TOKYO Whisky Library(トウキョウ ウイスキーライブラリー)/表参道


「もう一軒行こうよ、近くにいいウイスキーバーがある」ジビエを堪能した後、手早く2軒目の席を押さえる彼女。
表参道の裏路地、シカダの近くに佇む甲子園球場のような外観のウイスキーバー。
図書館さながらにウイスキーが壁一面に並んだクールな内装。ハリウッドのV Wine Roomのウイスキー版です。客の半分は外国人で、皆、カジュアルながらもハイセンスな立ち振る舞い。キビキビと動く店員の人種も多種多様であり、ロンドンやNYにいるような錯覚。
ウイスキーど素人の私は、初めてバーに連れられたOLさながらに『ほうじ茶ハイボール』を注文。上を見ればキリがありませんが、安い飲み物は千円代なので、気軽に楽しむことができるお店です。

「最近はどんな女の子とデートしてるの?」試すような視線で私を射抜く彼女。うーん、近頃はぜんぜん人と会ってないなあ。予定調整するのも面倒だし、ドタキャンリスクもある。だから、行きたいお店があればひとりで行っちゃうなあ。そっちのほうが予約困難店でもカウンターに滑り込み易いし。

「すごくわかる。あたしもプライベートで会う人、すごく絞ってる。オッサンとの食事会とかホント無駄だよね。あたしが私的に会うのは、真面目な交際に発展する可能性がある人か、永久に関係が続く人だけ」私は前者なのか後者なのか、あるいはその両方なのかもしれない。
「毎日の生活で一番大事にしているのは家族だなあ。だってホラ、極限状態になって、最後の最後って局面でも、家族だけは無条件で、絶対的にあたしの味方になってくれるでしょ?」これについては私も身に沁みて理解しています。それは私の25歳の冬、前妻との離婚手続きでモメていたとき、家族が完全無欠に支えてくれたことに拠る。最後の最後まで味方でいてくれるのは祖父母や両親、兄弟・姉妹だけである。
「この前さ、『ここ2~3年で急に、有名レストランに下品な客が増えて、予約も取り辛くなって困ってる』って書いてたじゃん?そうなってしまったのは、あたしたちのせいかもしれない」と、彼女は小さく舌打ちをした。あたしたちのせい?20代半ばの女の子たちが?

「インスタで、どこ行っただの、何食べただの、自慢し合ってるわけ。女子会を開けば予約困難店の話題で持ち切り。行ったレストランでマウンティングし合ってるの。だから、どうでもいい小金持ちのオッサンに『蛎殻町すぎた行ってみたいですぅうキュルルン』っておねだり。結果的に、飲食に大して興味のない奴らがブランドだけを頼って有名店に集まってくるワケ」なるほど一理ある。ギャルの興味の対象が、ブランド物のバッグから高名な飲食店での体験へとシフトしてきたというわけか。

「まああたしも、どうでもいいオヤジと会うときほどひたすらに高い店を要求するけどね。相手に対するどうでもいい度合いと、お店の金額・予約困難性は比例すると思っていいよ。本当に好きな相手にそんなのおねだりするの、申し訳ないもん」
「自分がきちんと稼げてて良かった。だって行こうと思えば、どのレストランだって自分のお金で行けるわけでしょ?生活力があれば人生に選択肢が増えるよね。美貌と若さだけをウリにしちゃうと、ふたまわりも年上のキモい成金オヤジと結婚して、結局不倫だの浮気だのされて使い捨てられるのが関の山だから」

なるほどそういえば僕の男友達もデートは基本ワリカンで、誕生日は彼女にレフェルヴェソンス連れてってもらったって言ってたなあ、確かに彼女もバリキャリで、ボーナスは500万円だったっけ。

「でしょ?本当に行きたい店は、好きな人と自腹で行くものなんだって。『それは稼いでるからそういうことができるんだ』とか非難されることもあるけど、全然わかってないよね。そもそもあたしたちみたいなマインドセットじゃないと、稼ぐことなんてできないのよ」
「あなたもさあ、社交的なひきこもりを気取るのもいいけど、もっと外に目を向けたら?40代50代になった時に今と同じ調子だと、ただのレストランオタクでキモいんだけど。あなたに変わるつもりがないなら、あたしも付き合い方は考えるかもしれない」ただのレストランオタクでキモい。耳が痛い。しかし『貴方のあらゆる言動を誉める人は信頼するに値しない。 間違いを指摘してくれる人こそ信頼できる』と言ったのはソクラテスだったか。

「自分の得意分野に固執しないで、どんどん新しい分野にチャレンジして、謙虚に教えを請えるオトナって、すごくかっこいいよ。懐が広くて魅力的だよね」
「今夜はタケマシュラン第2章の始まりね」ここはあたしが払うから、と手早く会計を済ます彼女。シャンプーの良い香りがしてどぎまぎする。つまり彼女はそれぐらい近くにいたのだ。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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