某高級鮨店において港区ババァが大暴走した話。

とある地方の高級鮨店に来ました。絶えず笑みを浮かべている感じの良い地元の夫妻と同席し、舞台さながらの一枚板で大将と向かい合う。さて今日はどんな美味しい魚にありつけるのかと期待で胸を膨らませていると、入り口の方からカツカツと品のない足音が聞こえてくる。

「きゃあー!遅くなってごめんなさーい!コンチワッ!よろしくお願いしますぅキャハ☆」でたー!不倫カップル!しかも入店して0.1秒で店全体の雰囲気をうすら寒いものにする、飛び切り下品な女の登場です。美人だが低俗。最も破壊力のあるパターンである。

「あたし、○○でCAやってるんですよっ」耳を疑うとはまさにこのこと。自らの職業に誇りを持つことは素晴らしいことですが、これでは同社の真面目な同僚たちがあまりに不憫である。非常識なほど不用意かつ不必要な発言であるため、当該エアラインのライバル会社が名誉を毀損するために送り込んできた刺客ではないか、と、穿った見方までしてしまいました。

「○○の社長とフライトが一緒だったんだけどぉ〜、すごく感じ悪くて〜。もうご一緒したくないって感じ!」ツッコミどころが多すぎてどこから手を付ければ良いか判断に迷いますが、紙幅が限られないのがインターネッツの美点である。

まず、乗客はそこまでCAのことを気にかけてない。前提として、彼女たちは保安要員だ。我々がビッグサンダー・マウンテンのキャストの顔をイチイチ覚えていないのと同様に、当該社長は彼女のことを1ベクレルも記憶していないことであろう。加えて自社のお客様の身元を明かし、公共の場で悪口をペラペラと並べ立て、他人を裁判する狂気。

「ここのお店、気に入っちゃったっ!港区に出店して下さいよ〜港区にぃ〜」大阪市港区や名古屋市港区もあるというのに、港区と言えば東京都港区と信じてやまない傲慢さ。このようなマダム・コンプレックスがいるから東京都港区の価値が毀損され、いかがわしい地域と勘違いされてしまうのでしょう。せっかくなので彼女たちと同席中の小一時間、何回『港区』と発言するのかと数えてみたのですが、驚きの17回でした。

「港区に出してもらえたら、毎週でも通っちゃう!○○とか△△とか□□とかはリストラしなきゃね!」伏せ字で挙げたお店はいずれもが都内の有名店。彼女はリップ・サービスのつもりなのかもしれませんが、店主にとっては明日は我が身の戦々兢々。

「三谷でしょ?すし匠でしょ?よしたけでしょ?あらいでしょ?もう、有名なところは何度も何度も行き過ぎちゃってキャハ☆」彼女は良識と引き換えに鮨屋のスタンプラリー券を手に入れたようだ。「お鮨のことなら何でも聞いてね。あたし、いつでもお鮨屋さん開けるぐらい詳しいからキャハ☆」大言壮語とはこのことであり、さすがの大将も表情を曇らせる。毎日野球を観ていれば自分もプロ野球選手としてやっていける世界の住人。こういう女がハワイや韓国に50回も行くのであろう。

「この鰻、おいっしーぃ!やっぱ鰻はこっちで食べないとね!銀座の鰻なんて目が死んでるわ!」イタタタタッ!痛い!痛過ぎるよっ!鰻など産地が限られており、ややもすると当店の鰻と銀座のそれは同じ出自かもしれないのに。

「このお店、最高だわぁ〜!でも、あんまり人に言わないようにしなきゃっ!ホラ、鮨人(富山の有名店)あるじゃない?あそこ、あたしが人に喋り過ぎたから人気でちゃって、もう予約取れなくなっちゃったでしょ?」ボキッ!もはや骨折レベルの痛さである。

その後も彼女は、あそこの店はシャリがどうのワインがどうのと形式的な情報を披露し続ける。もちろんある程度の経験はおありのようですが、知識とは聞かれれば答えられる程度がちょうど良く、決してひけらかすものではない。

同伴の男もしっかりしろと言いたい。あんなクリーム抜きのエクレアみたいな女のどこが良いんだ。高級店に来るのであれば人を選べ。連れが品のない行動に出たのであれば、そっと彼女の手を握り、愛してるよのヒトコトでも言って黙らせよ。

酔いも回り彼女の暴走が止まらない。流石に私の堪忍袋の緒がギリギリガールズになったので、さっさとお会計を済ませて退散する。我々に続き、他の客も全員がほぼ同時に立ち上がる。悲しそうな表情をする大将。残念ながら客は店の映し鏡。客層のコントロールも大将の大切な仕事のうちのひとつである。他の客とタイミングが同じであるため自然とエレベーターでも乗り合わせることとなり、「あれはないですよねぇ」と苦笑いで心が通じ合う。

総括。飲食店での会話、特にカウンターでの発言内容は結構まわりに聞かれているので、あんまりチョーシぶっこいたこと言わないほうが良いですよ。それは自分の価値を下げることに同義であり、お店への迷惑に他ならない。他山の石以て玉を攻むべし。このエピソードを糧にして、皆で健全な飲食業界を創り上げていきましょう


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。