白を基調とした清潔で健康的な店内。窓際の特等席をご用意して頂け、薄暮から夜の始まりまでのグラデーションを楽しむことができ、心地よかったです。ちなみに当ビルの1Fには人気の食パン専門店「乃が美」が入居しています。
コース1本勝負13,500円。ワインペアリングが泡込みで8種10,000円(ハーフサイズ・ショートコースなどもあり)。これに税サが乗って、ひとりあたり3万円弱という明朗会計。
泡で乾杯。シャンパーニュがペアリングにも含まれているのが嬉しいですね。リンゴを思わせる爽やかな香りにボリュームのある果実の味わい。そしてミネラル。樽由来のバターの香りもたっぷりあります。
アミューズはウニ。投げやりなアミューズを出すお店が多い中、当店のそれは綿密に設計されたひと口でした。ウニの量がたっぷりで、質もいい。海苔の風味と相俟って最高の出だしです。
この手の料理としてはレアな火入れの車海老。じっとりとした甘味が味蕾を多い尽くします。他方、カラっと揚げたお頭は最高級のかっぱえびせん。ソースの複雑性はもちろんのこと、ナッツやハーブ、クスクスなどの縁の下もグッジョブです。
すごいリースリング。私はつい先週までアルザスに滞在しておりリースリングばかり飲んでいたのですが、このようなベクトルのものを飲んだのは初めてです。コクと深みがありつつも酸味が豊か。印象的な1本でした。
スープはトマト主体。こちらもスープとしては構成要素が極めて多く、記憶できないレベルです。それでいて不思議と一体感があり、まとまりのある味わい。
パンが旨い。1種限定なのですが、モチモチしっとりとした食感が特徴的で、ポン・デ・リングの質を極限にまで突き詰めたような味わいです。
鮎。迫力のあるプレゼンテーションで、どこからどう見ても鮎と360度目が合う。コロッケ状態のものにもギッチリと鮎が詰め込まれ、全体としてはパクチーなど意外性のある食材が散りばめており、ほろ苦い風味と相俟って大人の味わいです。鮎でこのような料理を構築できるのは世界中見渡しても稀でしょう。
鮎に合わせるタカヒコ・ソガのピノ主体。果実味と酸味が豊かで筋肉的な跳躍が感じられます。しかしながらいわゆるビオっぽい風味と、日本人が日本で作ったワインらしい風味がことさら強い。好みが分かれるワインでしょう。ちなみに買い葡萄が混じっているためドメーヌ・タカヒコは名乗らないそうです。
フォアグラはテリーヌ仕立てで。タマネギの甘味を添加し、トップのパリパリっとした食感が食べる軽快さを演出します。そうだよな、フォアグラってこれぐらいの量がちょうどいいよな。ゲンコツサイズで食べるものではありません。
脂質の豊かなフォアグラにシュナンブランを合わせる妙技。おおー、これはありよりのありですね。軽いフォアグラにはこれぐらいの程よい甘みがちょうど良い。
お口直しにグレープフルーツのグラニテ。味はもちろんのこと、一輪の花を添えるセンスに憧れる。
鰻の白焼きが信じ難いほど旨い。鰻そのものが上質であり、その上を行く調理です。香ばしく、円みがある。付け合せの野菜(特にゴボウ)もすばらー。ちなみにシェフは、当店オープン直前に、あつた蓬莱軒でも修行していたそうな。貪欲にも程がある。
ボトルが登場しただけでニヤついてしまう。なぜこんなワインがペアリングで出せるのか理解に苦しむ。ワインそのものとして完璧に美味しく、また、鰻とのマリアージュもお見事です。
お手洗いから戻ると、連れが、私がお手洗いに立つ前の姿勢のままワインの香りを取り続けており、ああこの人は本当にワインが好きなんだなと愛おしくなりました。ちなみに彼女は私の10倍ぐらいワインに詳しく、「2.5本ぐらいまでは記憶があるかなあ」という程の酒豪です。
ソムリエが「話がわかる奴らだ」と察してくれたのか、ブラインドでの対決をご提案頂きました。私は自信を持って「これは、白ワインである」と回答。100%正解です。ちなみにワインはムルソー。良いワインなのですが、若干トゲが感じられ、甘鯛に勝ってしまったかもしれません。やわらかく樽がきいたブルゴーニュのほうが私のタイプ。
メインはラム。表面は香ばしく、内面は脂身と程よい水分を湛え、極めてジューシー。肉そのものにはディズニー映画のようなわかりやすさがあるのですが、ソースが複数種取り揃えられており、また違った一面が感じられます。
