CROWN(クラウン)/大手町


今年も「東京最高のレストラン」が発売されました。このシリーズはプロが実名で激論を交わしているのが良い。圧倒的な経験と論理構成。ネット上の口コミとは質が全く異なります。ただし、小体な個人店の紹介が殆どであり、当記事「CROWN」のような大資本系についての取り扱いが少ないのが玉に瑕。そのギャップを埋めるのがタケマシュランである。
バリバリのラグジュアリーホテルなのに外資系に比べると割安感のあるパレスホテル。ロビーラウンジの雰囲気が好きで、加えて日仏スターシェフ5人が1人1皿を担当するパーティでのバンケット料理に圧倒され、加えてかの美人女医もお気に入りのレストラン。いつかメインダイニングにお邪魔したいと恋焦がれていたのです。
平日のランチでお邪魔したのですが、ゲストの大半は外国人であり、まるで海外旅行に来たような錯覚を覚えました。平日ランチ限定で「MENU EXPRESS」というコースが用意されており、当店のエスプリを僅か5,500円で体験することができます(以上、写真は公式ウェブサイトより)。
アヴァン・アミューズは紫芋のチップスにセップ茸のフィナンシェ。いずれも秋の味覚の象徴です。フランス料理は日本料理に比べると季節感に乏しいですが(和食の八寸は世界に誇る芸術だ!)、最初に秋を宣言するあたり、日本人的いとをかしが感じられました。
アミューズはサーモンのタルタルを竹炭で色付けした生地でクルリと巻いたもの。生地のサクっとした食感とタルタルのトロトロ感の対比が堪らない。加えてサーモンの豊かな旨味と脂身。べたついた舌先をサワークリームで整理するセンス。ここまでレベルの高いアミューズは中々ないぞ。この時点でこの日の勝利を確信しました。
手前はミルクパン、奥はチャパタ。いずれも高尚なパン屋で1個数百円で売られてもおかしくないレベルであり、とりわけチャパタの食感と塩味のバランスには思わずため息が出てしまう。加えてフランス産のバターも丸々1個と気前が良い。このランチは確実に採算度外視である。
前菜はカンパチのタルタル。サーモンのタルタルとはまた違った方向性の調味であり、トッピングのウニならびにウニのソースと合わせてもうだめだ、私は欲望に負けた。

フヌイユ(フェンネル、ウイキョウ)のピュレもグルグルと正確に描かれており、その中にバジルオイルを垂らすと揺らぎのある絵となります。目で美味しい、食べて美味しい。なんて愛くるしい前菜なのでしょう。
追加のパンはワゴンでドンドコドンドコ持ってきてくれます。今回はオリーブとゴマ。加えて後ほどライ麦のパンを頂きました。胃袋無限かよ。
メインは豚肉。平田牧場の金華豚のロース肉とのこと。スモークなのか炭火なのか何なのか、フワっと漂うセクシーな香りがたまりません。白眉はソース。トリュフ主体のソース・ヴィネグレットなのですが、料理全体を取りまとめる酸味の車幅感覚がすばらー。畢竟、フランス料理とはソースなのである。
ショートコースなのでデザートはありません。が、ミニャルディーズ(小菓子)として可愛らしい3口を用意して頂けました。中でも左の金柑のモンブランが印象的。
さらにワゴンが登場し、棒状のケーキを目の前で切り分けて下さいます。ヘーゼルナッツとチョコレートのケーキ。ミルフィーユのように味覚が折り重なっており、どこが小菓子やねんと突っ込みたくなるほどのボリューム感。
コーヒーまで確実に美味しい。以上、一通りの料理が5,500円。ちょっと信じがたい費用対効果です。もちろん接客も完璧。若者はキビキビと動き、熟練者は柔和な笑みをたたえる。何もかもハイパー察しの良い集団。習慣の力である。
それにしても5,500円は安い。今月の「専門料理」は色んなお店の物件取得や内装費、材料費に至るまで赤裸々に記されており、こんなことまで書いてしまって良いのかと読者が心配になるほどの企画なのですが、仮に当店が原価等を公開すれば、業界全体がドン引いてしまうこと間違いなし。ここまで来ると、もはやこれは文化貢献事業である。


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