ル・タン・ペルデュ(Le Temps Perdu)/伏見(名古屋)

伏見駅を降りて徒歩数分。飲食店が連なる一画に佇むハイセンスなエントランス。1Fはバーとしての営業であり、レストランは2Fです。
1Fのクールな雰囲気と変わって2Fは温かみのある雰囲気です。小倉穂高シェフは八事のシェ・コーベ(Chez KOBE)でのキャリアをスタートさせたのち2009年にフランスへ。有名店での武者修行を経ました。
最初に5種のスナックが供されます。エビ風味、ミニクロワッサン、チーズ風味など様々ですが、個人的には右上のカダイフを使ったものの食感が記憶に残りました。
ワインはペアリングをオーダー。当店のPBモノであるブランドノワール。外観は深みを増したゴールドであり、迫力のある色合い。ピノらしい骨格のある味わいであり、どちらかというと冬に飲みたい1杯。
アミューズ1口目はアオリイカのタルタル。隠し包丁が入っており鮨屋のような趣きがあります。イカの鮮度が極めて良く、大根やパクチーなどとの相性もグッド。こんなに美味しい1口スプーンは元町サローネ2007以来です。
アミューズ2口目はスペシャリテ。エアリーなメレンゲを土台とし、ペリゴール産のフォアグラを挟み、三河産のアナゴを乗せる。なるほどスペシャリテと主張するだけあって既視感ゼロの味わいです。アナゴのホクホクとした食感にネットリとしたフォアの旨味がなだれ込む。
豪華なロワイヤル(洋風茶碗蒸し)。たっぷりの毛ガニが敷き詰められ、その上にナスの煮浸しやジュンサイ、旨味の詰まったジュレが組み込まれ、北海道産のウニが所狭しと並んでいます。期待通りの美味しさであげぽよなのですが、若干構成要素がバラバラなきらいがある。もう少し料理としての一体感があったほうが良いかもしれません。
ロワイヤルに合わせるリースリング。ドイツのものでキレイな酸が特長的。食事の邪魔をしない清澄な1杯でした。
パンは普通。
前菜、続く。三陸のホタテ愛知県産の豚の自家製ハム、ツブ貝。写真からは見え辛いですが、ホタテが鮨屋のホタテ以上のポーションを誇り食べ応えあり。貝の旨味が凝縮され、また、サフランの香りを湛えたソースがじんわりと旨い。ハムも品のある美味しさであり、本日一番のお皿です。
おや?香りが控えめだなあと訝りながら口に含むと、アフターにはしっかりとした樽香が。先の貝のソースにぴったりであり、久しぶりにしっかりとしたブルゴーニュの白を飲みました。
豊田のイワナのフリット。結構な量なのですが、エグ味などがなくスッキリサクサクと食べ進めることができます。コンソメで炊いたリゾットや枝豆・空豆も程よいアクセント。イワナを炭火で焼いてから引いた出汁も実に美味しい。
合わせるワインはゲヴェルツ。これは想像していたよりも香りが華やかでなく、あまり特徴のない白ワインという印象でした。
魚料理は焼津の甘鯛。ウロコ焼きにされており、バリっとした食感と焦げた香りが食欲をそそります。付け合せのアワビやトウモロコシには余計な手が加えられることなく素材の味がダイレクトに美味しい。アワビのキモのソースをたっぷりつけて至福のひととき。
まさかの赤ワイン、しかもラングドッグのカリニャンです。しかしながらこれが意外にイケました。ジューシーながら非常に品のある1杯であり、ブラインドで飲めば南仏と答えることは難しいであろう。
メインは青森シャモロック。青森県で飼育されている鶏の品種であり、味は良いが闘争心が強く非常に飼いにくいシャモに、穏やかな気性であるプリマスロックの血液を0.3%導入することにより、シャモの旨味を残しつつ闘争性を弱め飼いやすくしたものです。うーん、サイエンス!

手前はシンプルにソテー。非常にプレーンな味わいであり印象に残り辛い。他方、奥にはコックオーヴァン(鶏肉の赤ワイン煮込み)として調理されたピースがあり、鶏肉の旨味が増した印象ですこぶる快調。つけあわせのジャンボマッシュルームもクセになる味わい。
合わせるワインはシャンベルタン。恐らくワインペアリングの料金は7,000円程度だと思うのですが、冒頭のシャンパーニュに始まりかなり良いワインをお出し頂けます。こちらはやはりソテーというよりもコックオーヴァン向けのペアでしょうか。酸とタンニンのバランスが良く複雑な味わい。
デザートに入ります。ビワのコンポートにメロンのふわふわシャーベット。メロンが良いですね。ただ甘いだけでなく青々とした深みがあり新緑のような味わい。
メインのデザートはマンゴーにココナッツエスプーマ、メレンゲです。野球ボールほどのポーションがありのけぞるような容積なのですが、全体としてたっぷりと空気を含んだ軽やかな一皿であり、スススっと食べ切れてしまいました。冒頭のアミューズしかり、当店のシェフはメレンゲの魔術師である。
最後にほんの一口のアイスクリーム。通常のレシピの4倍のバニラが使われているとのことで実に濃厚。なるほどこれはこれぐらいのサイズでちょうど良いですね。
食後のお茶は武夷岩茶の奇蘭(ウーロン茶)。武夷岩茶(ぶいがんちゃ)とは、wikipediaによると『中国福建省北部の武夷山市で生産される青茶(烏龍茶)・他の種類。茶樹が山肌の風化した岩に生育しているためにこの名がある。中国十大銘茶のひとつ』とのことです。確かに美味しいですが、コーヒーマニアの私としては普通にコーヒーで〆たかった。
ミニャルディーズにも手抜きなし。左の卵の殻に入ったプリン的なものが好きだなあ。トンカ豆の香りが強く桜餅のような風味が漂い、フレッシュなオリーブオイルがすごく合う。右はイスパハン的なマカロンに、バナナ風味のタルト。今ミスタッチで「バナナ風味のなると」って変換されて独りでわろてます。
お土産としてマカロンを頂きました。帰りの新幹線のお供にしよう。

お会計はひとりあたり1.5万円チョイ。何かの間違いではないかと思うほどの費用対効果です。これだけ高品質な料理を食べて、料理代だけであれば7,000円だなんて信じられません。都内の調子に乗ったレストランであれば総額3万円を超えて請求されても文句の言えないクオリティ。

全般的に前衛的な料理ですが、根本的に全ての皿が美味しいのが凄くいい。何なら料金を2~3倍に引き上げて、シェフのフルパワーを楽しんでみたいところです。間違いなく名古屋・ベスト・費用対効果賞です。オススメ!


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