てんぷらと和食 山の上 本店/御茶ノ水

神田駿河台の高台に位置する日本屈指のクラシックホテル「山の上ホテル」。名称はGHQ接収時代にアメリカ軍人の間で愛称になっていた「Hilltop」が起源とのこと。
独特のアットホームなサービスが評判を呼び、出版社の密集していた神田に近いことと相俟って、作家のカンヅメ(執筆促進目的で軟禁すること)場所として、川端康成、三島由紀夫、池波正太郎、伊集院静ら多くの文人に利用されてきました。
当店はこのホテルのメインダイニング。同名の看板で都内に3店舗を展開し、また十番の天ぷらの名店「てんぷら前平」のシェフは当店の料理長でした。
当然に超がつくほどの高級店ですが、ランチは幾分お値段控えめ。天丼は税サ別で3,600円~と、格の割には悪くないディールです。コース料理だと1万円を余裕で行くのでご注意を。
天丼。才巻海老が3本に野菜(インゲン?)が1本、キスが1匹にかきあげという陣容です。タレは辛口か甘口かを選択できるので、私は辛口をチョイス。

エビは小ぶりながらも弾力のある固体であり、程よく水分が抜けて凝縮感あり。他方、野菜は特に記憶に残らず。ライスは中の上。そこらの定食屋よりは格段に美味しいですが、極上の和食店のそれに比べると見劣りする。タレは辛口というだけあって刺すような醤油の塩味が感じられます。
奥に隠れていたキスとかきあげ。キスは良く言えば清澄、悪く言えばプレーンであり、一般的な味わい(キスを食べる度に「天冨良よこ田」の顔が思い浮かんでしまう)。かきあげは抜群に旨い。ぶつ切りされた海老がこれでもかというほど詰め込まれており、体感的には先の海老天5本分ぐらいの食べ応えがあったような気がします。
シジミの赤出汁。シジミも赤出汁も双方文句なしに旨いのですが、いずれも実に濃厚な味覚であり、共に食すと味覚の複雑性が大きすぎて、風味がケンカしてしまっているように感じました。
お漬物のクオリティはさすがの一言であり、トップ・オブ・トップの味わいです。先のかきあげが瞬間最大風速として最もアガりはしましたが、冷静に考えると素材に頼りすぎているきらいがあり、本日一番のお皿という意味ではこのお漬物だったかもしれません。
お会計は税サを含めると4,276円。うーん、ちょっと割高かなあ。もちろん天ぷらとは費用対効果の良くないジャンルではあるので、そのことを加味すれば妥当なのかもしれませんし、天丼としては最高峰に位置づけても良いレベルではあります。でも、ランチでこの金額となると、より満足度の高いお店は他にあるよなあという印象。ある意味ディナーできちんとしたコースを食べたほうが納得感は高いのかもしれません。


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天ぷらって本当に難しい調理ですよね。液体に具材を放り込んで水分を抜いていくという矛盾。料理の中で、最も技量が要求される料理だと思います。
てんぷら近藤の主人の技術を惜しみなく大公開。天ぷらは職人芸ではなくサイエンスだと唸ってしまうほど、理論的に記述された名著です。スペシャリテのさつまいもの天ぷらの揚げ方までしっかりと記述されています。季節ごとのタネも整理されており、家庭でも役立つでしょう。