虎白/神楽坂

ミシュランガイドで2年連続3ツ星を獲得。修行先の石かわに比肩するまでの人気店となりました。神楽坂の裏路地に佇む凛とした様は、どことなくエロティックな雰囲気を湛えています。
シャンパーニュで乾杯。店内は想像以上にガヤガヤとしており、ミシュラン3ツ星の高級和食店とは思えないほどの喧騒です。一方、給仕の女性陣が皆、驚くほどの美女揃いであり、思わず連れにコメントを述べると「私も同じことを考えていました」。
一番バッターは百合根をつぶして滑らかにしたもの。そしてトリュフ。ザラりとした食感にトリュフの香りが弾みます。
甘鯛の唐揚げ。こちらは凡庸。最近は連日の甘鯛続きであり、ついつい他店での経験と比較してしまいます。

それにしても、ある程度の飲食店に頻繁に行くようになると、旬の食材に巡り合う機会が多くなり嬉しいのですが、裏を返すと和食であろうがフレンチであろうがどの店に行ってもほぼ同じ食材が出てきてしまうことになります。グルマンあるある。
泡の続きは料理に合わせて日本酒をお出し頂きました。鄙願(ひがん)、松の司の「楽」、写楽、新政「№6」という流れ。写楽(の何だっけ?)が極上品であり、おもわず同じお酒を追加で注文してしまう。
松茸と鱧。下にはごはんが敷き詰められています。松茸の香りが良く隠微な気持ちに浸るのですが、ハモの印象が極めて薄い。もともとそんなに好きな食材ではないからかもしれませんが、松茸ばかりに目がいってしまう一皿でした。
金目鯛のしんじょう。つなぎなどは一切なく、金目鯛だけで造られた逸品。フワフワとした食感に海の深みが響きます。他方、出汁は極めて薄味であり、私のどんくさい味蕾が喜ぶということは無い。石かわはとにかく味が濃いという印象だったのですが、当店はかなり方向性が違うのかもしれません。
ヒラメとアンコウ。これは抜群に旨いですね。やや熟成がかっているのか、ヒラメのコチャリとした食感にじっとりとした旨味が染み渡る。アンコウのセクシーな味わいも魅力的であり、思い切りのよい酸味を湛えたジュレが全体を取りまとめる。
シメサバ。これは意図が不明。申し分なく美味しいのですが、一般的なシメサバでありそれ以上でもそれ以下でもなく、なぜここでワンポイントリリーフを必要としたのか論理を追求したくなります。
ノドグロ。名誉挽回。この焼き魚は完璧です。香ばしく焼かれた皮目から漂う品の良い香り。一口だけ歯に挟むと溢れ出る脂の甘味。添えられた胡麻豆腐も名脇役。本日一番のお皿でした。
ウニとアワビに柚子のジュレ。こちらもグッド。アワビの確かな歯ざわりを楽しみ、ウニに円みのある風味に舌鼓。柚子のジュレもひんやりと味覚を整え、全体として完成した味わいです。ただ、とてもサッパリとした一皿なので、もっと序盤に出したほうがより楽しめたかもしれません。
甘鯛にカブ、シイタケ。先の2皿に比べると急失速。どうにもやはり出汁が薄いように感じます。私の舌は原則的に大雑把なので、当店のような繊細な味付けにはそぐわないのかもしれません。
カニの炊き込みご飯に歓声があがる。真っ赤な甲羅にあげぽよです。
しかしながら見た目ほど食欲をそそられる香りならびに味覚かというとそうでもなく、どうにも薄ぼんやりとした味付けに思えてしまいます。カニ味噌ジャッキーン!カニカニカニ~!というような大掴みな調理のほうが私は好み。
一方で、海苔とナメコの味噌汁は味噌の風味が非常に濃く、少しどぎつく感じてしまいました。結局のところ濃味と薄味のどっちがええねん、と自分にツッコミを入れたくなるほどの情緒不安定ぶりです。
お漬物は標準的な味わいであり、あまり印象に残らず。
デザートはお酒のラムを多用した一皿。決して不味いわけではないのですが、なぜ和食屋に来てラム推しでオーラスを迎えなければならないのか良くわからず、疑問の残ったコースでした。
当店のファンの皆様には大変申し訳ないのですが、期待していたほどではありませんでした。全体として朧げな調味であり、ガツんと心に残る料理が無い。一通り流れるように食べ切ってから、ああ、上品な和食を食べたなという感情が芽生える類のお店なのでしょう。

冒頭述べた通り、店内はガヤついており、ジャージで来ているオッチャンなどもおり、非常にカジュアルな雰囲気に思えました。接待やデートで利用するのとは少し違うかもかもしれません。
そんなことを考えながら雰囲気のあるアプローチを通り抜け、軒先で店主と挨拶を交わす。すると隣の店から「うおおおおおい!○○(私の名)じゃねえか!何してんだよ!」と、地元の飲み仲間に大声をかけられる。折り目正しい紳士を装っていた努力が台無しである。


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