アサヒナガストロノーム(ASAHINA Gastronome)/日本橋

朝比奈悟シェフはシャトーレストラン ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション (恵比寿の1F、ミシュラン2ツ星)の料理長を長く務め、2018年の10月に満を持して独立。揺籃の地は兜町と、フランス料理店としては珍しい立地。土日に訪れると閑静を通り越して殺風景ですらあります。
座席数は30程と、グランメゾンとしてはちょうど良いサイズ感。個室も用意されておりバリバリの接待もOK。内装はロブション系とは対極的で、シルバー主体の清潔で美しく健やかな雰囲気。他方、メニュー表に書かれた長い長い料理名はロブションそのもの。
ランチなので泡1本で通します。リストを拝見、おや、覚悟していたほど値づけは高くない。酒屋で6,000円ほどのコチラが12,000円と倍程度。

ピノノワール100%のロゼであり、やや茶褐色めいた色気のある概観。イチゴキャンディのようなチャーミングなアタックに、キリリと締まった酸に豊かなミネラル。
アミューズが立体的、かつ、豪華。手前はバスク豚の生ハム。塩気と脂のバランスが良い。右上はゴーフルで挟んだリエット。リエットの基本に忠実な美味しさはもちろんのこと、ほろ苦い風味を湛えたゴーフルが名脇役。左上はグルヌイユ(カエル)のタルト。日本人的にギョっとする食材で冒険する割に、これはまあ普通な味わいでした。
活ヒラメのタルタル。キャビアにヒラメ、こんなに豪華な白身魚のタルタルがあるか?それでも高級食材一辺倒というわけではなく、ジャガイモの美味しさも天下一品。プレゼンテーションもまさにロブションといったところであり、いいね、ロブションっぽいね、と連れに意見を求めると「あたし1度しか行ったことないからよくわかんないや」と、1回行っとるんやないかい。
比内地鶏。冷前菜という位置づけであり、冷たい料理は一般的に味が感じ辛くなりがちですが、この料理に限っては鶏の美味しさが明確に伝わってきます。右手にはキャラメリゼした手羽先と、また違った濃厚な味覚を楽しむことができ、付け合せたちも美しく、そして旨い。
パンはロブションに比べると簡素。まあしかしロブションのジレンマの原因はあのパンでもあるので(あまりにパンが旨いのでガブガブ食べると肝心の料理が食べれなくなる)、全体を通してみればこれぐらいでちょうど良いのかもしれません。
前菜、続く。コチラはラングスティーヌ(アカザエビ)です。手前は身そのものをシンプルに提示し、濃厚なソースアメリケーヌで問答無用の美味しさ。奥はすり身(?)やムース状のものを白黒のパスタで1本1本丁寧に包んだもの。当然に美味しいのですが、パスタの絶対量が多く支配的であり、肝心のエビの味わいがぼやけてしまったのが残念。やや外観ありきの料理に感じてしまいました。

それにしてもロブションっぽいね、ピンセットで1本1本盛り付けている様が目に浮かぶよ、と連れに共感を求めると、「それさ、嫌味で言ってるの?そんなのぜんぜん目に浮かばないわよ」とにべも無い。
魚料理はヒラスズキ。ボルディエ(高級バター)で蒸し焼きにした後、その出汁のソースを塗布しパセリでお絵かき。味はやや単調でソースのもったりした余韻が長い。まあ、ヒラスズキとはそのような食材である。他方、奥のロメインレタスに詰め物をした付け合せは抜群に美味しいですね。このような脇役のレベルが異常に高いのが名店の特長でもあります。素材が旨い料理なんて誰でも作れるものである。

スガラボは100%でスガラボで、ナベノイズムは7-3でナベノイズムだけど、このお店はかなりの割合でロブションだよね。もちろんオリジナリティの欠落を指摘しているというわけじゃなくて、ロブション愛好者としては堪らなく嬉しい、という意味だけれど。何を隠そう、僕は5歳ときからロブションをM&Aしたいって思って生きてきたんだから、とテンションの高い私。「だからさ、わかんないって。あたし、ナベノイズム行ったことないし」スガラボは行ったことあるんかい。
メインは仔牛。見て見て左上のジャガイモ!そのままポニーテールのシュシュにしても実用に耐えうる造形である。ロース肉は肉そのものの美味しさはもちろんのこと、皮目に見立てた味の濃い集団が堪らなく旨く、思わずユリイカ!と絶叫してしまいました。コース料理というものは空腹時かつ見目麗しい前菜が一番であることがほとんどで、メインは創造性を発揮する余地は少なく惰性で満腹をより満腹にさせることが多い中、当店のメインはそれが最も偉大な美味しさを誇ります。傑出した完成度。満点です。本日一番のお皿です。
付け合せに出汁のスープ。これがもう、メインに勝るとも劣らずの美味しさ。日本料理でここまで記憶に残る味噌汁は中々無い。フランス料理の味覚の奥深さに嫉妬する。
デザートに入ります。まずは洋ナシ。ジュレ、コンポート、ソルベとの三段論法。美味しいのですが、これまでの料理ほど傑出した何かを取ることはできず。
ベリー仕立てのオペラ。飴細工の用い方など実にロブションではありますが、オペラそのものはビスキュイ(生地)の味覚が支配的であり、肝心の赤系ベリーの味わいは薄く感じました。それよりも、奥のイチゴのソルベのほうが心に残る。そういう意味では普通のチョコ味のオペラでいい。一般論としては充分に美味しいデザートではありますが、これまでの料理と比較すると、相対的に物足りなさを感じてしまう。当店において甘味はアキレス腱となりうるかもしれません。
小菓子はワゴンサービスでお好きなだけ、ではなく規定量でした。まあ、当店はロブションではなくアサヒナなので仕方がありません。というか、1万円ポッキリのコースでそこまで求める私が欲しがりというものなのでしょう。
抜け目無いコーヒーを飲んでごちそうさまでした。

いやあ、素晴らしいお店でした。2019年最初のスマッシュ・ヒット。そこらのフランス料理店とは格が違う。ミシュラン2ツ星以上は当選確実。私的毎年のベストレストランにも必ず入賞するであろうクオリティの高さです。しかもこれだけ食べて1万円というのも信じがたい。ふたりで食べて泡を1本、炭酸水を1本飲んで4万円でお釣りがきました。なにそれヤバい最高じゃん。

今はオープンしたばかりであり、アーリーアダプター未満は様子見の段階でしょうが、もう数ヶ月もすればあっという間に予約が取れなくなることでしょう。このお店は本物です。お早めにどうぞ。


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