お次もブラインド。今度は真面目に村まで当てにいこうということで、私はポイヤック、彼女はサンジュリアンと、カベルネ主体の左岸まで意見は一致。正解はプロヴァンスのカベルネシラーでした。どうだ、私の舌など実にいい加減なものである。他方、カベルネ比率は50%を超えており、大体合っていると言えば合っているのも私の舌である。
デザート1皿目はパイナップル。生はもちろん、ロースト、ジュレ、ソルベなど7種類の変化球を投げ分けます。非常に濃厚かつ多様性に富んだ味覚であり、ここまで上手に才能を引き出してもらえたパイナップルも幸せであろう。
メインのデザートは桃。メレンゲとアーモンドの生地の中には桃そのものやマスカルポーネなどなど。ルイボスティーのジュレはありそうでない工夫なのですが、これが面白いほど良く合って記憶に残りました。
まさに桃。シロップ漬けの香りに仄かなハーブ、メロンのニュアンス。樽香が嫌らしくなく程よく液体に溶け込み、私が考え得る限り最高の組み合わせです。それにしても本当に良いペアリングだ。
小菓子にも手抜きナシ。シェフの幼少時代の好物へのオマージュということで、雪見大福、プッチンプリン、チョコケーキ、きのこの山。きのこの山が印象的。カカオの風味がきちんと立っていました。伊勢丹あたりがフランスの名ショコラティエと組んで、そういうイベントやるのもいいかも。コアラのマーチとか楽しそう。
コーヒーは大変ありがたい豆を専門家が丁寧に丁寧に焙煎し、ハンドドリップで綿密に淹れられたもの。なるほど旨い。コーヒーだけでも世界と勝負できるレベルです。輪郭のある柑橘系の香りにカカオのニュアンス。素晴らしい1杯でした。
飲んで食べて3万円弱。フロリレージュ的な食後感。空間の良さはあちらに軍配があがるのは仕方ないとして、料理とワインのタッグを考えれば当店の勝利でしょう。
料理は1皿に詰め込む味覚が非常に多い。素材としての構成要素が極めて多く、全てにおいて複雑で奥行きがあり、それでもバラバラとならず不思議なまとまりがあって、設計どおりに物事が進んでいく感覚。モノによっては若干難解で、ある程度ゲストに経験を求めるお店なのかもしれません。
ワインも1万円のペアリングとしては見事。結構な冒険をするものの、決して外すことはありません。何より予算がある程度見えてからお邪魔できるのが客としては嬉しいですね。
噂に違わず非常に満足度が高く、記憶に残ったレストランでした。
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仕事の都合で年間名古屋に200泊していたことがあり、その間は常に外食でした。中でも印象的なお店をまとめました。
- 名古屋うなぎランキング2017 ←1ヶ月集中して昼夜うなぎを食べまくった成果。
- ル・タン・ペルデュ(Le Temps Perdu)/伏見 ←名古屋・ベスト・費用対効果賞。
- レミニセンス(Reminiscence) ←フロリレージュ的な食後感。構成要素が非常に多く食べ手に経験を求める味覚。
- トゥ・ラ・ジョア/金山 ←名古屋の嫁入り道具のような料理。
- 壺中天/新栄町 ←王道フレンチ名店中の名店。
- マスドラヴァンド(Mas de Lavande)/新栄町 ←フォアグラ料理としてはトップクラスの出来栄え。
- 千亀/栄 ←リーズナブルで直線的。素晴らしい焼き鳥屋さん。
- イル コラッツィエーレ(il corazziere)/高岳 ←全ての料理が芸術的な美しさを湛えており、味も良い。
- ドディチ・マッジョ/久屋大通 ←「日本一こだわり卵」というブランド卵を用いたカルボナーラが絶品。
- ビストロ ダイア/新栄町 ←ランチの前菜盛り合わせが圧巻。
- アンティカ オステリア バーチョ ←堂に入ったトスカーナ料理。
- シクラメンテ(Siculamente)/上前津 ←コース料理は5,000円ポッキリと、この質と量を考えれば抜群の費用対効果。
- トラットリア トペ/新栄町 ←これだけ食べて税サ込3,300円見事な費用対効果。
- うどんの千/伏見 ←讃岐をぶっちぎって日本一好きなうどん。
食通たちが鰻の魅力とこだわりを語り尽くす一冊。よしもとばなな、沢木耕太郎、さくらももこ、椎名誠、村上龍、村上春樹、島田雅彦、五木寛之、遠藤周作、群ようこ、などなど最強の布陣が送るアンソロジー。