霞庭まつばら/六本木


枯れた関係の彼女と2人で忘年会。我々に浮かれたレストランは似合わないため、西麻布のビル3Fという渋めの立地にある和食店をチョイス。食べログ4.02(2017年12月)と中々の高評価店です。
「今年も一年ありがとね」と静かにグラスを合わせる。自然とどんなクリスマスを過ごしたか、という話題に移るのですが、「今年は散々だったわ」と眉間に皺を寄せる彼女。
先付けは湯葉・ウニ・イクラの最強コンビ。味付けもわかりやすく、さあ食べるぞという気にさせてくれる味覚です。

「知り合いから紹介された男が猛烈に口説いてきてさ。クリスマス近くに会ってやったんだけど、典型的な何様系男子で開始5分で帰りたくなった。マナーとして120分は耐えたんだけど、本当に辛かった。東大出だのヘッジファンドに勤めているだのMBAホルダーだの、それってあたしに何か関係あんの?」
太刀魚に大根。ホックリとした食感で心温まるのですが、全体としては中間色な味わいでありあまり印象に残らず。

「女は別に大学とか会社のカンバンとかはどうでもよくて、本人そのものの魅力を味わいたいものなのよ」なるほど確かに私には語るべき経歴など何一つありませんが、いつも彼女は傍に居てくれる。これは遠まわしの告白に違いない。今夜は長く語り継がれる楽しい夜となるであろう。
数量限定の梅酒シャンパン。当店で6月から白ワインに漬けた梅を泡(?)で割ったもの。印象的な外観で気分がアガるのですが、ワインの風味には乏しく一般的な梅酒のソーダ割りに近い。糖度も高く食事には合わないため(アンキモとかにはいいかも?)、脇に置きながら箸休めにチビリチビリとやることにしました。
香箱ガニ。北陸地方で獲れる雌のズワイガニ。今年はたくさんカニを食べた一年でした。手前の茶色の卵は外子(そとこ)。ツブツブとした食感が食べる楽しみを与えてくれます。身の下に敷かれている味噌の部分であるオレンジ色の内子(うちこ)は日本酒にピッタリ。個体そのものが小さいだけあって凝縮感がたっぷり。
日本酒は1合千数百円から2千円超のものまで。 東鶴、黒龍という流れで楽しませて頂きました。

「高収入自慢されても全然ピンと来ないんだよね。あんたが沢山稼いでるってことはわかったけど、どれだけあたしに使ってくれるの?ってトコが問題なのに。もちろんそういう男は釣った魚には餌を与えないってこと、知ってるんだけどさ」
海老しんじょうのお椀。海老の美味しさは語る必要が無く、特筆すべきはスープ。かなり濃い目の味わいで、ややもするとどぎつく感じてしまいますが、わかり安い味覚を好む私としては大好きな1杯です。

それでもパートナーの収入は高いことに越したことはないと思うよ、と素直な感想を述べる私。「そこなのよ。やっぱり港区で普通に暮らすには世帯年収で3,000万円は必要ね
お造りは手前からカワハギ、アオリイカ、ヒラメ。いずれもフレッシュで筋肉質な個体であり、白身魚ながら非常に食べ応えがありました。

まさか。港区には14万世帯もあるってのに、それぞれが3,000万円も稼いでいるとは思えないよ。「だから『普通に暮らす』ってとこがポイントなのよ。4人家族なら家賃が40万円ぐらいかかるでしょ?家賃は収入の2割に抑えるとして、0.2で割り返すとあっという間に2,400万円じゃん」妙に計算が早い。この女、既に電卓で試算してきたに違いない。
白眉は肝ポン酢。カワハギの濃厚なキモをポン酢にじっくりと溶け込ませ、コリコリとした身を浸します。うーん、日本酒をおかわりだ!

クリスマスの話、続く。「他は女子会ばっかりだったなあ。連日連夜ワインパーティ。だから今夜はすごく嬉しい。あたしたち世代の女の子は、フレンチとかイタリアンに連れて行ってもらうことが多いからさ」と、26歳の彼女。
メインはアワビ。バターと醤油という、これまた解かり易いが実に美味。カットも肉厚であり、屈託のない噛み応えが我々の多幸感を煽ります。付け合せのナスもジュワジュワとタレ(?)を吸い込み艶っぽい味覚。メインとしては珍しい構成ですが実に満足の行く一皿でした。
お食事は鯛めし。ワオ!これは嬉しいですねえ。結構な量のタイの身がゴロゴロと組み込まれており食い出があり、メインが割に控えめであった理由はこれかと膝を打つ。普段は小食な彼女が「おかわり!」と威勢が良く、それほど魅力的な食事であったという意味でしょう。
シジミの赤だしも濃厚で平易。うーん、つくづく私は当店の味覚が好きである。

「和食っていいよね。実家に住んでいた時は『和食は家でも食べれるから外食なら欧米系』って信じきっていたけど、最近は一周まわって和食がいいなと思えてきた」
終盤でこのいぶりがっこはズルい。見事なタイミングの日本酒泥棒である。
デザートはカキのアイスにキャラメルのジュレがけ。透明なキャラメルというのはありそうでないコンセプトで心に残りました。
食事の充実感に溢れたお店でした。新機軸を創出した、という驚きがあるわけではありませんが、いずれの皿も真っ当な味わいであり、全ての競技で上位に食い込んでくる印象です。皿出しのテンポも良くサービスも軽快。六本木の和食としては極めてリーズナブルであり、全体として素晴らしくバランスの取れた飲食店です。

エレベータで地上に降り立った我々を階段を駆け下りてお見送りして下さる朗らかな大将。いいお店です。
酔い醒ましにぶらぶらと歩きながら彼女を家まで送る。「ねえねえ、このお店、行ったことある?なかなか雰囲気の良いお店でさ」と、途中にある雰囲気の良いレストランを指差す彼女。

あるよ。というか、3年前にキミと一緒に行った店だ。


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六本木は難しい街です。おっと思えるリーズナブルな店から、高くてギラギラしてるだけのハリボテのようなお店も多い。私が好きなお店は下記の通りです。
レストランの在り方に迫るというよりは、六本木の今にクローズアップした特集。ラグジュアリーで儚い夜の街へと誘うガイドブック。紙媒体は売り切れちゃうのでお早めに。