シェフは池尻大橋オギノの出身であり、奥様の実家に近い鎌倉で2011年に独立。鎌倉駅徒歩15分という立地ながら、2~3ヶ月先まで予約でいっぱいの当店(エテという名のレストランはどこも予約困難w)。食べログ4.01(2018年3月)。私の愛すべきお嬢様女子が「オープン当初から家族で通い詰めている」と勧められていたので期待大。
西麻布81や外苑前フロリレージュを彷彿とさせるコの字型のオープンキッチン。12席と小体なお店なのですが、全席埋めることはない。カウンターの割にとてもゆとりのある空間です。
カテゴリとしてはビストロなのですが、内装やテーブルセッティングを含めて非常に今風なお店。BGMはEDMの名編をアコースティックで。どフランス料理の店としては変わった選曲です。
料理は7,800円のコース1本。この日はメインで山形牛のイチボかシャラン鴨かを選択することができました。
コース料理にアペリティフ(食前酒)が含まれています。スパークリングワインを注文するとカヴァが供される。まさに表面張力ゲームといった具合に気前良く注いでくれました。
アミューズは寒ブリの燻製。コテコテに脂がのったブリに心地よい薫香。理屈抜きに美味しいです。カブや根セロリ、キンカン、ワサビ菜のアイスクリームなど、アミューズとしては恐ろしく手の込んだ1皿。
シェフが料理はもちろん配膳からワイン、皿洗いに至るまで全てをこなす、すき屋も真っ青のワンオペ。それなのにここまで凝った料理を出し続けるのは神業に近い。
アミューズ2皿目。フォアグラのテリーヌにマンゴー。フォアグラのコッテリとした味覚に負けないマンゴーのトロピカル。
白をグラスで。樽のきいたシャルドネで、ハチミツのニュアンスや骨格のある旨味もありグッド。先のフォアグラにピッタリである。これで1杯1,200円なのだから堪らない。
少し炙ったウニにツブ貝、ホタテのブルゴーニュ風(エスカルゴ的な)。いずれの素材もそれが何かがハッキリとわかる味ならびに量であり私好み。ソースはこれがフランス料理だと言わんばかりのクラシックな味覚で実に美味しかった。
面白いタイミングでグジェール(チーズを混ぜた風味の良いシュー皮)が出てきました。水分を湛えたしっとりとしたタイプであり、先のブルゴーニュ風のタレにつけずともこれ単体で美味しい。
バーニャカウダ。鎌倉だけにもっと濃い味を期待していましたが、野菜そのものの風味は中くらい。他方、カニとカニミソのソースが今あなたが想像している通りの美味しさであり日本酒が欲しくなる。備え付けの海藻を練りこんだバターも驚くほど美味。
フキノトウのベニエ(天ぷらみたいなやつ)。シェフがあまりに忙しいのか、若干イマイチな揚げ具合でありベチャついています。もっと高温でサクっとした作りのほうが私は好き。
野菜や魚が続くので、もう1杯の白。シェフが常に料理の鉄人ラスト5分のようなチャカチャカした動きであり、酒を注文するのが申し訳なく感じてしまう。
サーモンの燻製に卵黄、新玉ねぎのピュレにトマトのジュレ。こちらも直球勝負の味覚であり、時間が経った今でもその味がどのようであったかを克明に思い出すことのできるわかり易い味覚です。トロトロのサーモンに濃厚な卵黄、優しいタマネギの甘味。
「まだまだ量は食べられますか?」と問われたので、鷹揚に頷くと、子供のゲンコツほどの大きさのフォアグラのポワレが出てきました。なんと享楽的な料理。しかも大味というわけでは決してなく、コンソメの正統的な風味と相俟って心から美味しい。今夜は人生で最もフォアグラを食べた夜として、私の伝記に刻まれることであろう。
スズキのパイ包み焼き。これが絶品。フワフワとした食感にシュシュっと舌の上で溶けるムースのような舌触り。こんなに美味しいスズキのパイ包み焼きは食べたことがありません。アサリの出汁にトマトで風味付けし、エストラゴンでアクセルをきかせたソースもグッド。あの特大フォアグラを食わせた後にここまで美味しいと思わせるのは凄いことです。
メインはシャラン鴨をチョイス。これまた200グラム近くはあるのではないかと思えるほどのメガトンパンチ。それでも均一なロゼに仕上がっており、肉そのものの味が濃い逸品。ソースはガストリックを土台にポルト酒や種々のスパイスを。
ちょっと冒険してマディランをグラスで頂いたのですが、スパイシーなソースとピッタシカンカンであり大当たりでした。
デザート1皿目はココナッツのブランマンジェにはっさく、甘夏、ヨモギのパウダー。ココナッツの風味は控えめでありスイスイと胃袋に落ちていく味覚です。ヨモギの苦味が心地よいアクセント。
デザート2皿目はチーズスフレ。こちらもネーミングに比して軽い味覚であり、フォアグラや鴨などヘヴィ級の料理を食べてきた私にとってはちょうど良い味わいでした。ひゃー、それにしても満腹だ。並の胃袋では完走は難しいかもしれません。
小菓子に赤ワインのガナッシュ。少し残しておいたグラスワインと共に食べるとちょうど良い。
旨いコーヒーを早々に飲み干し、おなかがいっぱいだ、と放心状態でいると、レモングラスのハーブティを追加でお出し頂けました。心温まる気遣いである。お会計はひとりあたり1万円と少し。信じられないくらい安い。こりゃあ人気が出るわけだ。鎌倉の奇跡。まことに素晴らしいレストランでした。
それにしてもシェフの忙しさといったらない。八面六臂とはまさにこのことであり、私のように無限に暇な人種としては申し訳なく感じてしまうほどの慌しさです。
旨い料理をリーズナブルな価格で食べさせてくれるシェフの心意気には敬服するのですが、「地獄への道は善意によって敷き詰められている」とは良く言ったもので、いつか身体を壊してしまうんじゃないかと気が気でない。どうか皆さん電話をする際はコアタイムを外してお願いします。
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