エンジン(ENGINE)/神楽坂

グループ交際は幾度となく重ねているのですが、ピンアポで食事に行くのは初めての我々。「エンジン行ってみたい!」と彼女からのリクエストです。
神楽坂の裏路地、まさに神楽坂といった風情の小道にある中華料理店。松下和昌シェフは赤坂の中華の名店『うずまき』で7年間料理長を務めた後、2015年に独立。
マスターズドリームで乾杯。ここのところ連日こればっかり飲んでいます。品質が安定しており費用対効果も悪くなく、食事を邪魔しないビールという意味では世界最高峰の味わい。

「あたし、今、すっごく緊張してます。〇〇さん(私の名)と2人っきりで食事に行くだなんてキャ☆彡」彼女は嬉しくてたまらないという表情をする。今夜はワンチャンあるかもしれません。
前菜3種盛り合わせはピータン湯葉、イカとネギ(?)の和え物、柿と赤くらげの胡麻和え。ピータン湯葉が面白いですね。ムース状の湯葉に塩気と旨味の強いピータンをトッピング。湯葉というか何というか、大豆の新たな可能性を見出しました。その他、柿の甘さが印象的。

「ここ暫くこじらせてますねえ。ついこの前までガンガン口説かれてて何回かデートしたんですけど、こっちがその気になってきたら『実は最近カノジョができてもう会えない』とか言われちゃって」なんと残酷なマッチポンプ。それでもはっきりと断りを入れるあたりその男子には一本筋が通っており、彼女の見る目は確かであった。
サンマの春巻きとギンナンとキノコの春巻きを1本づつ。サンマは一旦燻製にしたのちに巻いており、凝縮感があり美味い。ギンナンとキノコの味わいは中くらい。しかしながらいずれも1本800円前後という価格はちょっと高すぎのような気がします。

「ちょっと付き合っているふうの男もいたんですが、デートは必ず平日で、土日祝には絶対会ってくれないんですよね」それは確実に妻帯者であり間違いなく遊びである。彼女の見る目は確かでなかったかもしれない。
ハマグリの紹興酒蒸し。当店は日本の食材をふんだんに使った中華料理として名を馳せましたが、この1皿で1,400円はバカ高いです。だって1粒700円ですよ。もちろん美味しいのですが、これだけ高ければ美味しくて当たり前です。

「この前なんて、こっちからデート誘ったのに、『僕はしがないSEだからお金がない』って断られたんです。お金のかからないデートなんていくらでもあるのに!つまり、あたしなんて無理無理ってことですよね?だからあっさり身を引きました」お金がない、か。確かにデートの断り文句としては些かおためごかしかもしれません。

「そうそう、この前ひさしぶりに海外旅行に行ったの。もう、フィーバーしちゃって。値札も見ないで欲しいもの全部買っちゃった☆彡」しがないSEよ、君の見る目は確かであった。
カニ玉は卵を制してしまうほどの毛ガニの量。見た目通りの味わいであり当然に美味。ただしサイズはパンケーキ1枚ほどの大きさであり、ふたりでシェアすると3口ほどしかありません。これで2,000円は高杉晋作。

「だいたい男性って、女の子の下着に興味なさすぎですよね。せっかく気合い入れてTバックはいてきたのに、いざってときに見向きもしない。見たとしてもノーコメント」そのような状況に置かれて女性の下着をじっくりと観察し論評するほど男子には余裕はないものである。
スペシャリテの黒酢の酢豚。唐揚げほどの大きさの豚肉がゴロゴロと居並んでおり食欲をそそります。黒酢の酸の香りがこちよく、それを煮詰めた濃厚なタレはどっしりとした味わいながら爽快感も感じられ、思わず唸る美味しさでした。

「おい!こっちはおろしたてのTバックはいて来たんだぞ!突っ込めよ!って感じです。あ、いや、突っ込めっていうのはヘンな意味じゃなくって、ううん、結局ヘンな意味ね。あ、ちなみに、あたしは不倫はNGですからね!」顔を真っ赤にして早口でまくしたてる彼女。なるほど彼女は緊張しているのかもしれない。
残ったタレはおこげにつけて。濃厚な酢豚の良いんをクリスピーな食感と共に、本題とはまた違ったベクトルで楽しむことができました。これで1,900円というのは納得感があります。

「だからもう、あたしはひとりでいいんです。休みの日は一歩も外に出ないで、一日中ずっと映画見てるのが一番の幸せ」人が独りでいるのは良くない。そんなに映画が好きならばと、毎週金曜日はレイトショーに行き、その後は鳥貴族で感想を朝まで語り合うという町内会映画部を紹介することに。
連れは酸辣湯麺のハーフサイズ。ひとくち頂きましたが、酸味が強く輪郭のある味わいでグッド。とろみのあるスープも全体的な円みを演出し、実に美味しいものでした。
私は担々麺をフルサイズで。飲み屋の〆の麺類はフルサイズでも小さめであることが一般的ですが、当店のそれは正真正銘のフルサイズでかなりのボリュームがあります。

近年流行の山椒と唐辛子がバリバリにきいた担々麺とは芸風が異なり、あっさりと透明感のあるスープ。第一印象はクリアながら後から辛味が響いてくるという、フェリス女学院大学のような担々麺でした。
それぞれ2~3杯飲んで総額2万円弱。うーん、ちょっと高いなあ。ナポレオンフィッシュのようにパンチのある中華ではなく日常に溶け込む優しい料理なのですが、居酒屋のような雰囲気の中、軽く飲んでこの支払金額は普段使いには厳しい。

他方、ランチコースであれば前菜2種・黒酢の酢豚・メイン料理・デザートがセットになって1,800円と、目をむくような費用対効果なので、まずはそこから入門するべきなのかもしれません。
ちなみに映画部に映画の感想、例えばアカデミー賞4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』のそれを尋ねると、このような病的なメッセージが返ってきました。

200行のLINEを返す映画ヲタと、値札を見ずに物欲を満たすTバックのコレボレーション。こうご期待。


このエントリーをはてなブックマークに追加 食べログ グルメブログランキング

関連記事
それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
1,300円としてはものすごい情報量のムック。中国料理を系統ごとに分類し、たっぷりの写真をベースに詳しく解説。家庭向けのレシピも豊富で、理論と実戦がリーズナブルに得られる良本です。