ウェイティングバーが見事。都内のレストランでここまでキッチリとウェイティングとダイニングを分けているレストランはそう無く、オーナーの並々ならぬ決意が滲み出ています。ワインバー使いであればチャージ料やサービス料は不要とのこと。
白を基調としたダイニングエリアは40席ほど(写真は公式ウェブサイトより)。サービス陣はいずれもベテランといった趣であり、とても気持ちよく過ごすことができます。中にはチープロのバッヂを付けた方もおり、ミモレットをジロールで削るプレゼンテーションも披露していました。
千葉尚シェフは「レスペランス」「オーベルジュ・ド・リル」「タイユバン」などフランスの名だたるグランメゾンで研鑽を重ね、日本においても「エディション・コウジ シモムラ」「アクアヴィット」など私のタイプなお店での活動が続くので、食べる前からこのお店は好きだろうと、確信めいた期待を持ちながら席に着きました。
酒は絶対値が高め。もちろんこの格のお店としては当然の価格設定ですが、ランチ4,500円のコースに泡1本12,000円を合わせるのはバランスが悪い。なので私は「馨和(KAGUA)ブラン」という、世界的に評価も高い日本のクラフトビールを注文。やはり美味しいですねえ。華やかな香りにクリーミーな舌ざわり。ヘタなワインよりも全然旨い。
前菜はキャッサバを焼いたシュー生地のようなものに生ハムをトッピング。キャッサバなんて地理の教科書以来です。今あなたが想像しているようなわかり易い味わいでアミューズに最適。脇のパルミジャーノ(?)をパリパリにした板も旨味が強くグッドです。
マリネしたサーモンに少し火を入れ、季節の野菜をトッピング。シンプルですが美味しいですねえ。サーモンの甘味と野菜の苦味のコントラストが凄く良い。盛り付けも美しく、やはり見た目が美味しい料理は味も美味しいものである。
ほろほろ鳥のモモ肉、ムネ肉、レバーなどをパテにしたもの。パテそのものの味は間違いなく良いのですが、各部位の構成要素がバラバラと崩れてしまい、もう少し挽いて一体的になったもののほうが私は好き。エンドウの火入れ絶妙。しっかりと火は通っていながらもシャクっとした噛み応えは残る、心に残った付け合わせでした。
続く豚肉も視野に入れてオーストリアの赤。思っていたよりも濃厚で骨格のある味わい。これがグラス1,200円ってのは実にお買い得。
千葉県のオリヴィアポークとムール貝。動物系と魚介系を取り合わせるのはラーメン業界を除いて珍しい試みですが、ユーモラスな味わいで良かったです。ムール貝のプックリとした食感と磯の香りをまず楽しみ、続いて豚肉の清澄で筋肉質な味わいに淫する。酸味のきいたソースはニューノルディック仕込みといったところでしょうか。
パンにもムッチリとした味わいがあり、素朴ながら本格的な味覚を楽しむことができます。フランスのレストランに出てくるそれにベクトルは同じ。料理に寄り添いつつも存在感のある、美味なるパンでした。
デザートは春菊のアイスに柚子のクリーム。昨今の時代精神を反映した甘味と言えましょう。トップの乾燥した春菊はパリっとした食感で素晴らしいアイデア。春菊のアイスは思っていたよりもマイルドな味わいであり、もっと苦味をきかせるのもアリかもしれません。他方、柚子のクリームはきちんと柚子柚子した風味が感じられ、この長い長い下り坂を君を自転車の後ろに乗せてブレーキいっぱい握りしめてゆっくりゆっくり下ってく楽しみがありました。
お茶菓子は日本酒の風味をきかせたショコラ。こちらは美味しいのですが、期待していたほど日本酒の風味は取れませんでした。先の春菊についてもそうですが、ちょっと変わった組み合わせで臨むのであれば、もっと思い切って振り切って、多面的で予測不可能な味覚に挑戦すると、もっと面白くなりそうです。
〆は氷温熟成珈琲。氷温とは物質が凍り始める直前の温度のことであり、0度よりも低いが完全には凍らない温度帯の事です。珈琲豆を氷温で熟成させると、豆の細胞や豆に含まれる水分が均一化され、その後ムラなく焙煎が行えるそうです。さっきグーグルにそう書いてありました。なるほど確かに円やかな口当たりであり、スイスイと調子よく飲めてしまう。加えてスタッフが軽やかに注ぎ足ししてくれるので、私の心も満たされるのであった。
期待通りの素晴らしいお店でした(写真は公式ウェブサイトより)。加えて支払いもランチで2人で2杯づつ飲んで合計1.6万円と、このクラスのレストランとしては実にリーズナブル。ミシュランが好きそうな店構えであり、この料理のレベルであれば、近い将来1ツ星以上は当選確実といったところでしょう。推されているほど北欧の風は強くなく、モダンなフランス料理といったところ。キメのデートやちゃんとした接待にも対応可能。欠点が何ひとつ見つからないレストランでした。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン
- ナリサワ ←何度訪れても完璧
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある
- ル・マンジュ・トゥー(Le Mange-Tout)/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- キャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレ ←世界を狙える日仏料理
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事