乾杯はマグナムボトルから供されるプライベートブランドのシャンパーニュ。なのですが、グラスの量がびっくりするほど少なく泡もヘタっており、さげぽよでのスタートです。
泡で口を湿らせながら今宵は何を食すべきか思考を巡らせるのですが、どうもコース料理のラインナップに食指が動かない。ここは思い切って前菜1皿・肉料理1皿のアラカルト注文とう高等戦術にチャレンジです。
シャンパーニュのお供にケシをトッピングした棒状のものと、セルフィーユを練りこんだ球体。まあまあ美味しいですが、このクラスのレストランにしては当然の味覚であり、驚きはありませんでした。
アラカルト注文であってもアミューズは供されます。ゴボウのムースにゴボウのフワフワ。土の香りが濃厚であり、滋味溢れる味覚です。
ワインは注文した料理と予算を告げソムリエと相談して決定。「そういうふうに店員にアレコレ相談するから『重い客』って思われんのよ」と連れ。何を言う。サービス料を払ってんだから当然だろ。
「普通の客は、サービス料は自動的に取られるものであって、サービスの対価として支払ってると思ってないから」いやその考えは絶対に間違ってるだろ、大体客がそういう姿勢だから日本のレストランのサービスレベルがいつまでたっても…「うるさいわね。今日はあたしのオゴリなんだから、黙って」ハイすみません。
サイコロサイズのフォアグラなのですが、その凝縮感たるや、ひらがなにルビをふるような、良い意味でのしつこさがあります。ねっとりと艶っぽい舌触りにウットリ。
サラダでしょうか。シンプルながら素材の良さが見て取れる一皿です。長芋(?)のトロりとした糸引き感が良いアクセント。
クロワッサン生地を丸めてトマトで風味付けしたパン。これがもう美味しくって、ロブションのアレと同等かそれ以上です。何度も何度もおかわりし、合計3つも食べてしまいました。
前菜は「黒鮑の焦がしバターステーキ チョリソのアクセント
ココナッツライスのリゾットと天然海苔のソース」。メニューを読んだだけで一目惚れしてしまった料理です。むしろこれをフルポーションで食べたかったからコースメニューを諦めたと表現しても過言ではない。
そしてその判断は正しかった。クニクニとした独特の食感から繰り出されるエレガントな味覚。たっぷりのバターステーキも正統的であり、「人生は楽しんだもん勝ちですよ」と語りかけてくるような味わいです。
ココナッツライスのリゾットは企画モノと思いきや付け合せとして完璧。海苔とそのソースも海の豊かさを流暢に表現。期待通りの美味しさでした。
メインは「若鶏のヴェッシー包み フォワグラとトリュフの風味
ヴューコニャックとマデラワインのソース」。豚の膀胱で包んで蒸し上げるという前時代的な超古典技法。こんなメニューを用意するほうもするほうだし、注文するほうもするほうです。
しかも2人で1匹という特大ポーション。ヤムチャしやがって。それにしても美しい。このまま額に入れて自宅のリビングに飾りたいほどです。
デクパージュ(客席にワゴンを持ち込みお客様の目の前で料理を切り分け皿に盛り付けるサービス)も必見。これは緊張するだろうなあ。ガチャンとかいってひっくり返したらシェフからも客からも殴られるんだろうなあ。
まずは胸肉とソリレス。ソリレスとは胴体とモモの付け根の部分であり、珍重されている部位です。それにしても、いやー、肉が旨い。柔らかい。なんだかアイドルの食レポみたいなコメントで恐縮ですが、やはりその感想が真っ先に脳裏に浮かぶ。ヴェッシー包みという調理のおかげか、水分や香りが全く逃げず、私の周辺には幸せが立ち込めています。
モモ肉はバルサミコで調味しサラダ仕立てに。こちらも鶏肉自体に生命が活き活きと漲っており、鶏そのものの味を完璧に引き出しております。私はギリで完食できましたが、連れは殆ど口にすることができずお持ち帰り。きちんと真空パックでテイクアウトできるのです。なんて贅沢なお土産なんだ。
「デザートワゴンはお好きなだけ」という提案だったのですが、さすがに気絶しそうなほどの満腹感だったので、連れはパス。私も遠慮したかったのですが、恐らく彼女はデザートの際に何か企んでいるはずなので、食べないという選択肢は許されないっっ………!
しかし結果は私の気遣いが無に返るノーム・コアな作品であった。
「タルトショコラ シナモン風味 トンカ豆のグラス」。上品かつ剛健な味覚であり、甘味の価値は量では決まらないことを証明してくれる一皿でした。
バースデープレートは別口でのご用意でした。「ああ、よかった、きちんと出てきた。中々出てこないからドキドキしちゃった」と連れ。これには私も同感。最近のレストランはデザートとは別にプレートを用意することが多いですが、客は「忘れているのではないか?」とドキドキすることも多いので、どのタイミングでどういうふうに出すのかを、予約の際にお店側から伝えておくのも一案かもしれません。
〆のミニャルディーズも好きなだけ。「宝石箱」という意味の店名にピッタリの神々しい箱に、可愛らしい小菓子たちがこれでもかという程敷き詰められています。
私はボンボンふたつにギモーブ、マカロン3つにパート・ド・フリュイ(フルーツゼリー)を頂きました。ガナッシュのボンボンとパッションフルーツのパート・ド・フリュイが特に良かったです。それにしても、400グラム超の鶏肉を平らげた後だというのに、よく食べるオッサンである。
コーヒーは別料金で1,000円。1,000円かあ、とやはり考えてしまいますね。このあたり気にする方は、やはりコースのほうが精神衛生上良いのかもしれません。しかしながらコース料理ではヴェッシー包みのような特殊な料理は注文できない。難しいところです。
大満足。さすがはレカンと唸らずにはいられません。しかしながら、いわゆる東京のグランメゾンにおいてはかなりクラシックなベクトルであり、どちらかと言うとシブいです。20代のかわいこちゃんと来るには時期尚早。オトナの、フランス料理を食べこんだ紳士淑女で訪れたい名店です。ドレスアップして是非どうぞ。
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