レヴォ(L'evo)/富山


都志見セイジシェフと同時期に、日本初のゴ・エ・ミヨにおいて、今年のシェフ賞2017を受賞した谷口英司シェフ。ご両親も料理人というサラブレッドが富山で織り成すアートはいかほどか。
富山駅から車で40分ほど。リバーリトリート雅樂倶というリゾートホテルのメインダイニング。予約開始日に(カード会社のコンシェルジュが)必死で電話しまくったのですが、箱が広く空席もいくつかあり、それほど予約が困難というわけではなさそうです。
店内は思いのほかカジュアル。ミシェル・ブラス トーヤ ジャポンとまでは言わないまでも、もう少しきちんとしたテーブルセッティングを想像していたのですが、風呂あがりの浴衣姿でもOKとのこと。
カトラリーとメニューは引き出しから。最近よくあるプレゼンテーションであり「あ、ラスだ」「あ、サッカパウだ」と口々に記憶を手繰る参加者たち。嫌な客である。
ワインリストがイマイチだったので、ワインペアリングは無いかとスタッフに問う。「あのー、えっと、まだ何をお出しするのか決まってないので~」と判然としない説明。つまりいくらなんだと改めて問うと「うーん、泡込みで8~9千円ぐらいだと思います」という不安になる受け答え。しかしながらグラスで出されたシャンパーニュはコチラ。悪く無いじゃないか。
手際良くずらりと並べられるアミューズ。5品もあってあげぽよです。メニューを見遣ると地元の食材ばかりを使った旨そうな料理名が並び「ああ、この店は大丈夫ですね。きっと旨いですよ」と、何も食べていないのに早々に結論を出す我々。
まずはビーツのマカロン。雛鳥のムースが挟み込まれており、若干の臭みがあります。メレンゲ部分は好きですが、ムースはイマイチでした。
こちらは黒ゴマのパイ。リエットが挟まっているのですが、これは実に美味しいですねえ。黒ゴマのパリっとした食感に、リエットの深みのある旨味。泡が進んで足りなくなります。
グジェール(チーズを混ぜた風味の良いシュー皮)は標準的なもの。
米でできた煎餅(当たり前か)にタピオカと甘エビを乗せて。甘エビと煎餅の取り合わせの妙と言ったら無い。タピオカは似たような食感で面白いのですが、若干カサ上げしている感は否めないので、甘エビだけで良かったかもしれません。
牡蠣は思い切り揚げられているのですが、それでもこのポーションを保っているということは、生ではさぞや巨大であったことでしょう。衣の味付けが強く、牡蠣そのものの風味もすこぶる凝縮されており、非常に味の濃い一口。ややもすると居酒屋料理チックな味覚です。
神経締めの真鰯。恐ろしく新鮮であり、逞しい歯ごたえ。モリモリとアクティブな咀嚼感に爽やかな脂の旨味。めくみの大将は「最近はイワシが獲れすぎて困る」とボヤいていましたが、それならそうと、このように出してしまえば良いのです。
ソムリエが「このイワシにはシラー」と熱弁して去っていきましたが、1ミリも合いませんでした。ちょっと謎のセンスだなあ。我々はワインと料理の取り合わせに対して神経質な集団なので、このグラスは脇で休憩してもらい、瑞々しいイワシは水で食べました。
米粉のパンが唸るほど旨い。米粉のパンは言われるまで米粉と気づかないことが多いですが、これはまさに米であり、日本人としてのDNAが潤う心地。
ヤリイカ。火が通っているのか通っていないのか不思議な味覚であり、目を閉じて食べれば和食のように思えてきます。ホクホクとした銀杏も愛くるしいアクセント。
氷見のシャルドネ。ナリサワで何度か飲んだことのあるワイナリーのものであり、日本のワインとしてはトップクラスに好きなもの。料理も酒も地産地消。良い姿勢です。
ズワイガニが主題とのことですが、白子も負けじとたっぷり入っており、通風候補生としては背徳感たっぷりの料理です。カニの旨味がとにかく濃く、その旨味でクリーミーな白子を食べるという贅沢。出汁も野菜も申し分の無い完成度。参りました。
ソムリエが「カニにはピノグリだ」と自信満々で去って行ったのですが、先の前科から斜に構えながら口に含む。わーお、パーフェクト!これは完璧なマリアージュです。確かにカニにはピノグリだ。カニにはピノグリだ。大事なことなので二回言いました。
黒エイ。恐らく生まれて初めて食べる食材です。鶏のナンコツの魚版といった風情で、身はクリアな味わい、ナンコツがコリコリと面白い食感。白眉はソース。ジュラ地方の看板ワインヴァン・ジョーヌを用いたものであり、クミンやナツメグのような独特のスパイス感がベスト・マッチ。ややもすると東方的な味わいであり、記憶に残ったソースです。
「この料理には間違いなくこの日本酒だ」と胸を張るソムリエ。ずいぶんとヒネること。素直にヴァン・ジョーヌ出しときゃいいじゃねえか、と零しながら口に含むと一堂絶句。先の料理に恐ろしく良く合うのです。

