知らないお兄さんについて行ったらワインをたくさん飲ませてくれた話

スタジオーネでの食事の後、もうちょっと飲もうという話になり、ちょうど参加者のひとりが近所のタワーマンションに住んでいたので、そこの共有スペースに酒を持ち込んで、という運びになりました。

和気藹々と神楽坂を下って行くと「あれ?Aちゃん?」と連れの一人が通行人に呼び止められる。なんと偶然、彼女の部屋の大家さんでした。続けて発される彼の言葉に一同絶句。「もしかして、タケマシュランさんですか?」

何故?顔出しNGを貫いているはずなのに私の顔の造りがいつの間にか巷間に流布しているのでしょうか。

詳しく聞くと「Aちゃんがタケマシュランさんと親しいことは知っていて」と、大家。それでも彼女が男を連れて歩くことなど日常茶飯事であるのにどうして一発で私だと?「滲み出るオーラですかねえ。そんな気がしたんです」えーなにそれ私ってそんなにオラついてる感じ?

「マンションの共有スペースで飲むんですか?それならウチに来ませんか?」ちょっと待てアンタ今から友達と飲みに行くために出かけてたんだろう?「この機会を逃してはならない。タケマシュランさんが最優先です」これだから世の中からドタキャンはなくならない。
「何にしましょう?」と大きなワインセラーからズラズラと並べられるシャンパーニュたち。気分は完全に浦島太郎。
「どちらで食事を?ああ、スタジオーネ。窯があるお店ですね」と、さすが地元民かつ美食家。「美食家だなんてそんな。でも、僕、タケマシュランさんに載っているお店、かなり行ってますよ」と、ここまでの愛読者と邂逅できて私も嬉しい。ワイン美味しい。
なんだかんだで6人もいるのであっという間にボトルが空く。ひっきりなしにポコポコと開けられる栓。なんて気前の良い漢なんだ。「いいんですいいんです。それより、タケマシュランさんとウチで飲んでるだなんて、ゆ、夢のようです」と明らかに緊張している口調でありなんだか可笑しい。
「お、お注ぎします!」と緊張で震える手でボトルを持つ大家。案の定こぼれるよね。
「あわわわわ」と慌てて拭こうとすると、ボトルの底の最も硬い部分がグラスの淵にクリーン・ヒットし、薄くて高級なそれが木っ端微塵に砕けました。深夜1時に掃除機出動。
落ち着きなさい、と、ドリス・ヴァン・ノッテンを身に纏った大家を横たえ膝枕をして頭を撫でてやる。私にスター意識はまるで無いのですが、少し言葉を交わすだけでここまで恍惚とした表情を見せ付けられると、有名になるのも悪く無いなとうっかり考えてしまいました。

この数分後、酔いに任せてなぜかホッペにチュウされました。こ、これが噂の「手を繋ぐ前にチュウ」かっっ!!

念のため手を繋いでからチュウするべきかチュウしてから手を繋ぐべきかについて訊ねると、「え?手なんか繋ぎませんよ」と即答。もう何が正解なのかわからなくなってきた。
それにしてもワインが豪華。「同じものがもう1本あるんですが、それは3年後にまたここで一緒に飲んでくださいっ!」全く奇矯なプレイである。
「もう赤ワインはこれぐらいしか無いんですよねえ」さすがにコチラは全員が全力で止めました。
赤から白へ。個人的にはコチラが大ヒット。パインヨーグルトのような香りと味わいで直線的に美味しかった。
「3年後にまたここで一緒に飲んでくださいっ!」のワインが1時間と経たずに開かれる運びとなりました。酔っ払いとは得てしてそういうものである。

ちなみにAちゃんは香港に一緒に遊びに行ったソムリエールであり、やはりワインを扱う所作が格好良い。乙姫様のごちそうに、鯛やひらめの舞踊り、ただ珍しく面白く、月日のたつのも夢のうち。

深夜2時を過ぎ解散。何本も何本も見事なワインをご馳走して下さった大家に感謝。もう神楽坂に足を向けて寝ることはできません。このご恩は忘れません。何らかの形で必ずお返しするのでお楽しみに!

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神楽坂に特化したグルメ本は以外と少ない、というか紙媒体ではほぼ皆無。本書はKindleからでも読みやすく、コンパクトにまとまっているので使い勝手が良いです。安いですし。