「あたしって、貧困層なのかなあ?」ショッキングな単語とは裏腹に、愉快そうに話を始める彼女。
「自称投資家の人がレストラン勧めてきてさ。客単価3万円なワケ。そんなお店、気軽には行けないよって返したら『○○ちゃんって、貧困層なの?』って真顔で聞かれちゃってさ」
オープン以来行列が絶えず、夕方には売り切れ仕舞いという事態が続くGAZTA(ガスタ)。店名はバスク語で「チーズ」という意味です。
サンセバスチャンにあるラ・ヴィーニャ(LA VINA)というバルのスペシャリテにチーズケーキがあり、その店に認められ日本にレシピを持ち帰った方がシェフを務めます。イートインコーナーはなくテイクアウト専業。
1個700円、ホールだと4,000円。見た目よりも重量感があり、チーズケーキというよりもクレマカタラナやプリンのような食感。それでいてチーズの酸味が強く、なるほどやはりこれはチーズケーキだと得心する。ホームパーティの手土産で1台持っていけばウケること間違いなし。
「その人、すべての判断基準がお金なわけ。ずうっとお金の話をしているの。自分よりお金を持っているかそうでないかで人に接する態度を変えてさ。そのくせあたしのこと、すっごい口説いてくる。どうして貧困層と付き合いたいんだか」恐らく彼は付き合いたいのではなく突き合いたいだけなのでしょう。女を魅力的に見せる方策はいくつもありますがが、彼女はその全てに精通しているのです。
「会話が噛みあわないのよね。あたしが仕事の愚痴とか言うと、『僕がその会社ごと買ってやろうか?』って言ってくるの。絶対に買わないくせに。『コンビニの1,000円のワインなんてワインじゃないよ』とかも聞いてないのに語ってくる」うーん、会社の売買はともかく、この方は恐らくワインの知識や経験に乏しいのではないか。少しワインを齧った人であれば、コノスルの1,000円ボトルの破壊力が身に沁みているものである。
「もう関わりたくないやと思ってキッパリお断りしたんだけど、『今までおごってきた食事代が全て無駄になった』ってわざわざLINEしてくるわけ」何とハイリスクノーリターンなメッセージ。この人、本当に投資家なのかなあ。
他方、彼女はとってもステキですね。妙な金ヅルとして彼をキープしたりはせず、スパっと関係を清算するあたりが気持ちいい。私が彼女のことを好きなのは、彼女が彼女の人生にとって何が重要かをきちんと自分自身で理解しているからでしょう。譲れないことがあるのは良いことだ。
「やっぱりさ、お金を儲けようとしてお金を手にした人と、自分の好きなことに夢中になった結果お金がついてきた人って、人間としての濃度がまるで違うよね。あたしたち女の子だってバカじゃないんだから、それぐらいすぐに見破れるよ」なるほど確かにお金はあるに越したことは無いけれど、結果、ゼニだけ番長と化すのは避けたいところです。
日曜日の昼下がりに街の公園のベンチで仲良く並んでケーキを食べる。「あたしが呼び出したんだから」と、このケーキを買ってくれたのは彼女。色男、金と力は無かりけり。
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白金高輪は粒揃いの佳店が多いです。ちょっと不便な立地も良いんでしょうね、若い子たちを寄せ付けることが無くて。
- 酒肆ガランス ←前回の記事が大反響。
- キャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレ ←2016年上半期に最も衝撃を受けた店。
- ロッツォシチリア ←客のレベルが高い。味は確かでサービスも軽快。
- タランテッラ ダ ルイジ ←ピッツァだけでなく他の料理も素晴らしい。
- アルシミスト ←あんなブーダン初めて見た!
- ラ クープ ドール ←手堅いフレンチ。酒安し。
- コートドール ←ギョっとするほど古典的。
- 金竜山 ←言わずと知れた日本焼肉界の最高峰。
- 鈴木屋 ←オチ?ネタ?いえいえB級グルメも旨いんです。
「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。