ラ・クープ/奥沢


彼女を待ち合わせ場所で見つけるのは極めて容易。その空間で最もスタイルが良い個体、皆の視線の集まる方向へ目を向けるだけでOK。
「ごめんね遅くなって。撮影が押しちゃってさ。今夜のレストラン、こんなに脚出して大丈夫かなあ」ギリシャ彫刻のように真っ直ぐで真っ白な脚。健康的な肉薄兵器に思わず見惚れてしまいます。
住宅街のカジュアルなお店だから大丈夫だと思う、ところで背、伸びた?「ううん、このヒール、12センチなの」ウフフと微笑みながら、上から私の肩を組み付ける。「ねえ、いいよねこういう住宅街。誰にも見られることがなくってさ」
シャンパーニュで喉を潤しながら十数分かけてメニューを吟味。当店は値段と皿数が比例し、選ぶ料理は何でもOKという、極めて柔軟性の高いお店なのです。「ねえ、エビ食べようと思ってるでしょ」私の好みを知悉する脚線美。
小海老とマジョラムのナージュ仕立て、トマト添え。オマールの出汁すなわちビスク的なスープに浮かぶは凝縮された海老。エビしんじょうのように細かく砕かれた身がギュギュギュと詰め込まれた逸品。
パンはライ麦と標準タイプ。図ったかのようなタイミングとその熱さで、しかもかなり美味しいです。
「今夜はタケマシュランとゴハンなんだ、ってみんなに言うと、すっごく羨ましがられるんだから。若い子にも、大人にも」と、少しだけ得意気な彼女。愚公山を移す。細々とブログを続けてきて良かったです。
バターに留まらず、鴨と豚のリエットまで。こういうひと手間をこよなく愛す私。

「ねえ、この前さ、『シャンパーニュには何が一番合うか』で友達と議論になったんだけど、あたしは『パンにバター』なの。どう思う?」なるほどそれは直感的にも理論的も賛同できます。小麦と乳製品のふくよかな香りがシャルドネの味わいを引きたてる。ちなみに私は『鶏の唐揚げ』。
鴨のフォワグラのポワレ、蜂蜜ソース。ポーションの大きさにシェフの心意気を感じます。調理は王道中の王道であり、フォアグラのポワレのお手本といったところ。付け合わせの大根が秀逸。こってりとしたソースが奥の奥まで浸み込む。

当店はとにかくソースが美味しいですね。パンにたっぷり塗りたくり至福のひと時。しかもリエットまで美味しいので、パンのおかわり必須です。
魚料理は愛知の真鯛。やはり出色はソース。浜松の青海苔を駆使したクリーミーなもので、その濃厚さはパスターヴォラの海苔カルボナーラを彷彿とさせます。思い切りの良い火入れで少し焦げと苦味が出てしまっているのが残念。

白ワインはブルゴーニュのシャルドネ。当店は値付けが高くないので、思わずボトルで注文してしまう(写真撮り忘れた)。

ふと周りを見渡すと、妙にファミリー層が多い。中には3世代に亘る食事会まであり、心和みます。「あ、今日、母の日かぁ。いいのかな、あたしたち、デートしてて」
メインはウサギ。ラパンときのこのフリカッセ、エストラゴン風味。やはり卓抜したソース。バターやクリームが支配的ではありますが、柑橘系を思わせる豊かなハーブの香り。ウサギはどこまでも清澄でありソースの美味しさを邪魔しません。そう、もはや肉を楽しむというよりは、シェフによる本物のソースを味わう料理です。
デザートはマドレーヌにパイナップルのキャラメリゼ、黒糖のアイス。気品溢れるマドレーヌに太陽をあびた元気なパイナップル、品の良い甘さの黒糖。素晴らしいバランス感覚です。欲を言えばいくつかの選択肢から自由に選んでみたかった。

「もう西麻布で遊ぶのも飽きちゃった」と口をすぼめる美脚。「この前なんてね、男はみんな既婚者。まあ、誰もが知ってる会社のオーナーとか芸能人だし、暇つぶしにはちょうどいいんだけど。私たちが失うものは時間ぐらいなんだから」
オーセンティックなコーヒーでごちそうさまでした。

「たまには普段と違う人と会ってみようって話になって、この前、商社と合コンしてさ。そしたら凄いの、数日後に『ひとり4,500円づつ振り込んでください』って口座番号が送られてきて」そこは是非ボケてみよう。3人で合計4,500円振り込んで、さらに差分を請求されるかどうか。もしくは4,500ウォンを振り込んでみるとか。
さらにはヴェルヴェーヌのお茶までお出し頂けました。このままゆっくり会話を楽しみたかったのですが、21時に迷惑そうに追い出されました。公式ホームページには閉店は22:00と記載されているのに納得がいかない。唯一残念なポイントです。

全体を通してオーソドックスに構築された迫力のある料理でした。いわゆる住宅街の気軽なフレンチであり、我々のように気の知れたふたりや家族連れに向いているお店です。決して接待や勝負デートではないのでご注意を。
仕方なく河岸を変え、近くのキレイ目な焼鳥屋のカウンター席で日本酒を。それにしても綺麗な脚。極めてヘルシーであり、ジロジロ見ても工芸品を見ているかのようで、少しもいやらしくありません。彼女は脚に自信を持っていい。保険をかけたいぐらいです。
「じゃあさ、今度、ナイトプール行こうよ。ニューオータニ?インターコンチ?でも、あたしの仕事の予定が立たないからなあ。ああいうプール、予約いるんだよね?」予約以前に、それはあまりに人目に付き過ぎる。
代替案として初島を提案。グリーン車でシャンパーニュを飲みながら熱海へ向かい、船に乗り換えてのプチ・リゾート体験。

「熱海の美術館も行ってみたい!ねえ、でもそれって泊まりって感じかな?」瞬間、周囲の気温が下がる。近くの客や店員の耳がわかり易いほどにダンボであった。


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