佐々木琴子似のマダムの接客に癒やされながら席に着く。西原理人シェフは「嵐山吉兆」で研鑽を重ねた後、ニューヨークの「嘉日」ならびにロンドンの「UMU」で料理長を務めた後に帰国。奈良の地で独立し、あっという間に人気店の仲間入り。
雲子(白子)を炙ってキックオフ。トロンとした官能的な味覚に春菊の大人の苦味がたまりません。左上は立派なお茶の葉だそうで、それを調味料として用いるのは面白い試み。
飲み物は最初から日本酒。奈良の地酒がわかりやすくラインナップされており、順番に楽しむことができました。いずれも1合1,000円程度と良心的。「風の森」の純米大吟醸がお気に入り。
白菜のスープは白味噌や酒粕で調味されており、コッテリと濃厚な味わい。香り付けに白トリュフを用いるという思い切りの良い店主。色とりどりの野菜の下には野性味あふれる大和豚が鎮座していました。
先日閉幕した第70回正倉院展にインスパイアされ、その宝物を模したお造り。シマアジ・真珠貝・イクラです。ねっとりとした舌触りのシマアジがいいですね。しかしながら味はさておき、シェフは盛り付けに凝りすぎるきらいがあり、この料理にありつくまで相当の時間を要しました。食べるリズムも味覚のうちと捉える私にとっては若干のストレスです。
特大の海老を天ぷらで。ただ大きいだけでなく、身質の凝縮感というか密度というか、噛みしめるたびにギュッとした食感と風味を楽しむことができる最高の海老でした。生麩を揚げた付け合せも食べごたえがありバッチグー。
長野県は小諸産の蕎麦を用いたお蕎麦。まずはシンプルに塩でいただき、その後めんつゆを追っかけで被せていきます。間違いなく美味しいのですが、なぜこのタイミングで蕎麦を出すのかは疑問。いち太のように〆に出して欲しかったな。
焼き物は大和鴨。醤油板(醤油の出涸らし的な副産物。もちろん食べることができる)を用いて香りを移し、加えてもろみ醤油でフィニッシュする。猛々しい鴨の肉質と旨味。程よい甘味を湛えた脂身。西洋料理などを含め、ここ数日で最も旨い鴨肉でした。
肉の下にはつくね的ミンチ肉が。天然の卵黄ソースと共に一口で頬張り、モグモグと咀嚼するたびに旨味と幸福が溢れ出てきます。本日一番のお皿でした。
食事に入る前にサラダ。サラダといっても菊芋のピュレや旬のズワイガニが敷き詰められていたりと、早い話が酒のツマミである。それにしても盛り付けに時間がかかりすぎである。丁寧なのは良いことですが、駆け抜ける歓びを乱してまで凝る必要は果たしてあるのかどうか。
食事が到着。ライスは奈良県産のヒノヒカリ。ゴハンのお供としてキンキの煮付けが出るのが最高に嬉しいです。というか、煮付けをツマミに酒を飲み、ゴハンはお漬物と赤出汁で頂きました。
ゴハンをおかわりすると、オマケがついてきます。何でも牛肉と松茸を山椒と味噌で炊いたものであり、味濃いめ原理主義の私にとっては最高のオカズです。
さらにゴハンをおかわりすると、今度は海苔を敷き詰めた後にシラスを散らしてくれました。このシラスが丸々と太って実に美味。
甘味は大台ケ原(紅葉の名所)をイメージしたきんとん。サツマイモをビーツやカカオなど天然の着色料で自由自在に色付けし、目の前で裏ごししていく様は最高のパフォーマンス。
料理は1.2万円とリーズナブル。酒も安く、これだけを銀座で飲み食いすれば3万円近く取られるのではなかろうか。
ただし先にも述べましたが、課題はスピード感ですね。東京の2回転が当たり前という芸風に慣れた身としては、手持ち無沙汰に感じた局面が多々ありました。そもそも十数席にも及ぶゲストを同時に相手にするのは無理があるのではなかろうか。6席にして2回転にしたほうが、作り手も食べ手もストレスが少なく済むような気がします。が、これはあまりに東京的な発想かもしれません。
ただし先にも述べましたが、課題はスピード感ですね。東京の2回転が当たり前という芸風に慣れた身としては、手持ち無沙汰に感じた局面が多々ありました。そもそも十数席にも及ぶゲストを同時に相手にするのは無理があるのではなかろうか。6席にして2回転にしたほうが、作り手も食べ手もストレスが少なく済むような気がします。が、これはあまりに東京的な発想かもしれません。
いずれにせよ、料理は美味しくカリテプリに優れており、接客も良ければ客層も良い。奈良に訪れる機会があれば是非どうぞ。オススメです。
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和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
- かどわき/麻布十番 ←人生で一番の和食かも
- しのはら/銀座 ←予約困難となって当然だ。
- くろぎ/湯島 ←吉野川の天然鰻に悶絶。ただちょっと割高。
- 温味/すすきの ←旨い!多い!安い!完全無欠の三ツ星和食店。
- 龍吟/六本木 ←モダンスパニッシュとさえ感じる前衛的な和食。外人にオススメ。
- 草喰 なかひがし/出町柳(京都) ←店名の通り草を食べる変わった和食。
- 田がわ/御幸町(京都) ←幸村卒業。近い将来、星獲得間違いなしのリーズナブルな和食。
- 又吉/祇園(京都) ←雰囲気のある街並みに溶け込む費用対効果抜群のお店。
- たきや/麻布十番 ←龍吟を天ぷらにするとこうなるのではないか。
- えさき/青山 ←創作気味。ミシュラン三ツ星和食にしては圧倒的な安さ。
- 季節料理なかしま/白島(広島) ←同じくミシュラン三ツ星和食にしては圧倒的な安さ。
- 日本料理 幸庵 ←こちらも費用対効果が素晴らしい。ミシュラン三ツ星って実はお買い得?