TACUBO(タクボ)/代官山

田窪大祐シェフは広尾「アロマフレスカ」などの名店で修業を重ねた後、「リストランティーノバルカ」を開業。恵比寿移転時に「アーリアディタクボ(Aria di Tacubo)」とし、2016年「TACUBO」として代官山の住宅街にリニューアルオープン。ミシュラン1ツ星。
当店の目玉は開放暖炉 (写真は公式ウェブサイトより)。もともと現代イタリアンの旗手として評判が高かったシェフに「薪焼き」という武器が加わり鬼に金棒。ちなみに本場イタリアでは薪でお肉を焼く店が多い。薪火は生木を燃やすため水分を含み、炭火やガス火よりも風味よく仕上がるそうな。
グラスのフランチャコルタで乾杯。「予約ありがとね。ココ、あたしが一番来たかったお店だからホント嬉しい」ちなみに当店はイタリアンとしては最高峰に予約が取りづらく、予約開始時刻に鬼電し続けてようやく手に入れたプラチナシート。しかしながら遅い開始時間であればネットで予約できることもあるので諦めないで!
宴が始まるまではアンチョビを詰めたオリーブで場を繋ぐ。このオリーブが地味に旨い。後述しますが、当店は素材の質が抜群ですね。薪焼きに目が行きがちですが、当店の最大の美点は素材ではないかと睨む。
前菜に馬肉。まさに素材というべきごくごくシンプルな調理。筋肉質の赤い味であり雑味などは一切ありません。
ペアリングは7杯で1万円と悪くない価格設定ですが、「あたし、そんなに飲めるかなあ」とおっかなびっくりだったので、ボトルの赤1本で通すことにしました。ボトルワインも6千円台から用意されており、この手のレストランとしては親しみやすい。
ヤリイカ。最上のイカをガガっと焼いて、平明に調味。イカのブチっとした食感に、ぬらぬらとした甘味が堪らない。菜花の仄かな苦味が味覚に彩りを添え、何だよ薪焼き以前にイタリアンとして超うまいじゃん。
パンも見た目からして美味しい。食パンを凝縮したようなスタイルであり、外皮の香ばしい風味が食欲をそそる。
北海道の「王様しいたけ」。今川焼のような特大のシイタケにじっくりと火を通した一皿。表面が若干揚がっているのか、カリっとした食感にむっちりとした弾力。キノコそのものの味が濃く、細かく包丁が入った石づき部分などもう絶品。
パスタを挟みます。オイルベースのシンプルな味付けに釜揚げシラスとカラスミ。これはもう、文句なしの味わいですね。シラスの複雑な苦味にカラスミの輝かしい旨味。パスタの茹で加減も完璧であり、小麦そのものの旨さすら伝わってきます。パクチーの香りも程よいアクセント。何ともセンスの良い1皿でした。
リゾットには米だけでなく大麦も加えられており、食感の変化が楽しい。濃厚ながらも全くしつこくなく、むしろ軽くすら感じられる味わい。素揚げしたネギの風味が香ばしく、トリュフの高貴な香りに陶然とする。おかわりしたい。
メインは「十勝田くぼ牛」。シェフにとっての理想の肉を、北海道の畜産家と二人三脚で完成させた作品。赤身一辺倒ではなく程よく脂が加わった何ともバランスの良い肉質です。まるで揚げたかのようなクリクリとした食感の表面が香ばしく、適度な噛み応えの肉からは実にジューシーな脂が流れ込み、噛みしめる程に肉の旨味が滲み出ます。

私は普段、肉について多くを語ることは少ないですが、この肉は自分的に凄くツボです。低温調理やら何やらヤヤコシイ調理とは一線を画し、極めてプリミティブに、直感的に旨い。量もたっぷり。メインの肉料理でここまでテンションの上がる料理は珍しい。本日一番のお皿でした。
付け合わせにマイクロリーフ。肉表面の心地よい苦味に寄り添う緑の苦味です。調味は酸味主体でサッパリと。迫力のある肉料理で圧倒された口腔内をリセットする名脇役です。
〆の炭水化物はボロネーゼ。サローネよろしくグラム数を自由に指定できます。大食いの私はこの場面で80グラムを指定。実際にご対麺すると思ったよりもボリューム感があり、普通に一食です。これが、旨い。余計な調味などはされず、肉の旨味と甘味で押してくる。パスタというよりも肉を食べているかのような錯覚にとらわれ、赤ワインが実によく合う。

連れは30グラムと可愛らしいポーションでしたが、あまりの満腹さ加減で気を失いそうになっていました。コース全体の総量が大きいため、普通の女の子であればパンは控えめ肉も一切れプレゼントぐらいのノリで臨んだ方が良いでしょう。
口直しにブラッドオレンジとその氷菓。まさに口直しとも言うべき潔い味わい。
デザートはミルクのジェラート。こちらも素朴に美味しいですねえ。こんもりとした特大のポーションに凝縮に凝縮を重ねた濃密な乳の風味が堪らない。それていて軽くエアリー。すりおろしたピスタチオも実に良い香りを奏でます。
焼きたてのフィナンシェは人生最大級の美味しさ。小麦からバターに至るまで素材の風味がいちいち活きており、なんともジューシーで心に残る。そこらの菓子屋で売られている冷めたパック詰めのそれとは丸っきり別物。
目の前で丁寧に淹れられるコーヒーも抜け目ない美味しさでした。

いやあ、予約が取れない理由がわかりました。この店は、凄い。赤坂「キッチャーノ」のように肉を前面に打ち出したイタリアンや、赤坂「ヴァッカロッサ」元町「bb9(ベベック)」のように薪焼きを試みるお店はありますが、それらと比べても当店は段違いの完成度を誇ります。加えてお会計はひとり2万円と少しとリーズナブルなことこの上ありません。

ポイントは二番手の存在でしょう。シェフは基本的に肉の火入れにつきっきりであり、他の料理の一切合切を人に任せています。その権限移譲された二番手が相当の手練れであり、彼が繰り広げる料理が実に素晴らしい。私は小心者であり仕事を人に任せられないタイプであるため、シェフのその度量の大きさに感銘すら覚えました。

その他の従業員は若い男子が殆どであり、まだまだワタワタとした印象が拭えず、そういう意味ではキメのデートで訪れるお店ではないかもしれません。イタリアンをそれなりに食べ込んだグルメ仲間とカウンターで食べるのが一番楽しいでしょう。オススメ!


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。

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