今夜は私のお誕生日祝い。ごちそうしてもらう側ですワッハッハ。お店は六本木ヒルズの裏手、開業して26年という老舗のイタリアンレストランRistorante L'osteria。
客層がすごく良いのです。品の良い大人たちが、はしゃぐことなく優雅に食事を楽しむこの空間。席の間隔も広く、全体的にゆとりがある。
「どう?結構いいお店でしょ?」と柔らかく巻いた長い髪を揺らす彼女。ちなみにある筋に言わせると、彼女の容姿は「学部で一番の美女だった」レベルであり、そんなお方にお祝いしてもらえる私は幸せ者である。泡で乾杯。
「今朝、日本に帰ってきたばっかりで、今夜はちょっと酔っちゃうかも」と、並の中学生であれば勃起する台詞である。「明日からまた海外だから、早く帰るけどね。ウフフ」
前菜はワゴンから好きなものを好きなだけ。溢れ出るアッピア感。「アッピアってすごく高いじゃない?そのくせ雰囲気はカジュアルでさ。それならこっちのほうが素敵でしょ?」
上列左からフォンドゥータ、サーモンのマリネ、イワシのマリネ、豚のテリーヌ、サラミ。中列左から牛の小腸、フルーツトマト、牡蠣のオイル漬け、ランプ肉のカルパッチョ、イタリア風サンドイッチ。下段左から鶏レバーのムース、水牛のモツァレラ、水ダコ、サバ、アジ、トリッパ。どうだこの記憶力!
野菜やキノコも魅力的なのですが、ついうっかり魚介とチーズばかり選んでしまいました。
上列左からカポナータ、キノコのマリネ、茄子のグリル。中列左からペコロス、パプリカ、カボチャ、ズッキーニ。下列左からナスにチーズ、ブッラータ、カリフラワーに種々の野菜。
前菜が取り分けられるのを待つ間は根セロリのムースで繋いでくれます。全く青臭くなくエレガントな味わい。アミューズでこの品質、今後の展開に期待が持てます。
パンたちも理想的な味わい。ガッルーラでは渾身の作品として出されるタマネギパンが、当店はさりげに平常心でサービスされます。
アンチョビのペーストとオリーブオイルもグッド。
左は水ダコ。頑強な食感に心地よい海の旨味。噛み締めるほど味わいが変化していき、ガムとして新発売したくなります。右はアジ。にぎりにしても問題のないほど端正な味わい。
ブッラータを用いたカプレーゼ。ブッラータとはモッツァレラチーズにクリームが練りこまれたような食感のフレッシュチーズです。新鮮なチーズと濃厚なクリームが相俟って見事な調和を醸し出しています。
フォンドゥータ。北イタリアのチーズフォンデュ的な食べ物。甘い甘いタマネギをくり抜き、ナッツのような香ばしい風味が漂うチーズをたっぷりと。
この写真だけ画像が粗いのは、昂奮のあまりうっかり写真を撮るのを忘れて、先のワゴンの写真を切り取り拡大したものだからです。ご容赦を。
北海道産毛ガニのオイルソース、自家製イカスミ入りタリオリーニ。山のような毛ガニのほぐし身にイカスミのコク。全体をまとめ上げるノーブルな油。ボリュームもたっぷりであり、私好みの簡潔明瞭な調理です。
連れはエビとマッシュルームの自家製フェットチーネ、マーレ・モンテ風。「クリーム系がいい」とお店の方と相談してのご提案だったのですが、なるほど正統的なクリーム系のパスタであり、思わず横取りしたくなりました。
グレープフルーツ主体の味わいに熟したリンゴと蜜の香り。そうそう、一通りワインリストを眺めさせて頂きましたが、このお店、全体的にお酒が安いです。これなら男同士でガンガン飲むディナーにも良いかもしれません。
メインは青森県産牛ランプのタリアータ、バルサミコソース。逞しい赤身肉の素質を引き出す調理です。クドさは一切なくどこまでも健康的な味わい。ポーションもたっぷり。
チェリーやプラムのような香りとスミレやシナモンの華やかな香り。凝縮感と共に丸みもあります。先のタリアータにピッタリ。
「最近、母がうるさくってさ」それは早く結婚しろって意味で?と訊ねると、「ううん、『もし結婚するなら、あなたより学歴も収入も上じゃないとうまくいかないから、結婚相手はしっかり見極めなさい』だって」それは酷な要求である。その条件を満たす独身男は日本に1,000人もいないのではないか。
デザートも好きなものを好きなだけ。ああ、左党ながら甘味も大好き、かつ、大食いで良かったとしみじみ。まことに私は人生得するタイプである。
「1,000人ね…、そうかもしれない」と視線を落とす彼女。それでいて多少はイケメンとなると、それこそ都内には数十人しか存在しない稀少物件と成り得る。
「うーん、イケメンねぇ。あ、ちなみにあたし、あなたの顔、すごく好きな顔だから。あたしにとってはイケメンだから」マジかよ!もっと早く言え!あと10年早く言え!マイミクになった頃に言え!
