チーズをめぐる冒険 vol.8~20代のゴロツキとの小競り合い~


プロヴァンスを離れブルゴーニュへ。お昼を跨いでの移動であり、途中、乗り換え時間が20分あるものの、都合よくイケてるパン屋があるかどうかわからないので、事前に買っておくことに。
前日のうちに目星をつけておいた旨そうなサンドイッチ屋の暖簾をくぐる。パン屋ではなく、サンドイッチに特化したお店なのです。
私は鶏の唐揚げとチーズのサンド。唐揚げは誰でも大好きな味わいでクリスピーな食感も楽しい。マスタードソースのと酸味と甘味が慎み深い隠し味。マックのハンバーガーの倍くらいの大きさで、ひとつ食べるだけで満腹です。
妻は水牛製モッツァレラチーズのサンド。ピッツァ・マルゲリータをサンドイッチにしたような味わいで、日本にはありそうでないサンドイッチです。
旅程について。アヴィニョン・サントラル駅から鈍行でニームという街へ向かい、そこからTGVという新幹線のような乗り物でディジョンへ向かうのですが、最初の鈍行に遅れが生じほとほと参りました。

フランスの時刻表は天気予報程度にしかあてになりません。しかも「接続待ち」のような気の利いたことをフランス人が発想するはずもなく、こんな時に限ってニーム発のTGVは定刻発車。結局、20分と多めに確保しておいた乗換え時間は数分に切り詰められ、スーツケースを転がしながらホームを走り抜けるというエクササイズをこなす羽目に。

何とか乗り換えに間に合い胸を撫で下ろしながら指定された席に向かうと、そこには見慣れぬ20代の女が。

あの、その席、僕たちの指定席なんですが、とチケットを見せると、「もちろん知ってるわ。でもね、あたし、ひとりなの。そこの4人がけのコンパートメント席に、知らない3人と座るのなんて嫌でしょ?」と悪びれずに言う。

ここまで堂々とされると無茶苦茶な言い分も正論に聞こえてくるから不思議である。そんなの僕たちには関係ない、ここは僕たちの席だ、と語気を強め移動を促すと、大きな溜息をつきながら舌打ちでもしかねない態度で、一切の謝罪の言葉も無く立ち上がりました。なんてゴロツキだ。しかも、移動したは良いけれど、移動先の席はやっぱり彼女に指定された席ではない。一刻も早く彼女が不幸になりますように。
ディジョン到着。滞在先は街の中心であるブルゴーニュ大公宮殿のすぐ近くの4階。
今回のホストは20代のメガネっ子美女でした。女の子が他人を家に泊めるだなんて無用心だなあと心配していると、「もうすぐカレシが帰ってくるから。彼と一緒に住んでるの」。
「ちなみにあそこに座っているのは私の友達ね」ハーイと手を振るソファに座った女の子。ううむ、Airbnbのゲストをお迎えするというのに、なぜ普通に友達が遊びに来ているのか。Airbnbのホストをやろうという気概のある方は、自宅に他人が自由に出入りすることを何とも思わないんでしょうね。私は潔癖症の完璧主義なので、Airbnbのホストは絶対にできないと思いました。
我々に割り当てられたベッドルームは6畳くらいの広さ。クローゼットやハンガーは無いものの、ちょっとしたロッカーが2つあり、収納には困りませんでした。
嬉しかったのは、自室に小さいながらも我々だけの洗面台があったこと。ニースのように洗面台もトイレもシャワーも全てひとつの部屋で共用だった場合は待ち時間が生じて不便なのです。
シャワーブースも小さいながらも清潔で機能的。
トイレは共用ではありますが、シャワールームと別で助かりました。ニースではウンコしたくなってもホストがシャワーを浴び始めたところで向こう数十分は入れないという絶望が何度かあったのです。

「今夜、あたしたちはパーティだから遅くなるからね。それから、明日は丸1日パーティだからあなたたちと顔をあわす機会はないかも」とんだパーティーピーポーである。

「あさって月曜日にチェックアウトするんだよね?私は仕事でいないけど、カレシはずっと家にいるはずだから、彼に鍵を渡しといて」ま、またプロニート!?Airbnbの運営にはプロニートが不可欠なのかもしれません。
ノートルダム寺院へ。フランスはどの街に行ってもノートルダム寺院だらけなので、そのありがたみも最近では中くらいである。
お土産にとマスタード専門店へ。ディジョンはマスタードの名産地。今さらですが、ディジョンはブルゴーニュの北端にある都市であり、美食の都として誉れ高いのです。カシスリキュールでも有名。カシスリキュールを白ワインで割った食前酒「キール」発祥の街でもあります。
ブルゴーニュ大公宮殿。広く広く開放的ですがそれだけであり、見所は特にありません。
こちらもマスタードの名店。トリュフ風味がフィーチャーされており、試食では確かに旨かったのですが、それはトリュフが美味しいのであってマスタードの功績にあらず。邪道である。
都会の象徴、ギャラリー・ラファイエット。そう、ディジョンは都会なのです。何でもあるけど何にもない。「美食の都」と喧伝されるのは、他に特技が無く消去法でそう主張するようになったのではあるまいか。
また、中途半端な都会であるため、ホームレスやヒッピー、半グレのような輩が昼間からそこかしこにたむろしててちょっと怖い。
この街には住めないなあと斜に構えながら街いちばんのレストランへ。徹底的な分業制および従業員内格差なお店でした。



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