代官山の一軒家レストラン。オープンは1978年と、東京のフランス料理の歴史を語るに相応しい老舗。
エクステリアが絢爛とし過ぎて、どこから入店すべきか迷ってしまいます。重厚なマホガニーの扉を開けると、お店の方が皆一同に柔らかい笑顔でお出迎え下さいました。温かみのある空気感。これはいいレストランだとゴーストが囁く。
4人でのお食事だったので、ワインは全てボトルで注文。シャンパーニュは9,000円~と、風格の割には親しみのある価格設定です。おつまみのオリーブがまことに美味。
「お前、嘘ついてるだろ」半ば詰問調で連れが言う。『高級レストランでナメられないためのマナー集』で、『「小さいポーションで全種類下さい」とか言うな』と書いていたけど、ナリサワで、俺の目の前でデザート全種類食べていたぞ。
アミューズブッシュはリンゴのジュレにアボカドのムース。ひんやりしたリンゴの香り
に涼味あふれる味わいです。
「あれはデセールではなくミニャルディーズだ。取り分けに時間を要しないから全種類食べていいのだ」と、子供のような論拠で口答えする私。僕ってぎゃんかわでしょ?
「産休育休中は毎日遊びまくれてサイッコー♪」西野カナのようなミルクティー色の明るい髪を湛える不良母。「おとといまで2週間ハワイ行っててさ、ホテル泊まり歩いて超楽しかった~」
パンは6種の用意。手前は豆乳とハチミツのパン、奥はローズマリーのパン。いずれも生地の1ミリ1ミリまでふくよかな味わいであり、特にハチミツの品の良い甘さが心に残りました。
バターが絶品。白い巨塔から気前良く切り出された有り余るほどのミルクの結晶に悶絶。
「きちんとしたレストラン、久しぶりだよね?出産直前のロブション以来だっけ?」子供がいると暫くグランメゾンに行けないから、ってサラっとロブションに予約を入れてくれるだなんて、素敵な旦那様だねえ。
「そうだろ?な?な?タケマシュランでそう書いてくれよ?何なら実名を出してもいい」と前のめりになる夫。彼はホットドッグプレスを毎号欠かさず読んでいたタイプであり、「いやー、妊婦だから酒飲まねーでくれて、おかけで安くあがったわ」と、心の器は実に小さい。
プティオードヴルはサーモンに柿、レフォール(ホースラディッシュ)のムースにキャビアです。サーモンにコクがあり、バシリとつけた焼き目も心地よい。他方、柿の甘味が強すぎてちょっと悪目立ちしていました。
ちなみに給仕陣は常に重みを纏ったオーラを放っており、まるで演技を見ているようなサービスです。我々は気持ちの良いひと時を過ごすことができましたが、場慣れして無い方は少々たじろいでしまうかもしれません。
鯖のマリネに椎茸のタルトレット。濃密な鯖の旨味に香ばしく肉厚な椎茸がベストマッチ。付け合せの紅芯大根にはカラスミが塗されており酒飲みには堪らない演出です。そういえば酒の写真を撮るのをすっかり忘れてしまいましたが、今夜は男2女2で泡1本白1本赤1本であり、つまり4人で3本というちょうど良い酒量です。
パンをおかわり。ミルクのパンに、フランボワーズのパン。後者が思いのほか果実味のはっきりしたパンであり、食事と合わさずともこれ単体ですごく美味しい。パン屋として世間に遍く売り出して欲しいところです。
森の茸のヴルーテ、黒トリュフ香るムースリーヌと白子のベニエ、ズワイガニのフランを添えて。液状化現象を起こした中身の濃いキノコの風味に黒トリュフの風味でトドメを刺す。白子も品が良くエロガントな味覚であり、カニの旨味で味蕾を激しく興奮させる。見た目は華やかではありませんが、全く美味しい一皿でした。
肉料理は新潟の鶏肉。なんだ鶏肉か、と一瞬テーブルの空気が冷えましたが、一口食べて納得の味わい。鶏の品質が素晴らしく、あわせて素材に語らせる調理であり、それはそれは見事な鶏料理でOCです。
アヴァン・デセール(本デザートの前座)はモンブラン。滑らかな舌触りに円やかな甘味。ビビッドなヴァニラの風味。きちんとしたレストランできちんとしたスイーツを食べる幸せ。
名物の『マダム・トキ ワゴンデセール』。どうだ、と言わんばかりにテーブルの上がケーキで埋め尽くされています。お母さん、子供の頃の夢が叶いました。
ナッツが盛り沢山のタルトが秀逸。ヴォリヴォリと迫力のある咀嚼音にナッツの風味が弾けます。本当はもっともっと食べたかったのですが、己の胃袋の小ささに切歯扼腕する。
プティ・フールもお好きなだけ。ソーダ味のギモーブ(マシュマロみたいなやつ)が想像以上の清涼感に溢れており印象的。
これだけ飲み食いしてお会計はひとりあたり1.7万円弱。なんともリーズナブルな価格設定です。明細を見返すと、食事そのものが安いですね。デザートワゴンまで付いて税込7,600円は他の追随を許さない割安感。ヘンなスイーツブッフェなんか行くよりも、当店でゆったりと食事を楽しんだほうが素晴らしい経験となること間違いなし。
「もう少し飲もうか」という運びになり、突然ですが彼らのお宅へお邪魔することに。ゴシップガールさながらのお洒落な部屋に、例の看板。「こじはるも住んでるんだよね、このマンション」お、お前スゴイな。ってかこじはるが凄いな未だ20代なのに。ベビーシッターとバトンタッチして子供をあやしにかかる主人。シッターさんの報告書的な用紙を見せてもらったのですが、病的なまでの監視体制でもはやワロタレベルではない。睡眠中の体の向きの矢印など、私なら適当に上上下下左右左右BAと書いてしまいそうなものである。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
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