Ode(オード)/広尾

広尾商店街を抜けた交番すぐ近く。北欧テイストな灰色のドアを開くとセンスの良いコの字型カウンター。フロリレージュをコンパクトに、カラペティ・バトゥバ!を薄暗くしたようなニュアンスです。店名はラテン語で「抒情詩」を意味するそうな。
カウンター席を横目に我々は秘密の個室へ。スタッフの男性比率が高く、無印良品で働いてそうな線の細い若くてキレイな男の子が多いという印象。その手のお姉さんには堪らない人員構成かもしれません。隊長の生井祐介シェフは八丁堀「シック・プッテートル(1ツ星、現在は閉店)」などで腕をふるったのち、2017年独立。
ペアリングはシャンパーニュも含んで9,000円。この1杯目がグレープフルーツのような香りならびに味わいであり爽快感抜群。客が不安になるほどタップリと注いでくれるのも嬉しい。
ドラ〇ンボールにてプレイボール。「一星球(イーシンチュウ)だ」と、我々ドラゴンボール世代は理解が早い。中にはオマール海老のビスクが詰まっており、コアントロー(オレンジ風味のリキュール)と共に合わせて食べる。笑みがこぼれる。
キュウリに生カラスミ、松の実、ディル、ライムなどなど。干し上げる前の生カラスミは円みのある味わいでグッド。他方、キュウリは青臭さが強く主張が強すぎたかもしれません。
リースリング。こちらは先のディルやライムなど、青系の風味にピタリと合う1杯でした。
フォアグラにサツマイモ。透明感のあるサツマイモの味わいに、控えめな味わいのフォアグラがベストマッチ。これは1口ではなく10個ぐらいムシャムシャと食べ続けたい美味しさです。
シェリー樽で熟成させた日本酒。米の香りが強烈な1杯であり難しい味わいです。初期の段階で料理と合わせる意図が分からず。普通に白ワインを合わせて飲みたかった。
スペシャリテの「グレー2018」。サンマの旨味から作ったメレンゲを解きほぐすと、
中にはサンマ、尾崎牛のタルタル、黒ニンニク。やはりサンマは美味しいですね。コクのある旨味を受け止める玉ねぎの香りもすごくいい。スペシャリテと称するに値する素晴らしい1皿でした。
ブルゴーニューのボリューム感あふれる白。程よい樽の香にシャルドネのパワーを感じる芳醇な香り。
多種多様なキノコのリゾットに白子。トップを飾るは白トリュフ先輩。リゾットの火の通りが私好みであり、森の旨味が溶け込んで実に旨い。白子もネットリと官能的な味わい。他方、白トリュフは期待していたほどのパンチを感じることはありませんでした。
パンはフォカッチャでしょうか。油分多めのコッテリ味であり食べ応えがあります。
真鱈にレンコン餅。銀杏に牡蠣のソース。真鱈が良いですねえ。クエのような弾力を感じる噛み応え。レンコン餅のネチャっと歯にひっつく粘着性も面白い。ギンナンのホクホクとした食感も小気味良い。
ここでピノグリ。悪くない味わいなのですが、そんなに灰色(グリ)が好きなのであれば、どうせなら先のスペシャリテ「グレー2018」に合わせたほうが楽しかっただろうになあ。
スープに潜む、フィンガーチョコレートのような物体の正体は、
毛ガニと湯葉でした。スープも含め旨味が濃い。ちなみに外皮のキンキラキンは金箔。ちなみに人類がこれまでに採掘した金の産出量は50メートルプールたった3杯程度です。これ豆な。
ここでドライシェリー。前述の日本酒や後述のワインも含め、当店はややこしい合わせ方が好きなのかもしれません。直球勝負を好む私とはやや芸風が異なりますが、まあ、好みは人それぞれでしょう。
シイタケの香りがプンプンに香る料理。てっぺんの円盤を少し脇にどけると、
中には秋鮭に山盛りのキノコたち。秋鮭が筋肉質な味覚で食べ応えがありすごくいい。キノコも秋真っ盛りな風味をグイグイと主張しわかり易い味わい。アサリの出汁と豆乳でつくったソースもぴったりです。
日本酒へ。なるほど先の秋鮭は和食に近似しているという意味で、このペアリングはありよりのありです。
メインは鳩。トップを飾るのはビーツではなく、赤く着色されたナスとのこと。
この料理にはぞっとさせられました。これまで食べてきた鳩料理とは一線を画し、良い意味で非常にシンプル、火の玉ストレート。肉の味そのものがビンビンに伝わってきました。ブラインドで食べれば鳩とはわからないほど清澄な味わい。本日一番のお皿です。
合わせるワインは2種を用意。こちらはアメリカのプティ・シラー。ベタベタに甘すぎて繊細な鳩の味を無力化してしまう。。。
もう1杯の赤はローヌのシラー。うーん、やはり味の濃さとスパイシーな風味が全面に出ており、先の鳩料理には合いませんでした。普通にブルゴーニュでいいのにな。
デザートに入ります。巨峰にハーブ(?)のアイスを添え、シャンパーニュの泡で全体を整えます。クレソンのような苦味が感じられ、口腔内をリセットするにちょうど良い役者でした。
加賀棒茶(ほうじ茶)のアイスにアンズ、葛切り、大麦。アイスのノスタルジックな風味がグッド。葛切りの食感も楽しく大麦のカリカリも良いアクセント。今更ですが、当店の料理は食感をとても大切にしているように感じました。
マックヴァン・ド・ジュラ。トロリとした質感でワインそのものとしては美味しいのですが、はやり主張の強い液体でもあり、ほうじ茶アイスのような繊細な味覚に合うかというと疑問。
〆のデザート。カカオニブの板を脇によけると、
中にはオペラ。オペラとはフランスの代表的なお菓子であり、Wikipediaの説明を借りると「グラン・マルニエまたはコアントローのシロップをしみ込ませたビスキュイ・ジョコンドという生地に、ガナッシュ、コーヒーのバタークリーム、もしくはモカシロップで層を作り、チョコレートで覆った物」ですが、平たくいうとチョコ風味のケーキです。当店のそれにはトリュフの香りも添えられているのが特長的。
食後酒としてスコッチでグっと内臓をヒートする。この演出は好きですね。ごちそうさま感が一気に高まりました。
ミニャルディーズ(小菓子)のレベルも高い。特に左の丸のままのクリが絶品。濃密な蜜の味とホクっとした食感。シンプルながら記憶にのこった一口です。
〆は山椒の香り漂う紅茶一択。ごちそうさまでした。

前評判に違わずグレイトなお店でした。私は何を食べているのかわからなくなるという理由から少量多皿は好まないのですが、当店の料理はポーションが小さくても何を食べているかがハッキリとわかるのが良いですね。これだけ種類を作れば2~3品はハズレな味も多いのが普通ですが、当店にはそれが全く見当たりません。

ワインについては前述の通り色々とややこしい組み合わせ方が多く、今風と言えば今風なのですが、私の好みには合いませんでした。加えて料理や酒の説明が難解で、ある程度の知識があることを前提に接してくる場面が多々見られたので、経験の浅いゲストは委縮してしまうかもしれません。

色々と書きましたがトータルでは大満足。先進的、かつ、安定した味わいを発出し続けるシェフは平たく言うと凄腕です。今度はランチに行ってみよう。

<2023年7月23日追記>
生井祐介シェフが自動車運転死傷行為処罰法違反容疑で現行犯逮捕されました。芸能人との不倫なんかよりも、レストランを経営する側が飲酒運転する方が余程悪質に感じます。

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