通常は蒸米を掛米として投入するところ、すべて麹を使うという変態日本酒。外観はピカピカの金色であり、熟成した梅酒のような粘性があります。みりんのような甘さがあり、ナッツやスパイスなどの複雑な香り。恐れ入りました。
ノドグロ。なのですが、ノドグロ特有のジュワっとした脂の甘味を感じることができず、マダイに近い味わいです。フキノトウは大人の苦味を湛えており、酒粕のソースも全体の調和を演出する。
合わせるワインはブルゴーニュのピノ。1周まわってこれは全然ダメですね。ひねりにひねってストレッチで体を痛めてしまったぐらい合わないです。この料理こそ日本酒で良かったのに。やっぱり色々と試してみたくなっちゃうのかなあ。もちろんワイン単体ではとても美味しいので、料理は水で食べ、ワインは皿と皿とのインターバルにゆったりと楽しみました。
メインは鹿。これまでの趣向を凝らした料理とは対照的に、ど直球の正統派です。味わいも見た目の通りに美味しく、付け合せの仕上がりも万全。このような基本的な料理があたりまえに美味しいのは、シェフの実力の高さの証明でしょう。
ここまで出ていない地域であの料理と来れば、おそらくボルドーであろう、などと連れと推測していたのですが、出されたワインはイタリアのカベルネ単一しかもナチュール。冒険しすぎでわろてまう。ビオ香がビンビンであんまり好きじゃない。
デザートが秀逸。イチゴのアイスにジャムのような凝縮感があり、ゴロゴロとした果肉も食べ応えアリ。パウダー状のリコッタチーズも絶妙な演出。普段は左党の男性陣にも、「これは素晴らしい」と大うけでした。
ワインはミュスカ。ワインはブドウからできているのにブドウの味がしないという不思議な飲み物ですが、このワインに限ってはマスカット味が濃厚であり、甘味のレベルも先のイチゴと同等でバランスが良かったです。
お次はル・レクチエ(西洋梨)のパイ。クリームの美味しさはもちろんなのですが、とりわけパイの味覚が心に残りました。パイのような、どシンプルなもののレベルが高いのは実にプレシャス。パティシエも相当な手練れとみた。
食後酒がズラりと並べられる。MUKUかラタフィアかマールかで迷っていたのですが、「全部召し上がって頂いて結構ですよ~。もちろん追加料金なしで」という大盤振る舞い。連れのヲタクは「あのラタフィアはめちゃレアで、僕が買うの凄く苦労してるのに。。。」と複雑な表情。

図々しくも全種類頂いたのですが、見立て通りMUKUかラタフィアかマールの3つが横並びで素晴らしかったです。ここまで来ると完全に酔っ払いである。部屋飲み用に酒を買い込んでいたのですが、それらに一切手を付けることなく眠りに落ちてしまいました。
いや~、素晴らしい料理ならびにワインでした。お会計は料理が1万5千円にワインが9千円と、このクオリティにしては破格。都心なら5万円取られても文句なしのレベルです。

前衛的な地方料理ながら何を食べているかきちんと理解できる調理がいいですね。この皿の主題は何かと直感的に認知できる。ワインのチョイスは蛮勇そのものであり、所々ずっこける場面もあるのですが、記憶に残るという意味で意図的なのかもしれません。ワイン・ペアリングなんてのは、ちょっとはみ出すくらいがちょうどいい。

人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店です。決して田舎効果(アクセスに苦労すると何もかもが良く思えてしまうこと。今、考えた)に惑わされているわけでなく、これまでの飲食経験に照らし合わせて間違いなくS級。次回は季節を変えてお邪魔したいと思います。オススメ!


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