Eataly/MSC Preziosa

 MSC Preziosa号にある有料レストラン。2007年トリノで開業したイタリア食材販売ならびにレストランを手がける総合フードマーケット「Eataly(イータリー)」の出店です。日本への進出は三井物産系の会社が手がけており、日本橋三越や東京駅グランスタでの開業は大きく話題となりました。
Eatalyという名前は、英語のEATとITALYという2つの単語の組み合わせであり、「世界中の人々に最高品質のイタリア食材を知ってもらい、優れた食文化を促進することが私たちの目標です」と鼻息が荒い。
なのですが、メートル・ドテルに有料レストラン予約の相談をした際、少しばかり顔を曇らせ「Eatalyは有料となるがそれでも良いのか?」と全く姿勢が乗り気ではない。加えて「であれば店まで行って直接予約してくれ」と投げやりな対応。あまり有料レストランを推さない芸風なのかこの船は、と納得のいかない気持ちを抱えながら直接店舗を訪れ予約を入れる。
さて本番。予約時刻通りに店舗を訪れると、どうも照明が間引きされているような暗さがあり、些かの不安を抱えながらレセプショニストに予約名を告げる。100席近くあるレストランなのですが、予約表を覗き見ると4〜5組の名前しか認めることができませんでした。プリンセス・クルーズの有料レストランなんてテーブルの争奪戦でありキャンセル待ちまで生じるというのにこの差は何だ。しかも19時というゴールデンタイムに訪れたはずなのにゲストは我々だけであり、図らずも貸し切り状態です。
クルーズ船の一般的な有料レストランは20〜30ドルのカバーチャージが課金され、あとは注文し放題ということが殆どですが、当店はカバーチャージが不要な代わりに、1品ごとに課金されるアラカルト方式。
まずはイタリアのクラフトビールを750mlサイズで注文。アンバーらしさが漂う深みとコクがあり美味しかった。
パンはEatalyの紙袋に入れられているものの、恐らくはセントラルキッチン方式で焼かれたものであり、ビュッフェレストランで供されてるものと大差ありません。
前菜にブッラータ。ブッラータとはモッツァレラチーズにクリームが練りこまれたような感じのフレッシュチーズであり、私の最も好きなチーズのひとつなのですが、私の知っているブッラータとは全く趣を異にするものでうろたえる。
店員を呼び止めこれは本当にブッラータかと問い詰めると要領を得ない説明。であれば百聞は一見に如かずとばかりに「開けたパッケージを持ってきてくれ」とリクエストすると、そのパッケージには確かにブッラータと記載されていました。これでは完全にクレーマーではないか。

いや、こんなブッラータなんで見たことがない、もっと、こう、トロっとしてて、ストラチャテッラが流れ出てそうれはもうミルキーでジューシーなものなのに。恐らく一旦冷凍後、めちゃくちゃに解凍したものであり、水分が分離して流れ出てしまったからこんなにボソボソになったのでしょう。こんなブッラータは初めてです俺はクレーマーじゃないクレーマーじゃない。
イルプルポ。これはそう悪くありませんね。前日に食べたタコの煮込みとは全く異なる料理であり、一旦香ばしくグリルされたタコの食欲をそそる焦げた風味が堪らない。ソースは豆をすり潰した何かであり、不味くもなく旨くもなかった。
ピッツァ・マルゲリータはドミノ・ピザ級の味わい。船内の広告においては由緒正しきナポリ風の生地であったのに、我々が食したそれはピッツァではなくピザでした。しかも店員が4つに切り分けひとつづつ小皿に取り分け各人にサーブするという独特のおもてなし。
ボンゴレ。これは実に食欲を削ぐビジュアルです。ソフト麺のようなふやけきったパスタに全く油分が周っていない。恐らく当店の料理人は正解を知らないまま分量だけが記載されたレシピ通りに作成しているのでしょう。どうして客は我々しかいないのにこれだけ不味く作ることができるのか。
カルボナーラは更に地獄。ラーメン二郎ですら尻尾を巻いて逃げ出すほどピシりと角の立った極太麺です。ざくざくボソボソと食感は史上最悪であり、小麦粉の風味もへったくれもありません。

ソースは朝食のスクランブルエッグと大差なく、肉はグアンチャーレやパンチェッタなはずもなく、焦げきったベーコンの切れっ端がチョロチョロと加わっているのみ。カルボナーラの由来であるはずの黒胡椒は一切加わっておらず、絶対に味見をしていないだろう塩気の薄さ。一人暮らしを始めた学生が初めて作った料理にすら達していない味わいであり、先のボンゴレと同様、調理者はカルボナーラとはどのような料理か正解を知らないまま製作したとしか思えない完成度です。

以上、飲んで食べて1万円。メインダイニングでの食事に耐えかねて有料レストランに逃げた我々ですが、その先にはより一層の試練が待ち受けていました。日本のカプリチョーザのほうが数十倍美味しく、このクオリティであればサイゼリヤでミラノ風ドリアを30個食べたほうがまだマシというものです。
冒頭、予約名は4〜5組しか認めることができなかったと記載しましたが、これは航海を通しての予約数だったと確信。このような現実をEatalyは知っているのでしょうか。これまでの人生でトップクラスに酷いイタリア料理店でした。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。

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