はがくれ/梅田

Facebookで『大阪にいまーす』的な投稿をすると、ある有名飲食チェーン店のオーナー社長から「オフィス近くやから遊びに来てよ」とご連絡頂き、その数十分後に本当にお邪魔するのが私流。

他の用事があったため30分と短い時間で意見交換です。「タケマシュラン、毎日読んでるよ。店のいじくりかたがホンマおもろいわ」いじくってるつもりは無いのですが、私の創り出した文章で楽しんでくれる方がいるという事実は心から嬉しい。
国内外のレストラン談義に花が咲く。「この前サンフランシスコ出張やったから、ほい、お土産」とダンデライオンチョコレート。嬉しいなあ。

フレンチランドリーの予約、取れるかも。The World's 50 Best Restaurantsの審査員が仲間でさ。次、サンフランシスコ行く時は早めに連絡してや」フレンチランドリーというのはナパにある『全米一予約の取れないレストラン』であり、2003年と2004年のThe World's 50 Best Restaurantsでは世界1位、2006年にミシュランガイドのサンフランシスコ・ワインカントリー版が発行されて以来三ツ星を守り続けている化け物フレンチです。

「来年はウチのチェーンで何かおもろいことやろうと思ってるから、なんかアイデアちょうだいよ。東京出張作るから、ゴハン行こ」早速6月の予定を調整し、再会を誓い合う。
さて本題。梅田はがくれ。恐らく大阪で最も有名なうどん屋です。ネット上の情報では行列必至とのことでしたが、平日正午にお邪魔して4人待ち程度でした。
並んでいる際におばちゃんが注文を取りに来てくれるのですが、「にいちゃん、ひとりか?ひとりやったら一番奥、空いてるから、先入ってええで」と待ち順列をゴボウ抜きです。
メニューの種類は結構多い。このほか、おでんもありました。私は一番人気の「生じょうゆ定食」を注文。800円です。
当店は名物店主の存在感抜きにしては語れません(写真は公式ウェブサイトより)。大阪うどん界のオーソリティ。

「にいちゃん、初めてちゃうからわかるやろ?」とさっそく店主に声をかけられる。いえ、初めてですと伝えると「じゃ、こっちでやっとくわ、箸、持っといてや」やっとく?何を?おもむろに醤油さしを掴み取る店主。
着席後すぐに着丼。「ええか、醤油は2往復半や、ワンツースリー」スリーやと3往復やんか、のような無粋なツッコミは認めない。当店は店主が神であり、神は店主なのである。
「ええか、絶対混ぜるなよ。混ぜたら粘り気がでてまずぅなるからな。ドント・ミックスや」ひょうきんというか何というか、大真面目な顔でこのような台詞を言うのだからたまらない。
「2本だけ取って、思いっきり高く上げてみ。ほんで、一気にすするんや。後は勝手に入っていきますわ」

茹でたて締めたての瑞々しいうどん。びよーんと伸びつつもしっかりとした弾力。鮮度にこだわる理由がわかります。徳島産のすだちの香りが軽快で、生醤油をたっぷりと含んだ大根おろしの爽やかさも心地よい。
個人的にはかやくごはんがお気に入り。炊き加減は程よく固く、味付けもしっかりしており、一皿で完結している味わいです。
店内に目を遣ると、店主は他の客を鋭意指導中。「こっちでやっときますわ」はあ、スンマセンと返す客に「なんで謝んねん、うどん食べるだけやろ」「2本取ってや、あかん、ちゃんと見てみ、それやと1本や」客に美味しく食べてもらおうと常に一生懸命。物言いは乱暴ですが不思議と心地のよいやり取りです。

うどんそのものの味は唯一無二というものではなく、まあ普通に美味しい讃岐うどんといった所ですが、店主とのやり取りを含めてエンターテインメントとして楽しむことのできるお店です。大阪のおっちゃんと会話できる店として、観光客にオススメ。

お会計は自己申告。生じょうゆ定食の大盛り、とレジのおばちゃんに伝え1,000円札を渡すと200円が返ってくる。あれ?大盛りですよ?おつり多くないですか?と訊ねると、「かめへんかめへん、ダブルまでは同じ料金でやらしてもらってますわ、また来てや」また来ます。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

梅田はがくれ 本店