きた福/銀座


「いやあ、タケマシュランは欧米系の料理、めっちゃ詳しいじゃないですか?僕らがご招待できるのは和食ぐらいしか無くって。カニでいいですか?きた福なんですけど」全然いい。断然いい。マンモスうれぴー!
当店は全て個室の完全予約制。しかもその個室が3つしか無いため、1日に対応できる客が極めて限られているのです。

「お誕生日おめでとうございます!今日は私も飲むと決めていますので今のうちにおっぱいをあげておきます!」と高い意識の奥方。個室なので子供もOK。
大きな火鉢が部屋に持ち込まれ、おもむろに餅を焼き始める店員。はて?前菜におもち?と訝しんでいると、
「ぬわーーーーっっ!!(パパス)」マッチ箱サイズのカラスミがドカンと挟み込まれていました。これは餅ではなくカラスミそのものである。海苔の香りも良い。先頭打者満塁ホームラン。
ねぎま鍋。「ねぎ」はネギ、「ま」はマグロ。江戸時代に江戸の町人たちの間で、脂の乗ったトロをいかにさっぱり食べる か、という工夫から生まれた料理。そのまま鮨にしてしまえば1貫1,000円は下らないトロットロのトロ。
適度に脂が抜け、口の中でホロホロと崩れ行くマグロ。ぐわー美味しい何て贅沢な鍋なんだ。出汁もネギも旨い。今後一生ねぎま鍋しか食べれないと神に宣告を受けたとしても、そんな人生も悪く無いかなと納得してしまいそうな味覚です。
金目鯛はカブのソース。なるほどカブをソースのように扱うのもアリですね。欧米系のシェフが見れば喜びそうなアイディアです。9ヶ月のベイビーも少しだけカブを口にし満足気な表情。生意気な女め。
「さっき航空便で北海道から届いたばかりです!いやあ!間にあって良かった!」と嬉しそうにタラバガニをプレゼンテーションするタラバガニ職人。4キロはあろう特大サイズ。これを3人で食べきるだなんて幸福の極み。
厚さ5ミリはあろう恐ろしく太い包丁でバッキバキに解体。これは圧倒的なエンタテインメント。手際が良いを通り越して恐怖すら感じるスピード感です。劇場型のレストランなど比較にならないほどの迫力。2017年で最も記憶に残ったシェフズテーブルです。
刺身は流水で少し華を開かせしっかりと水を切ってから頂きます。
なんなんだこれは。とにかくフレッシュで甘い。醤油をちょこんとつけると、よりカニの甘さが引き立ち蜜のような多幸感に包まれます。
少し茹でてレアの状態です。甘味と香りが増しました。同一素材だというのに魔術的な味覚の変化です。
もういっちょレアで。繰り返すが旨い。私は決してこのカニの旨さを過大に鼓吹しているのではなく、心から本当に美味しいのです。
もう少し火を入れてミディアムで。香りや甘味はもちろんのこと、旨味も増したような気がします。蟹って不思議な素材だなあ。
タラバガニ職人は腕まくりをし、「余すところなく食べていただきます!」と鼻息が荒い。こういった作業は全てつきっきりの彼がこなしてくれるので、『カニは旨いが会話が無くなる』という状況が生じないのもいいですね。
最も太い部分は焼き蟹にて。とにかく香りが豊かであり、「他のフロアから苦情がよく入るんですよねえ」といたずらっ子のような表情をみせるタラバガニ職人。
「ぬわーーーーっっ!!(パパス)」。鼻血が出そうなほど官能的な味わいです。豊かな香りからある程度の美味しさは覚悟していましたが、ここまで圧倒的な味覚とは。

ちなみに本日のホストは関西出身であり、毎年家族での恒例行事として城之崎に松葉ガニを食べていたらしいのですが、「『やっぱカニはズワイだよねえ。タラバは味気ない』などと話していた親戚一堂に説教してやりたい気分です」とのこと。
 胴体部が茹で上がりました。真っ赤な外観が食欲をそそります。
心臓。ひとつしかないのですが「今日は○○さん(私の名)のための会なんだから」とお譲り頂きました。牛や豚のハツとは似ても似つかない味わいであり、カニの身を凝縮させたような風味で面白い。
ふんどし。カニにおける隠れた珍味です。新鮮な個体でないと中々喉を通らない風味だそうな。なるほどカニとは思えないほどモチモチしてある種、貝柱のような食感です。
ボイルした身をカニ酢につけて一気にかっ喰らう。カニ酢に滲み出るエキスも旨い。オーラスは残ったカニ酢と共にカニのエキスを余すところなく飲みきりました。
ゴハンが炊きあがる。
意表を突いて、カニ飯ではなくイクラごはんです。ピカピカと輝く炊き立ての白米に、塩漬けのイクラをジャブジャブと注ぎ込む。何この解かり易さ最高かよ。涙はイクラが洗い流してくれるさ。
お椀もイクラに負けず濃厚。なんと迫力のあるサイドメニューなのでしょう。
イクラが尽き果てた後は牛肉の牛肉のしぐれ煮で追い討ちをかける。カニやイクラに影を潜めてはいますが、この小鉢も相当に旨い。芳醇で簡潔。恐らくは和牛の極めて良質な部分を用いた料理でしょう。
アイスモナカに挟まるのは蜜のようにトロけるリンゴ。レンコン餅も新しい食感と風味を演出します。「和食の割にデザートがいいですねぇ」と私のコメントを先取りするホスト。

いやはや、圧倒的な迫力とスピード感に満ちたランチでした。とにかく楽しく、旨い。問答無用に旨い。脊髄反射で旨い。いずれもシンプルな皿であり、これらは素材に属し、料理には属さないかもしれません。しかしながら限界効用を突破してしまうほどの勢いがこのお店にはある。

恒例行事として、その年のベストレストランを選出する試みがあるのですが、その中に含めようか本気で悩んでいます。ううむ、この店をベスト3に載せてしまうのは反則のような気がしますが、その欲望に抗えない自分もいる。困ったな。東京は味覚の遊園地だ。


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