イル バッティクオーレ/新宿御苑


21:30に半分芸能人よりメッセージ。「今から会えるかな?」もちろん、ここからタクシーで15分ぐらいかな、と返す。「それじゃあまた今度でいいや、今夜は22:15までしか一緒にいれないから」なんという予定の詰まり方。相変わらず引っ張りだこだねえ、とからかうと、
「20代は短い」

日を改めて彼女より指定されたお店はIl batticuore。生粋のイタリア人がオーナーシェフであり、恵比寿「イル・ポッカローネ」、広尾「ラ・ビスボッチャ」の総料理長を歴任するなど筋金入りの実力派。
予約名がわからないまま私が先に到着したのですが、堂々と本名で予約が入っていました。窓際席が最高に気持ちよいお店(写真は公式ウェブサイトより)。しかし残念ながら通されたのは薄暗い奥の席。

「おまたせ」と、10点豪華主義な彼女。剥いた桃を思わせる肌に、風呂上がりのように色っぽい吐息。どこからどう見ても美しい。どんな誉め言葉も彼女には物足りません。「ねえ、あっちの窓際に席、かえてもらわない?」
本当にテーブルを作って頂けました。極端な美女がお願いすれば大抵のワガママは通るものである。ランチコースは食前酒込み。陽の光を感じながら泡で喉を潤す昼下がり。
前菜盛り合わせ。タイのカルパッチョにブロッコリーのアーリオオーリオ、豚肉です。

「この前読んだ本のヒロインが、私と全く同じ漢字の名前でさ。そりゃもうヤリたい放題なわけ。同じ名前として辛かったわ」そういえば、僕が高校時代に付き合っていた彼女の名前もキミと全く同じ名前だったよ、と今更ながら伝えると「じゃ、私と付き合えば2人目ね」
「何か疲れてない?」確かに今週はハードでした。月曜日から合コンで家に着いたのは午前4時。でも、アラサーの独身男で医者と弁護士ふたりづつをすぐにアレンジできる僕ってすごくないかい?「前にも言ったけど、あたし、医者って嫌いだから
私は豚肉とキノコのクリームパスタ。凝縮感のあるクリームであり、キノコの野性味と豚肉のコクのバランスが素晴らしい。

「弁護士も嫌い。ついでに言わせてもらうけど、慶應卒も嫌い。何か調子乗ってるやつ多いよね」ちーん。毛根が30個ほど死んだ気がします。
彼女は手打ち麺をトマトソースで。一口頂きましたが、なるほど麺の旨味が強く、トマトソースの酸味も思い切りがあってグッド。

「あなただけよ、特別なのは」彼女の長い指先が軽く私の手に触れる。よくできたツンデレである。
デザートはピスタチオのアイスクリームに木苺のムース。いずれも単刀直入な味わいでペロリです。

「イケメンもダメね。これまでずっとチヤホヤされて来て、全然努力してこなかったのがバレバレ。国立大卒の真面目な不細工ぐらいがちょうどいいかな。私立専願は興味なし。日東駒専のイケメンとか最悪
「ねえねえ、新宿御苑、行ってみない?」仰せのままに女王様。我々を歓迎するかのようにそよ風が吹き始める。彼女が隣にいるだけで全ての景色はおしゃピクに。
最近、付き合ってる人はいるのかい?「いない。でも、ぜーんぶあたしの予定に合わせてくれる人はいる。すごくラク。少し甘えると、どんなに予定が立て込んでても全部キャンセルしてくれる」午後の予定は全てキャンセルしてくれ。大統領かよ。一度は言ってみたい台詞です。

「他に気になる人はねえ、会うたびごとにハっとするコトを言う人がいるの。言葉が記憶に残るっていうのかな」今度は村上春樹か。やはり地位と名声を得た彼女が選ぶ男は一筋縄では行かない。

「あともうひとりは、、、これからって感じかな」無言でじっと私を見つめる半分芸能人。宝石のように輝く目を持ち、見たものを石に変える21世紀のメデューサ。
閉園のアナウンスと同時に立ち上がる彼女。「こういうデート、すごく好き。でも、そろそろあたしたち、次のステップに進むべきじゃないかしら?」次のステップ、と彼女が再び繰り返す。具体的にはどういうこと?

「今度は夜に会いましょ」私の返事を待たずに颯爽とタクシーに乗り込む彼女。次のステップ。何とも魅力的な響きである。何だろう。帰ってコックリさんに聞いてみよう。もう既に前にはない何かがある。パンドラの壺じゃなければいいのだけれど。


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