bb9(ベベック)/元町(神戸)


神戸の元町駅から歩いて数分の裏路地にあるミシュラン1ツ星店。食べログは4.36(2018年5月)であり、兵庫県内の飲食店においては紀茂登、カセントに続いて第3位のシルバーセイントです。

坂井剛シェフはスペイン・バスク地方の「エチェバリ」という、薪焼き料理専門店出身。当店も熱源には薪を活用しており、その使用量は月間2トン。サーチャージのあるレストランは世界広しと言えどもここだけではなかろうか。
クロスもなく非常にカジュアルな雰囲気。12席で1回転なので、予約を取るのが超大変。取れたとしても、予約時にクレジットカードを登録してデポジットを取るなど、欧米の人気レストランと同様にドタキャン対策に意欲的です。ミーハーな奴らの「とりあえず予約して都合が悪けりゃドタキャン」的行動を阻止する実に良いシステムだと思います。
バスク地方に敬意を表しチャコリで乾杯。チャコリとはバスクで定番の微発泡ワインです。

ちなみにワインはボトルでの提供に熱心ではなく、ペアリングを強く推奨されます。飲み放題払い放題という従量課金制であり、私は「6種5,000円」のセットを注文。1種70mlほどです。
最初にバゲットの上にバターをのせ、サマートリュフを削ったもの。バターはイタリアから水牛のクリームを取り寄せ、このお店でバター化するというセミ自家製。燻香も感じることができ、素朴ながら印象的な味覚です。
桜えびを食べて育ったアジ。付け合せは赤ピーマンです。素材に率直で実に美味。しかしながらこれは料理というよりも材料という気がしないでもありません。
チャコリ2杯目。こちらは先のチャコリよりもボリューム感があり全く異なるベクトルで面白かった。
パンは全然美味しくなかったので、この1口しか頂きませんでした。
牡蠣。ぷっくりと膨らんだジューシーな牡蠣を一口で頬張ります。泡は牡蠣の出汁から造られており整合性のある味覚。
ブルゴーニュのコッテリとした白。ワインそのものは実に美味しいのですが、先の牡蠣と合うどうかは疑問。ここまで樽香が強いのであれば、ムニエルなどと合わせたかったです。
ケンケン鰹。黒潮に面する紀南地方で、「ケンケン漁」と呼ばれるトローリングのような漁法で1本づつ釣り上げられた鰹です。非常にクリアで清澄な味わいで美味しかった。
トマトに桜えびを散らし、エビのビスクソースを垂らします。これは私の大好物で、本日一番のお皿です。欠食児童のように一気に貪り食ってしまいました。
こちらは当レストランのために造られた大変に希少価値の高いワインとのこと。
富山のホタルイカに長崎のウニ。ウニの形があまり良くないですが、これはミョウバン不使用なのでどうしてもダレてしまうとのこと。見た目通りの安定した大人の味。
リースリング。こちらも大変にありがたいワインだそうですが、料理には全然合いませんでした。ワインに罪はありませんが、どうせなら日本酒を飲みたかったです。
ホワイトアスパラガスは茹でずに焼いて、皮を向いて供されます。先端はトウモロコシのような甘味があって良いのですが、根本部分はエグ味が残りイマイチです。トッピングされたラムの香りが峻烈で、せっかくのホワイトアスパラガスの影が薄くなってしまったのも残念賞。
最初で最後の赤ワインはブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。うーん、意図がわかりません。しかもここから3皿を70mlで保たせよという酷な要求。もちろん追加で支払えばいくらでも出してもらえるのでしょうが、6種でとオーダーしたのだから、ソムリエは責任を持って6種で完成させて欲しいところです。というか6種も提供するチャンスがあるのにこのバランスの悪さは何だ。チャコリ2杯もいらんがな。
金目鯛。女王の風格が感じられる心強い美味しさ。金目鯛の骨などでとった出汁で作ったリゾットも日本人好みの味わいで心なごみます。
メインは熊本の赤うし40日熟成。100グラム以上はありそうな、やや大のポーションであり、かなり腹が膨れました。かと言って極上の一皿かというとそうではなく、調味が極めてシンプルなだけに、工夫の無い凡庸な肉料理に感じてしまいました。
これは柑橘系のアイスだったっけな?芸のない一口であり、あまりデザートにこだわりは無いのかもしれません。
2つめのアイスには燻製の香りを付与。最近はビールだの醤油だの何にでも燻香をつけるのが一種のブームですね。
食後のお茶に選択肢は無く、ミントティー1択でした。
別料金でデザートワインを勧められましたが我々はパス。隣のテーブルを覗くと、なんとソムリエが平気でシャトー・ディケムの98と99なんぞを垂直で出しているのです。素晴らしいワインであることは間違いないのですが、この地、この料理、このデザートで飲むものでは無かろうに。支払い金額は知りませんが、いくらなんでもバランスが悪過ぎでしょう。

実に期待ハズレなディナーでした。一歩も後には引けない限界的な味覚はなく、全てが料理ではなく素材に留まる。素人の私には熱源が薪であることの効用がわからず、玄人筋が仲間ウチで話のタネに行くようなお店に見受けられました(ちなみにこの日の客の話す言葉は全て標準語でした)。

熱源が薪のレストランとしてはトップクラスなのかもしれません。が、飲食店としては中の上。費用対効果までを考慮に入れれば並です。同ジャンルで語られがちな、近所のカセントとは次元が異なるお店と考えたほうが良いでしょう。

ワインは一見こだわっているようですが、あまり体系的ではなく、キッチュな雰囲気が見え隠れします。発掘したワインや珍しいワインをペアリングで出すのは、あるスジでは評価されるのかもしれませんが、本質的に料理に合うかというと疑問です。

このレストランのレゾンデートルが「熱源は薪」だけというのは少し押し出しが弱い。次の段階へ進んだ際に、改めてお邪魔したいと思います。


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