ベンジャミン・ステーキハウス(Benjamin Steakhouse)/Midtown(NY)

東京ミッドタウンにほど近い場所にオープンし、日本進出を果たした「ベンジャミン・ステーキハウス(Benjamin Steakhouse)」。もともとは世界最強のステーキハウス「ピーター・ルーガー」のマネージャーとシェフが2006年に独立したお店で、本店はマンハッタンのミッドタウン、グランドセントラル駅近くにあります。数軒隣に「いきなりステーキ」があるのが何だかわろてまう。
2階に通されて驚き、客の全員が日本人でした。たまたまなのか意図があるのか事情は不明ですがそのハッキリした区分は何となく違和感。これなら六本木店と雰囲気はそう変わらないジャマイカ。
ドリンクメニューに記載はありませんでしたが、地元のビールはあるかと問うと胸を張って提供されました。口頭でベラベラと説明されたので詳しくはわかりませんが、おそらくIPA。ホップの香りが豊かで美味しかった。

「なんとなく東京は変な方向に行っているんじゃないか、って思うのよ」彼女は新種の伝染病を発見した科学者のように言う。
パン類は中々に美味しそうなのですが、後の肉塊のために手を付けずにおきます。

「東京の女の子ってさ、追いかける方向が全部一緒でしょう?必修科目が決まっている。それじゃあ、何でもインフレしちゃうよね」それは予約の取れないレストランについても言えるけど。彼女は小さなため息と共に言った。
アメリカ人に人気のリブアイを注文。私の手のひら5枚はありそうなボリューム感。骨を除いた可食部だと300グラムほどでしょうか。しっかりと熟成させた牛肉をこの量で55ドルというのはそれなりにお買い得かもしれません。

「こっちに来て、価値観は全然変わったなあ。物欲が全然無くなっちゃった。誰も高級ブランド品なんて欲しがらないし、そういうことを煽るメディアも存在しない。『お金持ちのご自宅拝見!わー!バーキンが4つもあります!』だなんてバカみたい。そのかわり、健康法とか、フィットネスとか、レストラン情報の発信は活発ね。ある意味、人間の本質に関わることに興味が向いているのかも、こっちの人は」
やや脂は多めながらも上手く熟成されているからか肉の旨味をしっかりと感じることができ、見た目ほどにクドくはありません。噛みしめるほどに味が引き出され、また、表面の焦げた香りも食欲をそそります。

「それに、そもそも他人に興味が無いから、互いが互いの価値観に干渉しなくて、みんな、自分の好きなことに突き進む傾向があるよね。そこらへんで楽しそうにダンスしてる子たちなんてまさにそう。東京でイケてる女子になるには大まかなテンプレートを理解する必要があるんだけど、NYではそれが全く通じない」
テーブルに予め置かれているステーキソースは幼稚な味。いわゆる市販品のそれに近く、せっかくの肉の風味を台無しにしてしまいました。色々と勿体無いので塩コショウのままで食べるのが良いでしょう。

「この前アリゾナに行ってきたんだけど、ほんと感動してさ。心から感動することって人生そうないじゃん?でもその旅行って、大してお金、かかってないわけよ。記憶に残る感動にお金なんて必要ない。女の子たちはお金持ちに養ってもらう必要なんて全然ない」わかるでしょう?と彼女は自らに確認するように私に尋ねる。
アスパラガスは15ドルと一見高く感じますが、これだけ立派なアスパラが6本も用意されるのであれば、リーズナブルにも感じてきました。緑の味がことさらに濃く、雑な調理ながらも説得力のある美味しさです。

「あなたは良いセン行ってると思うよ」彼女はニヤりと笑いながら続ける。「JFKから地下鉄乗り継いでやってくるファーストクラス客なんて、あなたぐらいよ。笑っちゃった。でも、すごくあなたらしくもある。あなたのそういうところ、好きよ」私としては渋滞で時間が読めなくなるのが嫌なだけなのですが、なかなかどうしてこういった吝嗇家っぷりもウケる女子にはウケるようです。
お会計はひとり100ドル。同じクオリティとブランドの料理を東京で食べれば倍以上かかることを考えれば中々の費用対効果です。もちろんメチャクチャに美味しくて絶頂に達する料理かと問われると全然違いますが、まあ、ステーキとはそういう料理である。

2階に日本人が追いやられていると言っても、店員の親切でキビキビとした対応は変わらず、むしろ東京の調子に乗ったステーキハウスのバイトだちよりも数倍まごころを感じました。恐らくは日本語ができるスタッフが2階に詰めているとかそういう理由なだけかもしれません。支配人も分け隔てなく挨拶にまわって来てくれます。

ちなみにトイレには手を拭く紙を渡す職人が常駐しており、用をたすだけでチップを渡す必要性に迫られます。密室でオシッコが終わるのをじっと監視され、手を洗ったそばからまたお金を触るのってなんかやだ。


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