一献(いっこん)/片町(金沢)

金沢イチの繁華街、「片町」から1本入った路地に佇む雰囲気のよい一軒家レストラン。ミシュラン2ツ星です。
店内はL字型のカウンター8席のみ(写真は公式ウェブサイトより)。しかもその8席が結構ひしめきあっていて、大将の作業状態が丸見えなことはもちろん、客同士の表情や会話まで手に取るように把握できる。褒められた関係でないカップルでの入店は目立ってしまうかもしれません。

ちなみに同じ時間帯に入店したカップルの男性が70代のお爺さんで、同伴者がまさに絶世の美女であり、「あれは金沢でもトップクラスですねえ」と地元の友人。青春は永遠だ。
快活な女将がまず一献と、店名と同じ山形のお酒をふるまってくれます。店は大将と女将が2人で切り盛りされており、ちょうどよい人数比です。
これは茶碗蒸しにフキノトウを揚げたものだったっけなあ?連れとは久しぶりに会い近況報告に忙しくって、料理に集中していませんでしたスミマセン。
せっかく石川に来たので地元のお酒を注文します。華やかな吟醸香と、軽快で爽やかな旨味。
春野菜に才巻海老。この野菜には大地を感じる力強さがあり実に旨い。海老も適度に火が通されており、ムチっプチっという食感に仄かな甘味が漂う。
八寸は兎にも角にもブリが旨い。ランチのブリでも日本海の実力を感じましたが、当店のそれも溜息が出るほど美味しいです。また、タラの芽は仄かな苦みとムチっとした食感が春の到来を告げてくれました。
こちらも石川のお酒、「竹葉 能登純米」。初めて聞くものであり、ほとんどは地元で消費されているような。凝縮感のある牡蠣と共に飲むにぴったりです。
お椀の主役はしんじょうと見せかけて、実はタケノコではなかろうか。私はタケノコのことがそれほど好きではなく、出されれば食べますが積極的には興味を示さない。しかしながらこのお椀にあるそれは思わず惹きつけられる味覚であり、こんなに旨いタケノコもあるのかと反省した瞬間です。
刺身はアジ、バイガイ、マグロ。個人的にはアジが良かった。また、アジの裏に隠れたホウレンソウのおひたしがスマッシュ・ヒット。出汁に通されているのか、ホウレンソウそのものの味に程よく旨味が乗っています。
こちらはメニューに無かった秘密のお酒。農口酒蔵の山廃です。中々に強烈な仕上がりとなっており、序~中盤で飲むにはストロングすぎたかもしれません。しかしこれはお店側と相談しなかった私の責任である。
焼魚にはヤナギサワラの西京漬け。サワラの脂がちょうどよくジューシーで、西京漬けの風味も上品。これは白米よりも日本酒が進む一品です。付け合せの加賀レンコンもシャクシャクと良い歯ごたえ。
スペシャリテの鰯のつみれ。なるほどスペシャリテと呼ぶに相応しい圧倒的な存在感があります。半分は優しさでできているのではないかと思えるほどの柔らかさ。そのふんわりとした食感から鰯の野生的な味覚がビンビンに迫ってくるのが面白い。

相棒は超高級ブランドシイタケ「のとてまり」。場合によってはマツタケを超える価格であり、2017年12月の初競りでは1箱(6個入り)で17万円の値が付いたそうな。その味わいは筆舌に尽くし難い。まさに鞠のように弾力がある食感に、溢れ出る肉汁(?)。香りも味も豊かであり、はっきり言ってマツタケやトリュフなんかよりも全然美味しい。参りました。
辛口で切れがある。本格派の日本酒であり、この価格でこのクオリティはリーズナブル。
食事は芽キャベツとシラスのごはん。芽キャベツを土鍋で炊き込んで食べるのは初めてですが中々イケますね。こんど家でやってみようかな。
お味噌汁は出汁と味噌のバランスが良く、両方の風味が調和して感じられ私好み。
お漬物も美味しいのですが、お漬物をツマミにお酒を飲むのが好きな私としては、もう少し量が欲しいかな。
お餅は甘さ控え目で、最後の最後であってもスイっと食べ切ることができました。

お会計はひとり1.6万円ほど。ビールに始まりそれなりに飲んでこの価格はリーズナブルですね。正統派の和食といった料理であり、日本料理の護憲派最右翼。地元の食材を多用しているのが旅行者にとっては嬉しい。席数が限られており予約困難なのが難点ですが、金沢旅行を決めたその日に電話するに値するお店です。


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