まあ確かに、僕に軽く海老蔵入っている点は否めないけどね、と応じると「あ、海老蔵は別に好きじゃない」とTPP協定のように話は二転三転。
店員がズラズラと食後酒を並べ始める。説明を始める前に私が丁重に断ろうとすると、「何言ってんの?飲もうよ今夜は。あなたの誕生日のお祝いなんだから」ハイ喜んで!
ガヤのグラッパ。ブドウはカベルネ・ソーヴィニョン。なるほどカベルネらしいハッキリとした味わい。このあたりで酔っ払いの完成。
連れは自家製のリモンチェッロ。写真ではわかりづらいですが、物凄い緑色です。味見させて頂きましたが、酸味が控えめのジューシーなレモン果実が極上の液体と化し、見事な食後酒でした。
デザートはお店側がプレートにしてくれました。お祝いの手際が適度に盛り上げつつも、客が恥ずかしくならない程度に切り上げるスタイルで手馴れています。
左のマスカルポーネのアイスが絶品。マスカルポーネって、そのままで食べると脂っぽくて飽きがきますが、当店のアイスは程よくコクを残しながら爽やかな甘味をのせています。中央はバナナのタルト。しっかりと果実を感じられる仕様であり食べ応えあり。右はフルーツのグラタンで、品の世おい甘さが心地よい。
別皿にパンナコッタ。これまた大容量サイズでありピッタシカンカンに腹10分目となりました。
秩序正しいエスプレッソでごちそうさまでした。いやー、良い店でした。なんかイタリアンでこんなに満足したのは久々です。
プレートの際にお店の方が写真を撮ってくれ、その場ですぐに台紙に入れてくれます。電子データは間違いなく便利ですが、やはりプリントされた写真には味がある。
時間はまだ22時。少しゆっくりしてから帰るかい?と訊ねると「もう眠くなっちゃった。ちょっと時差ボケ」そう、冒頭にも述べましたが、彼女は今夜のために帰国し、また数時間後には機上の人となるのです。
「あなたの誕生日にはまた帰ってくるから。その時はみんなでお祝いしてあげる。だから今夜はおやすみ。寄り道しちゃだめだからね」
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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。
前菜はワゴンから好きなものを好きなだけ。溢れ出るアッピア感。「アッピアってすごく高いじゃない?そのくせ雰囲気はカジュアルでさ。それならこっちのほうが素敵でしょ?」
上列左からフォンドゥータ、サーモンのマリネ、イワシのマリネ、豚のテリーヌ、サラミ。中列左から牛の小腸、フルーツトマト、牡蠣のオイル漬け、ランプ肉のカルパッチョ、イタリア風サンドイッチ。下段左から鶏レバーのムース、水牛のモツァレラ、水ダコ、サバ、アジ、トリッパ。どうだこの記憶力!
