はっこく/銀座

半径数百メートルの間だけで数百件はあると言われている、世界一の鮨激戦区、銀座。その聖地に2018年最も話題となるであろう鮨屋「はっこく」がオープンしました。銀座「とかみ」で腕をふるったのち、1年間の準備期間を経て当店をオープンさせた佐藤博之シェフ。にぎりのみ三十数貫を提供という、潔いコンセプトのお店です。
雑居ビルの3階かあ、と、思いきや、真っ黒のカッコイイ空間が広がっています。レセプションのおねいさんも美人であり、まるで大箱のフランス料理屋のよう。なるほど職人1人に対して6席の個室が3部屋と、一風変わった鮨屋です。今回は1部屋貸切で臨みます(写真は食べログページより)。
シャンパーニュで乾杯。酒類の注文はホストにお任せしたので具体的には不明ですが、結構飲んでトータル3.5~4万の間に落ち着いたので、結論を先に述べると、銀座でこれだけ飲み食いしてこの値段はある意味リーズナブルと言えるでしょう。刺青ボリボリの外人が働いていて国際化を感じました。
時間が惜しいとばかりにすぐに本題を切り出す大将。名刺代わりに突先(とっさき)の巻物を。鮪の後頭部に当たる部分であり、「とかみ」時代からのスペシャリテ。トロとも中落ちとも違う味の濃い1本であり、赤酢のシャリとの組み合わせがグッドです。
にぎり三十数貫のみと思いきや、付け合せ的な野菜の皿が都合4皿も出てきました。まずは九条ネギ。地味な存在ながら地味に旨い、程よい箸休めです。
ホシガレイ。透明感のある白身でであり、歯ごたえ、旨味、甘味ともに完璧。先日松山でマコガレイをたらふく食べたのですが、実はヒラメよりもカレイのほうが旨いのではないかと思う今日このごろ。
薄はりのグラスに深みのあるビール。はやりこのクラスの店になると、ビール1杯とっても絶品ですね。
カスゴダイ。ちょっと湯霜にかけているのか、食感のグラデーションが良かったです。素材の味を引き出す調味も程よい。
トキシラズ。北海道の高級食材として食通のあいだでたいへん人気がある鮭。一般的に鮭は秋口に獲れるものですが、トキシラズとはその名の通り初夏というヘンなタイミングでひっかかる。栄養価が卵巣や精巣にもっていかれていない産卵準備前の個体であるため脂が豊かなんだそうな。
このあたり私は気でも違ったのか、写真を2枚連続で撮るのを忘れていました。コチラはボタンエビ。官能的な舌触りに蠱惑的な甘味。

さらにはカツオ(写真無し)。ボタンエビからは一転して男性的な味わいであり、鉄分を感じる猛々しい味わいでした。
シャコ。こちらもシャコ業界としてはトップクラスの美味しさなのですが、先日中目黒「つきうだ」で食したそれの余韻を引き摺っており、どうしても比べてしまう。
日本酒に入ります。本日は一白水成、田中六五、而今、あたごのまつという流れであり、泡とビールを含めて結構飲んだ夜。
キスの昆布〆。ううん、これはちょっとタイプじゃありません。ほんにゃりとした食感に妙に下味が強く、色々とギャップを感じた1カンでした。
ケガニ。見た目こそシンプルですが、味わいの迫力としては六本木すし通のアレを凌駕します。小粒でもビビリと旨い、そんな鮨。
アンコウ。これは抜群に美味しいですねえ。一般的にアンコウは軍艦にすることが多く、輪切りのカッチカチなものが多いですが、これは実にクリーミーな舌触りであり、シャリと共にホロホロと解けていき、口の中でリゾットが完成します。お見事!
煮ハマグリ。酷く柔らかく絶妙な火入れなのですが、ヘンに味付けが濃いわけではなく貝そのものの味わいが上手く引き出されています。
地味に旨いシリーズ。茄子に万願寺唐辛子。地味旨い。
アイナメ。人生で一番美味しいアイナメです。グニっザクっとした食感に、噛み締めるほどに滲み出る白身の旨味。アイナメってこんなに美味しかったんだと、新たな食材の美点に気づくことができ思わず目じりを下げる。
アジ。こちらも新鮮ながらもトロっと舌にへばりつく味わいであり、やはり私は高級魚よりもこういう魚のほうが向いているのかもしれません。
ハモ。当ブログ内で繰り返し記載しているのですが、私はハモという魚にさほど興味はなく、今夜のそれもまたその壁を超えて来ることはありませんでした。
キタムラサキウニ。なるほどウニである。美味しいのですが、ややプレーンというか、深みに欠ける味わいでした。
ヤリイカ。緩急があっていいですね。包丁の先の切れ目から舌に身が吸い付き、甘味がダイレクトに伝わってきます。
ここからマグロ4連発。本日のマグロは北海道噴火湾産のものとのこと。ぐわー、赤身が旨い。香りが強く、味が濃い。なるほど築地ナンバーワンのマグロ仲卸「やま幸」とグルなだけあって、文句なしに美味しいマグロです。
徐々脂の量がクレッシェンド。先の力いっぱいの赤身の旨さに円みが持ち始めました。

