末廣鮨(すえひろすし)/清水(静岡)

ある食材にかけては日本でトップクラスに有名な鮨屋が清水にあります。JR清水駅から徒歩10分ほど。立派な店構えに83席というかなりの大箱。団体観光客の受け入れも積極的なようで、ある意味、清水における観光スポットと言って良いかもしれません。
「ある食材」とはマグロ。冷凍マグロの水揚げ日本一を誇る清水港。日本で消費されるマグロのうちの約70%は清水港での取り扱いだそうです。中でも当店ではミナミマグロにこだわり、数千本の中から最高のミナミマグロを築地に出荷される前に1本買いしているそうな。
にぎりの特上5,800円を注文。名刺代わりにといきなりトロが供され、即本番が始まりました。近年流行の流線型のにぎりとは赴きを異にし、長方形というか何というか、マッチ箱のような形状です。
続いて腹皮(ハラガワ)。大トロの内側の皮の部分であり、このような希少部位を提供できるのは1本買いしているからこそ。鮨業界の「チャンピオン」。味はまあ、文句なしに旨いというか、鮨というよりも良質な素材といったところ。
イカは身質にやや濁りがあるというか、若干のひっかかりを感じました。
車海老。適度に火入れされており、甘味と旨味が増幅されています。肉厚でジュブリとした食感も嬉しい。
赤貝は今が季節ということで胸を張るのですが、臭みが強くあまり美味しくありません。

ここまで食べて感じたことですが、素材そのものは多分良いほうなのですが、下処理ならびに調理技術がイマイチですね。見た目もあまり美しくなく、芸術の域に達した鮨というよりは、場末の大将が握る寿司という印象です。
イクラの塩漬けも量こそはそこそこあるのですが、盛り付けがダサい。お取り寄せイクラを自宅で食べるのとそう大差なく、わざわざお店で食べる必要は無いような気がします。
ヒラメは肉厚にスライスされており、柚子塩の風味と相まって中々美味しい。が、やはり口に含んだ際にホロりとシャリが崩れていくさまや、口や舌に溶け込んでいく温度というものは全く計算されておらず、おにぎりにタネを乗せただけの寿司です。
穴子もサイズこそ大きいものの、温度帯が微妙であり、にぎりというよりは駅弁の穴子弁当を食べているような感覚がありました。
お椀は普通のお味噌汁。うちのオカンが作るそれと大差ありません。
ウニもタネそのものは悪くありませんが、海苔とシャリとの三位一体説は否定される味わいです。
当店の芸風の集大成とも言うべきにぎりがギョク。玉子がまさに家庭での卵焼きそのものの味わいであり、私が作るものと大差ないというか、自分の好みの味付けができる分、私が作った方が私は好きです。
ガリは仕入れ品なのかなあ。回転寿司のテーブルにまとめて置かれているそれと似たような味わいでした。
最後に巻物が出ましたが、なるほどやはりマグロは美味しいです。

ここまで食べて20分。すきやばし次郎に迫るスピード感。こっちはのんびり食べていて、明らかにカウンターが渋滞しているのだから少しは忖度して欲しい。別に混んでるわけじゃないんだから、ゆっくり食べさせてよ。
技術はさておき、5,800円でこれだけ上質なマグロをたっぷり食べることができると言う意味で、費用対効果はそう悪くないかもしれません。割に旨いマグロがボンボコ出るためマテリアリストは喜ぶかもしれませんが、ただ、やはり世界観やストーリー性、芸術性を重要視するタケマシュラン・ジェット・シティとしては好きになれない鮨でした。
かつては輝かしい勝利の日々もあったかもしれませんが、私の色眼鏡を通して見れば、寿司マイナス2.0に映ってしまったランチでした。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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