いづる/大門

浜松町界隈で最も並ぶラーメン屋。店主は恵比寿の名店「おおぜき中華そば店」の出身。昼のみの営業で売り切れ仕舞いと難易度の高い店。開店は11:30とされているので11:33に到着したのですが、15人の店外行列。
しかしその数分後には、食事を済ませた客が次々と吐き出されてきたので、実際にはもう少し早めにオープンしているのかもしれません。回転も速く、10分やそこらの待ち時間で入店できました。換気扇を通じて「お次の方~」と呼びかけられるので、耳をすませておきましょう。
着席後数分で提供される中華そば。私は限定40食の「濃密な煮干そば」を注文。これは濃密を通り越して事件性すら感じられる濃度です。その色はグレーを通り越してグリーンですらあり、カニミソのような印象。箸は刺さりレンゲは浮く。この比重はアルキメデス級です(何が)。
兎にも角にも煮干しの濃度ですね。灰色の枢機卿もかくやと思わせる、複数の煮干しを極限にまで煮詰めたソースをノードとし、その他に魚介や動物を感じさせる風味。とにかく濃いので繊細な味覚の分別が全くつきません。

麺は中太。そこそこ美味しい気がするのですが、スープの味覚が強烈すぎて印象に残りづらい。肉は豚と鶏の2種。いずれも低温調理の大変に手の込んだ逸品のはずですが、やはりある種の毒気のようなものにさらされており、肉そのものの味わいは忘却の彼方へと消えていく。
店内のゲスト(全員が男だ)が無言でカウンターに200円を置いており、何事かと思い私も真似をしてみると、「中太と細麺、どちらにしましょうか?」と店員より声を掛けられる。太麺原理主義者の私としては条件反射的に「中太」と答えたのですが、なるほどこれは「和え玉」という、替え玉にトッピングと味付けがなされたおかわりの制度だったのですね。
肉骨粉ならぬ煮干し粉(?)を先頭にチャーシューやタマネギ、タレを混ぜ込んでいくと、日本橋は「sisi煮干啖」ような煮干し風味のパスタができあがりました。これが、旨い。これでも充分に味は濃いのですが、先の暴力的なスープに比べると赤子も同然の爽やかさです。

200円の追加料金としては大変にお得なシステムですが、麺はトータルで300グラム近く摂取することとなり、血糖値スパイク必至。午後はプールの後の国語ぐらい眠くなるのでご注意を。
勇気を出して残ったスープに「和え玉」を投入。ぎゃあああ!味が濃い!私はひとりで黙々と食べているのですが、その脳内は脳汁が出っぱなしの万年躁状態であり、「すごい煮干ラーメン凪」なんて全然すごくないんだからね、と思わず独り言ちるレベルです。

是非はともかく、ここ数年で最も記憶に残ったラーメンでした。ルールに沿って動くのではなく、ルールそのものを作るラーメンであり、努力の積み重ねで出来上がった1杯というよりは、欲しい結果から考えて作られた作品です。当然に好みが分かれる味わいであり、新しい試みにはまず拒否反応を示すタイプは敬遠したほうが良さそう。私は大好き。また行きたい。


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