写真は撮り忘れましたが、ちょうどこのころ野菜のつけあわせとしてピーマンと塩昆布の和え物が供されています。こちらもやはり地味旨く、つけ合わせとして最適です。
中トロ。脂のノリがノリノリであり、より甘味が強くなる。
〆は大トロ。美味しいのですが、個人的には赤身の衝撃のほうが忘れられません。あんまりトロトロばっかり食べるよりも、赤身主体で仕事のバリエーションを持たせたラインナップを次回は楽しんでみたいところ。
シンコは2枚づけで。いいですねえ、この振り出しに戻る感。強めの〆にシンコの旨味。内臓がリセットされ、第二部の幕開けである。
クルマエビ。ミディアムレアに仕上がりつつ、食感よりも甘味が印象にのこった1カンでした。
タイラガイ。うーん、これは食感が無いに等しく、これまでのはっこくオールスターズに比べると些か影が薄く感じました。シャリはどかしてノリで挟んで食べたほうがいいのかも。
エボダイ昆布〆。こちらも序盤のキスと同様にあまりタイプではない。どうも私は熟成とか昆布〆とか、こねくり回すのが好きじゃないみたいです。もちろん好みは人それぞれ。
地味に旨いシリーズ。ケールにクレソン。こんなにシンプルなのに、地味に旨い。恐らくケールクレソン業界としては最高品質のものを使っているに違いない。
マダコ。これはハッキリとした歯ごたえならびに味付けであり、ツマミは出さないといいつつも極めてツマミ寄りの1カンでした。
サワラ。先ほどはこねくりまわすなと言っておきながら、朝令暮改でこのヅケは実に旨い。ジトっと脂の乗ったサワラに程よく味が沁み込み、今あなたかが想像しているサワラとは全く異なる斬新な味覚です。
イワシ。この魚も最高に旨いですね。とにかく脂がリッチであり、程よい苦味と濃い旨味。個人的にはマグロのトロよりも全然好きな味覚です。
タチウオ。焼いているというわけでもなく、ちょっと珍しい握りです。火が通っているのかいないのか微妙な食感であり不思議な味わいでした。
エゾバフンウニ。こちらは先のウニよりも段違いに美味しいですね。とにかくウニの味が濃く、力強い海苔の風味にも全く負けていません。
ノドグロ。お、美味しい(ボキャ貧か)。高級魚にそれほど価値を見出さないと言っておきながら、やはりノドグロは文句なしに美味しいですね。味が濃く、脂も強い。和牛のようなお魚です。
アナゴ。ホロホロと解けゆく食感にビビッドなツメ。ああ、この饗宴も終わりに近づいているのか。
お椀はシンプルな仕立てながら魚介の風味が強く私好み。
千秋楽のギョクがちょっと変わっています。緻密で滑らかな舌触りに表面はキャラメリゼされており、クレームブリュレのような味わいでした。
にぎりのみで三十数貫と、また企画モノの鮨屋が出てきたなと斜に構えていたのですが、最初から最後までストーリーと山谷があり、全く飽きることがなく実に素晴らしい構成でした。

一般的な鮨屋の「そろそろにぎりますか?」プレッシャーなどは何も無く、回転寿司世代には堪らないコンセプト。進取の気性というよりは、ひたむきに基本を追求し、サプライズはベーシックから生まれるということを証明したお店です。健啖家のお友達と6名1室貸切でどうぞ。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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