海森2号店/新宿三丁目


かいしん、と読みます。新宿三丁目駅すぐ上にある沖縄居酒屋。
オリオン生で乾杯。カネは大丈夫なのか?と、ワーキングプアな連れに問う。「毎日の弁当代をちょろまかしながら、今夜のために必死に貯め込んで来たよ」と、聡明ではないが利口ではある彼。
お通し。悪くはないのですが、ううむ、この一口が500円なのかと考えると心理的抵抗感は物凄まじい。

「お通し代は500円か」と呟く彼。そう、彼は家計を妻に完璧に握られており、まとまったお小遣いは全く無く、必要に応じて申告制で何とか現金を得るという中学生のような生活を送っているのです。
ミミガー。コリコリとした食感の豚のミミにたっぷりのネギ、さっぱりとしたポン酢。素直に美味しい。しかしこれが520円で、先のお通しが500円というのはやはり納得がいかない。

「この前なんてな、ひでえんだよ。バス代を浮かすために毎朝必死で歩いてたのにさ、定期代が振り込まれる口座が給料と一緒だったのが甘かった。結局、会社までの交通費までも含めて全部召し上げられちまった」現代の貧窮問答歌ここにあり。
ラフテー。食べ応えのある大きさの豚肉に黒糖の甘味が染み渡る。美味しい。白ゴハンが欲しくなりました。

でも、キミの稼ぎ自体はそれほど低いってわけじゃないだろう?どうして奥さんはそこまでお金に執着してるんだい?「わかんねえ。ただ、定期的にバッグやら洋服やらが増えていっていることだけは確かだ」
ゴーヤチャンプルは標準的。もう少しお肉が入ったコクのあるタイプのほうが私は好きです。

どれだけ働いても、どんなに出世してもキミの取り分は変わらない。そんなバカな話があるか。頑張りに見合った報酬があってこそ人は大きくなることができる。乾ききったタオルを絞っても水は出てこない。正当な対価を得てキミ自身が偉大になって、稼ぐパイをそもそも大きくしたほうが、結果的に奥さんの取り分は増えるんじゃないの?「そんなふうに考えていた時期もあったな。でもな、オレはもう屠所の羊なんだよ」
島らっきょうで箸休め。

「たぶん、本気で俺から金を搾り取りたいってわけじゃねえんだよ。オレが楽しそうに飲みに行ってるって事実が気に入らねえんだよな」踊り疲れたような表情を見せる恐妻家。
スクガラス。あいごの稚魚の塩漬けです。スクガラス自体は塩気が強く酒が進むのですが、土台となる島豆腐の味わいがイマイチ。
紅いもコロッケ。中身は旨いが、衣があと一歩。油が悪いのか、胸の焼ける表皮でした。紅いものペーストは美味しかっただけに惜しいことをした。
ゴーヤビール。生ビールにゴーヤジュース(?)が混ぜ込まれており、まあ、別々に飲んだほうが美味しいです。

そんな憎悪の対象であるキミと、どうして奥さんは結婚したのかな。「そればっかりはわからねえ。完全に粗大ゴミ扱いで、家事を手伝わないと怒られるし、手伝っても怒られる。後悔と怯えの毎日だ」自嘲的に笑うBOP層。
にんじんシリシリ。スライサーで細くおろした人参と卵を炒めて調味料で味付けした料理。素朴な調理ですが、ニンジンの甘さが優しく心和む味わいでした。量も結構多い。

サザエさんが始まると、嬉しくってしょうがないんだよ。ああ、週末刑務所から出獄できる!カミさんから離れて会社に行ける!ってな」逆サザエさん症候群。全く新たな症例であり学会で発表して良いレベルです。
スペシャリテのいかすみ焼きそば。沖縄そばを焼きそばの麺として用い、たっぷりの野菜と共にいかすみエキスをトロリ。海を手にしたような味わい。旨味と塩気のバランスが良く、本日一番のお皿です。クロアチアで食べたイカスミリゾットを思い出しました。箸も歯も舌も真っ黒になるので、気の置けない仲間とチャレンジしましょう。
ラフテーと卵の焼飯。1,100円と最高値の料理ですが、その価値は充分にあります。前述のラフテーがゴロゴロと入っており、その甘味を米が上手に受け止める。卵の入り方も気前が良く、満足のいく料理でした。

帰り際に忠告。はっきり言わしてもらうけど、キミも悪いんじゃないか?飲み屋でグチってばかりいないで、きちんと奥さんに向き合って本音を伝えるべきだと思う。「おっしゃる通りだ、ぐうの音も出ねえ」と奇妙な笑顔を残して去って行く。

彼の出エジプト記は長く、険しい。


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この年は1年で10回沖縄を訪れました。1泊15万円の宿から民宿まで幅広く手がけています。
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