野菜やキノコも魅力的なのですが、ついうっかり魚介とチーズばかり選んでしまいました。
上列左からカポナータ、キノコのマリネ、茄子のグリル。中列左からペコロス、パプリカ、カボチャ、ズッキーニ。下列左からナスにチーズ、ブッラータ、カリフラワーに種々の野菜。
前菜が取り分けられるのを待つ間は根セロリのムースで繋いでくれます。全く青臭くなくエレガントな味わい。アミューズでこの品質、今後の展開に期待が持てます。
パンたちも理想的な味わい。ガッルーラでは渾身の作品として出されるタマネギパンが、当店はさりげに平常心でサービスされます。
アンチョビのペーストとオリーブオイルもグッド。
左は水ダコ。頑強な食感に心地よい海の旨味。噛み締めるほど味わいが変化していき、ガムとして新発売したくなります。右はアジ。にぎりにしても問題のないほど端正な味わい。
ブッラータを用いたカプレーゼ。ブッラータとはモッツァレラチーズにクリームが練りこまれたような食感のフレッシュチーズです。新鮮なチーズと濃厚なクリームが相俟って見事な調和を醸し出しています。
フォンドゥータ。北イタリアのチーズフォンデュ的な食べ物。甘い甘いタマネギをくり抜き、ナッツのような香ばしい風味が漂うチーズをたっぷりと。
この写真だけ画像が粗いのは、昂奮のあまりうっかり写真を撮るのを忘れて、先のワゴンの写真を切り取り拡大したものだからです。ご容赦を。
北海道産毛ガニのオイルソース、自家製イカスミ入りタリオリーニ。山のような毛ガニのほぐし身にイカスミのコク。全体をまとめ上げるノーブルな油。ボリュームもたっぷりであり、私好みの簡潔明瞭な調理です。
連れはエビとマッシュルームの自家製フェットチーネ、マーレ・モンテ風。「クリーム系がいい」とお店の方と相談してのご提案だったのですが、なるほど正統的なクリーム系のパスタであり、思わず横取りしたくなりました。
グレープフルーツ主体の味わいに熟したリンゴと蜜の香り。そうそう、一通りワインリストを眺めさせて頂きましたが、このお店、全体的にお酒が安いです。これなら男同士でガンガン飲むディナーにも良いかもしれません。
メインは青森県産牛ランプのタリアータ、バルサミコソース。逞しい赤身肉の素質を引き出す調理です。クドさは一切なくどこまでも健康的な味わい。ポーションもたっぷり。
チェリーやプラムのような香りとスミレやシナモンの華やかな香り。凝縮感と共に丸みもあります。先のタリアータにピッタリ。
「最近、母がうるさくってさ」それは早く結婚しろって意味で?と訊ねると、「ううん、『もし結婚するなら、あなたより学歴も収入も上じゃないとうまくいかないから、結婚相手はしっかり見極めなさい』だって」それは酷な要求である。その条件を満たす独身男は日本に1,000人もいないのではないか。
デザートも好きなものを好きなだけ。ああ、左党ながら甘味も大好き、かつ、大食いで良かったとしみじみ。まことに私は人生得するタイプである。
「1,000人ね…、そうかもしれない」と視線を落とす彼女。それでいて多少はイケメンとなると、それこそ都内には数十人しか存在しない稀少物件と成り得る。
「うーん、イケメンねぇ。あ、ちなみにあたし、あなたの顔、すごく好きな顔だから。あたしにとってはイケメンだから」マジかよ!もっと早く言え!あと10年早く言え!マイミクになった頃に言え!
まあ確かに、僕に軽く海老蔵入っている点は否めないけどね、と応じると「あ、海老蔵は別に好きじゃない」とTPP協定のように話は二転三転。
店員がズラズラと食後酒を並べ始める。説明を始める前に私が丁重に断ろうとすると、「何言ってんの?飲もうよ今夜は。あなたの誕生日のお祝いなんだから」ハイ喜んで!
ガヤのグラッパ。ブドウはカベルネ・ソーヴィニョン。なるほどカベルネらしいハッキリとした味わい。このあたりで酔っ払いの完成。
連れは自家製のリモンチェッロ。写真ではわかりづらいですが、物凄い緑色です。味見させて頂きましたが、酸味が控えめのジューシーなレモン果実が極上の液体と化し、見事な食後酒でした。
デザートはお店側がプレートにしてくれました。お祝いの手際が適度に盛り上げつつも、客が恥ずかしくならない程度に切り上げるスタイルで手馴れています。
左のマスカルポーネのアイスが絶品。マスカルポーネって、そのままで食べると脂っぽくて飽きがきますが、当店のアイスは程よくコクを残しながら爽やかな甘味をのせています。中央はバナナのタルト。しっかりと果実を感じられる仕様であり食べ応えあり。右はフルーツのグラタンで、品の世おい甘さが心地よい。
別皿にパンナコッタ。これまた大容量サイズでありピッタシカンカンに腹10分目となりました。
秩序正しいエスプレッソでごちそうさまでした。いやー、良い店でした。なんかイタリアンでこんなに満足したのは久々です。
プレートの際にお店の方が写真を撮ってくれ、その場ですぐに台紙に入れてくれます。電子データは間違いなく便利ですが、やはりプリントされた写真には味がある。
時間はまだ22時。少しゆっくりしてから帰るかい?と訊ねると「もう眠くなっちゃった。ちょっと時差ボケ」そう、冒頭にも述べましたが、彼女は今夜のために帰国し、また数時間後には機上の人となるのです。
「あなたの誕生日にはまた帰ってくるから。その時はみんなでお祝いしてあげる。だから今夜はおやすみ。寄り道しちゃだめだからね」
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