軒先ではテイクアウトの販売も行っており、ご近所さんがひっきりなしに訪れ、大量の刺身が飛ぶように売れていきます。こんなに繁盛している魚屋は見たことがない。
狭い店内にギュウギュウ詰めで50席ほど。客層は近隣の会社員といったところ。嬌声が嬌声を呼び、普通の音声ボリュームでは会話が成り立ちません。常に同席者と近くに寄り、大声で話し合う必要があります。
注文後秒で供される生ビール。基本的に仕事が早く、どのメニューでも注文してすぐに到着します。店員さんもコワモテながら物腰は柔らかく愛想も良く、意外に、と言ったら失礼かもしれませんが、意外にちゃんとした飲食店です。
まずはスペシャリテのおまかせ盛。キロ単位で説明したほうが良さそうなボリュームですが、これだけ食べて2,000円。意味がわかりません。赤身に中トロにブリ、サーモン、ホタテ、ボタンエビ、カツオ。これだけ食べて2,000円。意味がわかりません。
もちろんカットは雑であり切り落としのような部位も山ほど混ざりこんでおり、質も特上というわけにはいきませんが、それでも並の居酒屋やスーパーよりは高品質であり、この圧倒的なボリューム感を前にしては多幸感しか生まれません。
生ガキも2ピースで600円と、デフレ・スパイラルです。こちらは先の刺身に比べてレベルが高く、普通の居酒屋で1個7~800で供されても文句はないでしょう。
マグロカマ焼きは特大1,000円、大800円、中500円、小300円であり、我々は中サイズを注文。それでも幼児の上腕二頭筋ほどのサイズであり、並の焼魚定食の3倍は可食部があるでしょう。みりんのきいたコッテリとした味付けであり、生魚主体のツマミから大きく味覚が変化します。
日本酒は湯飲み1杯で600円。体感的に1合近くあり、これだけ飲んで600円は格安です。調子に乗って、〆張鶴、久保田、八海山、越乃寒梅を1杯づつに、ビールをジョッキで2杯飲んで酔っ払いの完成。
連れはハマチなどのイエローテイル系が好きとのことだったので、単品でブリ刺を注文。これだけ盛られて500円。普段は小食の彼女なのに、「幸せでしかない」とモリモリ食べる様を見て目を細める。
以上、ぶっ倒れそうなほど飲み食いしてひとりあたり4,000円。無茶苦茶か。決して回転が良い店ではなく、従業員の数もそれなりに多いのに、どうしてここまで価格破壊して商売が成り立つのか理解に苦しむ。
デビュー直後の俺のフレンチのような盛り上がりがゲストたちに感じられ、懐具合を気にすることなく好きなものを好きなだけ注文し、刺身で腹を満たす。こんなに素晴らしい酒場は中々ない。オススメです。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。