階段を登って左手にある建物。外から内部を窺うことはできず、戸を開けるには少しの勇気を要するエクステリア。
カウンター6席のみという、ラーメン屋よりも小さい店内。「鈴木先輩、カレシできたらしいよ」「何それエリート街道まっしぐらじゃん」何がどうエリートなのだ、というツッコミはさておき、近くのOLの与太話がダイレクトに耳に入ってくる距離感です。『お一人様向けイタリアン』と銘打つだけのことはある。
どうやらスナックから居抜きで借り上げたようで、火元はカセットコンロのようなものが2台のみと、料理人にとっては地獄のような環境。
小体な店ながらグラスワインは充実。しかもその組み合わせが面白くって、私はCプラン、すなわち「黒板から3種選んで2,000円」というリーズナブルなものをチョイス。1杯目は泡をお願いしたのですが、並々と注いでくれ有卦に入る。
まずはスピエディーノ。イタリア風串焼きです。アボカドを炙った和牛で巻いた上で串で刺したもの。厳密に言えば「串焼き」ではありませんが鰯の頭も信心から。程よく纏った和牛の脂とコッテリとしたアボカドがベストマッチ。強めに振られた塩気がワインを誘う。
お通しでしょうか、ゴボウのマリネとカリフラワーのスープ。前者は洋風キンピラゴボウといった風情で面白い。後者は立派なレストランで出しても全く問題のないクオリティで美味しかった。
春野菜とスミイカのスミ煮込み。春野菜は芽キャベツ、スナップエンドウ、プチヴェール、菜の花。気前良くゴロゴロとイカの身が入っており、春野菜がその旨味の繊維の隙間に取り込み無窮の味覚が感じられます。それでいて1,000円を切る価格設定だというのだから恐れ入る。
2杯目はロゼを選択。この規模でロゼのグラスワインを用意するって凄いよなあ。よっぽど酒飲みが集まるのかなあ。
「この前カレシできたんだけど、2週間で別れちゃった。人生最短。付き合ったら急にソクバッキーで。友達の時だとわからないもんだよね」なるほどそういう意味では欧米のデーティングという取り決めは合理的とも考えられる。
タイミングを見計らってフォカッチャを温めて下さいました。オーブントースターのチーンという音が郷愁を誘う。それにしてもこの狭さ、この調理器具でシェフは本当に良くやっていると頭が下がる。
メインは鴨。フライパンで表面に焼き目を付けてから、温度計を見ながら丁寧に丁寧に低温で火を入れていきます。まさに自分のためだけに真心を込めて料理してくださっており、当店はイタリア料理界の真心ブラザーズでしょう。このような料理が旨くないわけがない。肉汁を詰めたジュのソースも正々堂々としており、本日一番のお皿でした。
鴨にはタンニンのしっかりした赤を。
「やっぱあたしは年上じゃないと付き合えないなあ。同い年と喧嘩して言い負かされるとムカツクじゃん?だから、どうせなら一回りぐらい年上に言いくるめられたい 」一回りも年上だと仏男子で喧嘩にすらならないよ、と思わず言いくるめてしまいそうになりましたが、危ない危ない私はひとりで飲んでいるんだった。
そうそう、鴨の付け合せは別皿で山菜のグレープフルーツマリネ。山菜はウド・タラの芽・コゴミ・ウルイと多種多様。春の到来を告げる付け合せでした。
お会計は6,450円と極めてリーズナブル。低姿勢で現実的な店構えも素晴らしいコンセプトであり、近所にあれば毎日でも通いたい。この店ごと都心に持っていけば大当たり間違いなしなのですが、この街は藤沢。例え藤沢がセレブタウンだとしても、当店の価値を理解してくれる客がどれだけいるのか心配になってしまいます。
私が都心から何度も通い詰めることができないだけに、彗星に図面を引いたシェフを何としてでも評価したい。最善を尽くした後は祈るのみ。どうかこのお店が藤沢イタリア料理界の木鐸となりますように。
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