Crony(クローニー)/西麻布

フリーランスのサパーたる面目躍如、女医の女子会にご招待頂けました。彼女たちが選んだお店はCrony(クローニー)。「永続的な茶飲み友達」の意だそうで、今夜の会合にぴったりです。カンテサンス出身者を中心に旗揚げされた北欧寄りのフレンチレストラン。ノーマを始めとして、ティルプススブリムなどとベクトルが類似している料理とのこと。
なるほど内装からしてバリバリの北欧系であり、ある種KEYUKAのラグジュアリー・ラインのような雰囲気です。
最安値のシャンパーニュは9,000円と、料理の価格設定に比べると絶対額がやや高いかもしれません。

「今度、公庫からお金借りて、開業することにした。まずはあたしひとりに受付と看護士雇って頑張ってみるつもり」ほうほう、と、適当に相槌を打つ私。どちらかというと私はその話よりも、エロワンピから惜しげもなく晒した胸の谷間に夢中である。
おなじみの石コロたち。この中に4つだけ、一口サイズのコロッケが含まれています。おなじみ、と記載しましたが、私を含め誰もが当店にお邪魔するのは初めて。しかしながらインスタやら食べログやらで事前情報を得ていたので驚きは何もない。このあたりネット社会の功罪といったところでしょう。
ネギのタルトに鴨節をたっぷり。想像以上にネギの風味が強く、ネギマシュランとしては好みの1口でした。

お金を借りるだなんて利息がもったいないじゃないか。実家の病院に出してもらえばいいのに。「ううん、一度、自分の力でどこまでできるかやってみたいの」泰然自若とした姿勢で彼女は語る。「1日に〇人お客さんが来て、人件費が〇円で、家賃が〇円でしょ?」彼女の語る事業計画は完璧で、ドクターというよりも経営者としての横顔が垣間見えました。そろそろプロポーズしようかな。私と彼女の関係も、重大な局面を迎えようとしています。
こちらはサバ。バリっとした外皮としっとりとした身のコントラストが良いですね。ホワホワのクレソンの香りと共に旨味の強い魚を楽しむ。

「うまくいかなかったら、お母さんに借金返してもらおうっと」やはり富裕層の子女が成功する確率が高いのは、教育水準の高さは当然として、この危機感のなさも重要な意味を発揮している気がします。幼稚舎にもそういうタイプが多い。平日の昼間からゴルフして、遊び半分で起業したら何となくうまくいくパターン。畢竟、成功とは決断力と行動力である。
モンドールという、この季節限定のチーズを軸に据えた1口。美味しいですが、料理というよりも素材です。この前モンドール出身のフランス人にモンドールが好きだと告げると死ぬほど喜んでいたなあ。フランス人は地元の食材について思い入れが殊更に強い。
ボタンエビをに薫香をつけ、キャビアを添えたもの。これは抜群に美味しいですねえ。ボタンエビのネットリとした官能的な甘さにスモーキーな大人の香り。キャビアの風味もわざとらしくなく、エビの旨味を上手に引き立てる絶妙な塩加減。これは鮨屋も見習うべき料理だ。本日一番のお皿でした。
こちらは白子ベニエ。洋風天ぷらといった調理法であり、セロリのペーストや魚介系のソースの味わいとベストマッチ。先のボタンエビと同様にセクシーな食感で素直に美味しい。
パンは料理に付帯するわけではなく、1品として厳かに供されます。ガリっとクリスピーな表面の内側にはしっとりモッチモチな食感。ふんわりと酸味が感じられ、なるほどこれ単体で料理として成立する美味しさです。ホエイと共にホイップしたバターをたっぷりと塗りたくり至福のひととき。
魚料理はサワラ。見た目よりもしっかりと火が通っており、個人的にはもう少しレアっぽい舌ざわりのほうが好きです。ホウレンソウのソースやオイスターのソースもややパンチに欠ける。

「あーん、ゆうべカンテサンスで食べた料理と丸かぶりだ~」と、眉毛のハの字型に下げる彼女。そう、連日連夜外食を楽しんでいると、どの店も同じタイミングで旬の食材を出してくるので、結果、毎日毎日似たような素材を得ることとなるのです。私は8日連続で栗を食べたことがありました。
メインはシャラン鴨。これはパーフェクトな味わいです。鴨の美味しさは言わずもがな、原木マイタケの森の味わいや絶妙な酸味を誇る酸味もベリーグッド。欲を言えばもう少し量を。

「ねえねえ、レーシックって、実際どうなの?目の手術なんか怖くって」と、医者が医者に質問。医療ド素人の私から見るとその光景は何だか可笑しく映ります。彼女たちはドクターでいる以前にひとりの女の子なのだ。
「レーシック、すごくオススメだよ。一番流行った時期の機械の性能値はFの3とかだったのに、今はFの150とかなんだから」レーシックについては心無い医者が暗躍し胡散臭いイメージがすっかり定着してしまいましたが、実際のところは技術は向上し続けており、身内にも自信をもって勧められるとのこと。

「ちなみに視力回復トレーニングとか、目に良いサプリとかは全部ウソだからね。ああいうの規制する法律とかないわけ?タケマシュラン何とかしてよ」残念ながら法律を作るのは政治家たちだ。私の本懐はそのグレーゾーンを見つけることにある。
デザート前のチーズという位置づけでしょうか、中にはロックフォールが冷たく液状化現象しています。悪くない味わいなのですが、ちょっとこの、丸っこいフィンガーフードがチョコチョコと出てくる芸風にはそろそろ飽きてきた。
デザートはチョコレート主体の1皿。もちろん美味しいのですが、華やかさに欠けフランス料理の美点とも言える甘味の迫力を感じることができず。重厚長大なフランス料理屋であれば3皿あるデザートのうちの最初ぐらいのパンチ力でした。
アイスクリームも美味しい。なのですがやはり派手さはなく、あまり会話が弾むことが無い1皿です。
また石ころ。ここまで来ると半分クドい。
コーヒーは抜群に美味しい。なんでもグアテマラのシングルオリジンの豆を用いてハンドドリップしているらしく、1杯1,000円近くする純喫茶のそれと同等かそれ以上の味わいでした。

お会計はひとり2万円と少しと思いのほか安い。なるほどフーディーな友人が「2次会にアラカルトとワインでバー使いしている」と語っていたのも頷ける価格設定です。
しかしながら、どの皿も意欲的でそれなりに美味しくはあるのですが、やはり素材の原型を留めていないものをチョコチョコとつまむことが多いので、今日という食事の記憶には残りづらいですね。立食パーティのフィンガーフードを着席でフォークとナイフで食べているような感覚。

私にとって料理とは、絵のような盛り付けに、素材それぞれの個性が和音のように味覚を奏でるべきだと考えいるので、当店のような全部丸っこいグレーな造形で構成要素が良くわからない食べ物は好みではないのかもしれません。シェフの料理を否定しているわけではなく、私の好みではないだけです。私はやはり重厚長大な料理が好きなのだ。


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