カントニーズ 燕 ケン タカセ(Cantonese en KEN TAKASE)/東京駅


東京ステーションホテルの地下1F。位置づけとしてはホテルのダイニングなのでしょうが、どうも雑居ビルの飲食店街のような印象が拭えないエクステリア。夜は万単位のお金が飛び交う価格帯なのにこのアプローチは残念です。
インテリアもイマイチ(写真は公式ウェブサイトより)。天井が低く圧迫感があり、薄暗くもある。この日はランチでの訪問だったのですが、ゲストはランチオバサンが主体です。

ちなみにシェフはマンダリンオリエンタル東京のカントニーズダイニングSENSEで初代料理長を務めた高瀬健一。ミシュランガイド一ツ星を獲得し、日本の広東料理を牽引する人物です。
ランチだし、風邪気味でもあったので、水出しアイス中国茶を注文。私は凍頂烏龍茶、連れは特級四季春茶。自分から注文しておいてなんですが、やはりお茶はホットの方が好きだった。

食事は艶燕(Luxury Swallow)コースを注文。5,600円にサービス10%の消費税8%が乗ります。

「旦那が子育てに非協力的でさ」と、さっそく呪いの言葉が口をついて出る。「別にあたしは子供なんて欲しくなかったのに、旦那とその家族がゴチャゴチャうるさくってさ。仕方ないから産んでやったのに、できたらできたで全く無関心なの。やんなっちゃう」
蟹とアボカドのサラダ豆板醤風味和え 冬野菜のバラエティー。決して不味くはないのですが、家庭料理の延長です。ランチで5,000円を超えるお店で食べるサラダではありません。

「ちょっと前までは『仕事を辞めて家庭へ入れ』ってうるさかったくせに、実際に子供ができて家計簿が一新されると『やっぱり仕事は辞めるな』だって。もちろん、旦那の稼ぎだけでやっていけるわけないってこと、あたしは予見してたけどね」ちなみに彼女は世界を股に掛けるバリキャリ女子であり、当然に彼女のほうが稼ぎは多い。
ところで、たまたま案内された席が悪かったのか、背もたれのすぐ後ろで皿だの伝票だのをゴソゴソされるのがとっても落ち着かない。私はつい先日『アウトレイジ』を観たばかりであり、背後に人の気配を感じると物凄く警戒してしまう状態だったのです。
季節の蒸し餃子三種。エビに、豚肉に、鶏肉です。個人的には凝縮感あふれる鶏肉がお気に入り。トッピングのスパイシーなソース(?)も面白い。ただし、外国育ちの彼女がうっかり「Tiny…」と呟いてしまうほどの小ささが気になりました。食べ応えに乏しいのはもちろん、ある程度の大きさが無いと、私のような凡庸な舌では何を食べてるかがイマイチ判断できかねるのです。

「あたしだってフルタイムで働いてるのに、旦那は一切家事とか子育てを手伝わないの。しまいには『夜泣きがうるさいから別の部屋で寝ろ』とかまで言ってくるのよ」いるよなあ、こういう戦中派の発想の男たち。
燕の巣コラーゲン入り大根と鶏挽肉のとろみスープ 彩り大根とともに。これは美味しいですね。大根の慎み深い味わいに濃い鶏挽肉がアクセント。燕の巣は存在感が薄かったので、この際取っ払ってしまって他の料理に食材費を充てたほうが満足度は高いかもしれません。

「でも、うちの旦那はソトヅラだけはいいから、ホームパーティとかSNS上では娘のことを可愛がるんだよね。イクメン気取りでさ。本当に気持ち悪い。もちろん娘だってそういうの察するから、旦那には一切懐かない。抱っこなんかしたら泣き叫ぶからね。そういうのも含めて旦那は面白くないんだろうね。負の循環」
海老のヘルシーマンゴーマヨネーズソース リーフサラダ添え。うまたん。ぐわー、コレはうまいぞ。大ぶりなエビがピンポン玉大のサイズに丸まっており、エビの旨味がギュっと詰まっています。マンゴーの使い方も思い切りが良く、天才の霊感を垣間見た一皿でした。
豚ロースしゃぶしゃぶ肉と冬野菜のさっとゆで 中国鎮江黒酢の生姜風味ソースで。再び家庭料理の延長に逆行。気前の良い料理好きのホームパーティで食べるような料理です。間違いなく美味しいのですが、もうちょっと、こう、名人の職人芸みたいなものが見たかった。せっかくの外食なのだから。

「でも、あたしは子作りに積極的じゃなかったのに、いざできちゃうと、本当に可愛い。あたしってこんなに子供のこと好きだったんだ、ってことが新たな発見かも。だから、もうひとり欲しくなっちゃってさ。旦那にそのこと言ったら、何て返ってきたと思う?」
黄ニラ、もやしと大豆ミートの細切り炒め入り 香港細麺スープヌードル。こちらはスープがいいですね。清澄な外見ながらしみじみと旨い。それにしても、どうして大豆ミートを使うのだろう。別にベジタリアンでも何でもないから、普通の旨味の強い肉のほうが印象に残ると思うのだけれど。

「『今の俺が買ったマンションに4人は住めないから、自分で別にマンション買ってくれるかな?』だって」うーん、心から腐った響きだ。悪人というよりは、どういう思考回路なのか理解ができない。一度じっくり、旦那の言い分を聞いてみたいところです。
デザートはプラセンタエキス入りバラの香りの杏仁豆腐 いちご、アロエとともに。こちらは一分の隙もなく美味しい杏仁豆腐。軽やかに胃袋に納まり、コースの〆として素晴らしい位置づけでした。

振り返ってみると、料理自体はいずれも満足の行く味わいであり、エビマヨでダメ押し満塁ホームランを叩き出したという印象。一方で、内装や客層・サービスは好きじゃありません。あんまり気取った店にするのではなく、もう少し猥雑な大皿料理のお店で、お金を気にせずガンガン注文できるような雰囲気だと、もう少し通い詰めたくなるかもしれません。
「今日はありがと。愚痴ばっか言ってごめんね。でも、すごく良い息抜きになった」大きく息をつき、何かを決心したように彼女は言う(写真は公式ウェブサイトより)。「見ててね。旦那のこと、あたしの手で必ずや生き地獄に送り込んでみせるから」


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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
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