峰のステーキを腹いっぱい食べ、お土産まで持って帰ってこの価格。ニューヨークを訪れるたびにお邪魔しようと心に決めた瞬間でした。


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