虎屋 壺中庵(とらや こちゅうあん)/徳島


食べログ4.53(2018年11月)で銀メダル獲得と、徳島県内ではダントツの評価を誇る当店(ちなみに2位は3.80)。ただしとにかくアクセスが悪く、車でないと行くことは難しい。タクシーよりもレンタカーのほうが安くつきそうだったので、徳島市内のトヨタレンタカーで車を借りました。
徳島市内中心部から車で30〜40分の山奥。駐車場はお隣の神社(?)の敷地を使用してOKと、面白い駐車システムです。
風情ある木造建築の一軒家であり、水があり流れがあり木々が生い茂る雰囲気抜群の料亭です。

岩本光治シェフは京都嵐山「吉兆」で修行したのち、徳島県佐那河内村で家族が営む「虎屋旅館」を日本料理店「虎屋壷中庵」として開業。日本航空・国内線ファーストクラスの夕食を監修するなど、彼に対する世間の評価は定まったと言えるでしょう。
店内は全て個室。プライベートが完全に確保されており、居心地が大変良い。仲居さんも付かず離れずの距離感であり、好きな接客です。
最初の一皿にワタリガニ、ホウキダケ、菊菜。料理というよりも素材なのですが、莫大な量の蟹肉が投じられており、これに文句をつける人間はまずいないでしょう。
正午から時計回りに香茸、クリ、銀杏もち、ボウゼの棒寿司。ボウゼとはイボダイのことであり、徳島県では秋祭りの時期にボウゼの寿司を好んで食べるそうな。まったりとした脂が特長的であり、強めに酢がきいたシャリと相俟って実に美味しい。
松茸にレンコンもち、海老。レンコンもち大好き。レンコンの風味はそのままに、ふわふわモチモチした食感を捻出し、外皮はカリっと香ばしい。加えて何と言ってもスープが絶品。それぞれ主張の強い具材の良さを引き出しつつも全体のバランスを取るという、浅沼稲次郎のように調整力に長けた1杯でした。

ところで料理を出すペースは全編を通してあまり良くないですね。20分待つ→3分で食べる→20分待つ、、、の繰り返しであり、やはり素面では間延びしてしまう。
お造りはタイ、アオリイカ、クルマエビ。タイが筋肉質でグッド。加えて5~6枚は盛り付けられており、たっぷり食べた感があるのがいい。アオリイカは昨夜のものに比べてネットリ感に欠け、過度にフレッシュに感じました。クルマエビはイマイチ。やはり海老は少し火を通したほうが甘味が増して私は好きなのかもしれません。
マナガツオの酒盗。こちらも100グラム近くはありそうな特大サイズ。ミュっと引き締まった体躯に酒盗ソースが迫りくる。シンプルでわかり易い味わいです。その名の通り本当に酒が進みそうな味わいで、ハンドルキーパーとしての職責を恨めしく思う。
炊き合わせは海老芋にアナゴ。海老芋は粘り気に富み地味が溢れる味わい。締まった肉質の歯ごたえが堪りません。ちなみに「海老芋」の由来は湾曲して表面には横縞がありエビのように見えることからです。穴子はまさに傑作といった味わい。表面の香ばしさと適度な脂身、強い旨味。並のウナギよりも全然美味しい。
食事は鯛めしに松茸トッピング。具材は悪くないのですがビチャビチャとした食感で、お椀の底に液体が溜まっている始末です。そしてその液体も特に美味しくはない。何か意図があっての所業だと思うのですが、その意図が私には掴めませんでした。
お漬物は正統的な美味しさです。
柚子シャーベット。柚子の風味が強く、シャラっと溶ける温度帯もちょうど良い。少しクラッシュしてフランス料理のグラニテと出しても素晴らしいことでしょう。
〆に抹茶。お茶請けは栗を主要成分としたもの。見た目は生菓子ちっくなのですが、その食感ならびに味わいは栗そのものであり、まさに季節を切り取る逸品でした。
お会計は1万円ポッキリ。信じられないほど高い費用対効果です。これはアクセスの悪さを鑑みても余りある価値でしょう。ところどころ味付けが非常に濃い場面があり、やはりお酒と共に楽しむことができなかったのが悔やまれる。またお邪魔する機会があれば、絶対に運転手からは逃れてやろうと心に決めました。


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