エスタシオン(Estación)/神楽坂

神楽坂の裏路地の石畳の階段。都内にはこの街ぐらいであろシチュエーションに気分がアガります。その階段中腹にある、知っていないとまずたどり着けないスペイン料理屋がここ「エスタシオン(Estación)」。店名はスペイン語で「季節」を意味します。ミシュラン東京ビブグルマン3年連続掲載の実力派。
カウンターが6席にテーブルが数卓の小さなお店であり、まあ、食にうるさそうな大人しかいません。野堀貴則シェフは余計なことは喋らずに料理で語り掛けてくる実直な職人肌。肌が実にキレイであり、コンセプトの「野菜を使ったスペイン料理とロゼワイン」に妙な説得力を持たせます。料理人としてのキャリアをイタリアンからスタートし、銀座のスペイン料理店「エル・セルド」から神楽坂の「エル・プルポ」「エル・ブエイ」のシェフを経て独立。
号砲はカヴァ。料理は4,500円4品軽めのコースと6,000円6品しっかりコースの2種。当店はバルのようなカジュアルな雰囲気ではありますが、きちんとした料理を出すお店であるため、支払金額もそれなりに高くなるのでご注意を。遅い時間であればアラカルトにも対応してくれるとのこと。
名刺代わりに差し出されたのはリエットとバナナが入った最中。これはセンスいいですねえ。パリっとした食感を楽しんだ後はネットリとしたバナナの舌ざわりに旨味の強い肉が響いてくる。ここのところ最中に恵まれたライフスタイルです。
前菜が斬新。エゾジカと豚肉と鶏レバーを用いた肉のテリーヌなのですが、トッピングとして火を入れたホタルイカが乗っています。旨味の強い動物に旨味の強い魚介。この合わせ技はカタルーニャ地方特有のものらしく実に酒が進みます。
続いてはスープ料理。と言っても具沢山の腹に溜まるタイプです。はっきりとしたコクのあるトロリとしたスープに滋味あふれる野菜。トップを飾るのは千葉産の特大ハマグリ。野菜が心から美味しいですねえ。こういう料理を毎日自宅で食べたいものです。勝間和代に倣ってホットクック買おうかな。
料理に合わせてコクのある白。料理についてはワンオペでありてんやわんやの忙しさであるはずなのに、合わせるワインについてはしっかりと説明する拘り。スペインワインに対する愛情を感じました。
自家製のパンが出てきました。カウンター主体のスペイン料理屋で自家製のパンが出てくるのは世界的に見ても珍しいほうではないでしょうか。少なくともビルバオやサンセバスチャンでハシゴしまくった際に、そのようなお店は一軒もありませんでした。「しばらく前に見よう見まねで作ってみたら大失敗しちゃって。それからムキになって細々と焼き続けています」と、凝り性のシェフ。
メインはイベリコ豚。私はイベリコ豚は生ハムで食べるのが一番という偏見があるのですが、当店のそれは脂が薄くバランスが良いままに香りが豊かであり美味しく頂けました。ここのところイベリコ豚に恵まれているなあ。加えて下に敷かれた野菜たちが乙な味であり、やはり当店においては野菜がその地位を主張しています。シンプルな調理ながら奥行きのある1皿でした。
合わせるワインは日本のロゼ。ナリサワでよく出てくるアレですね。店主はソムリエの資格も保有しており、そのワイン選びはスペインに留まらず自由自在です。
いかにも魔女が使っていそうな鉄鍋で料理する米料理。スペイン流の本格的な米料理を食べるのは銀座のアロセリア・ラ・パンサ以来です。フレーバーはイカスミをリクエスト。魚介の味がべらぼうに濃く、濃縮に濃縮を重ねた味わい。貝の出汁を始めとした海の幸が詰まっており、〆というには勿体ないほどの完成された料理でした。翌日のうんうんがブラックでめっちゃビビります。
デザートは2種の用意があるとのことだったので、ひとつづつ注文して半分こ。最近流行りのバスク風チーズケーキ。日本においてはクレマカタラナやプリンのようなプルンプルンした食感のものが主流ですが、当店のそれはチーズの含有量が多いのか、ネットリとした食感で食べ応えがあります。それにしても、「バスク風チーズケーキ≒貧困層」という図式が私の脳内で出来上がっているので思い出し笑いしてしまう。
こちらはオレンジ主体の1皿。たっぷりの果肉にジュレ、泡泡。酸味がしっかりと響くのですが、眉を顰める酸っぱさは一切なく、果物の旨味が感じられる味覚です。シェリーで作ったアイスも心憎い演出。

全体を通して何を食べているのかが理解し易い、ストレートな料理でした。はっきり言ってスペインの3ツ星レストラン、例えばアルサックムガリッツアケラレなどの料理よりも全然美味しい。もちろん芸風が異なり同じ土俵で語るべきではないのかもしれませんが、やはり私は郷土愛に溢れた素材が伝わる料理が好きだ。


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麻布十番と同様、小さな街ながら魅力的なレストランが数多ある神楽坂。この街で生活を送れば充実した食生活になること間違いなし。一度住んでみたいです。
神楽坂に特化したグルメ本は以外と少ない。本書はモテたい人向けの飲食店情報が中心。高級店やバーなどの紹介が多く、神楽坂らしさが凝縮されています。グラビアの田中みな実の雰囲気が妙にマッチしてる。