チーズをめぐる冒険 vol.2~従姉妹の人妻に告白したプロニート~


毎年フランスに来ている割に、正統的な観光地にはあまり行ったことが無い私。昨年のモン・サン・ミッシェルに引き続き、最近は意図的に名勝地を訪れるようにしています。
今回の世界遺産の目玉はヴェルサイユ宮殿。入場まで数時間待ちは当たり前のハイパー・コンテンツであるため、下調べに余念がありません。ネット越しにチケットを事前購入しておき、開館時間の少し前に到着するという徹底ぶり。
お、おお。。。オープン10分前のセキュリティチェックでこの行列。パリ郊外の片田舎の8:50でこの集客。時間を要すると覚悟はしていましたが、のっけからこの待ち順列の長さとは。
敷地内に入ると列がいくつか存在。事前に予習をしていた私は「チケット事前購入者」「チケット未購入者」のふたつのパターンと得心。チケットを事前に買っておけばそんなに並ぶことはないのにみんな情弱だよなあと笑いながらゲート近くまで来ると、実はその長蛇の列こそが「チケット事前購入者」のための列でした。5分程行ったり来たりする羽目になり、その間にも列が伸び続けたため、結果、情弱は私である。
結局、事前にチケットを持っていたのにもかかわらず、入場まで小一時間かかりました。事前にチケットを購入していないと、「チケット未購入者」の列に並んだ上で更に「チケット事前購入者」の列にも並ばないといけないのでご注意を。また、団体客専用のゲートもあったので、いっそのこと1日オプショナルツアーのようなものに申し込んでしまうのもアリかもしれません。
客の半分以上は中国人でした。彼らの殆どは数十人単位での団体客であるため、気心の知れた仲間同士の歓談は賑やかを通り越して耳を圧するばかりである。人種差別をするつもりはありませんが、自撮り棒を振り回しながら、後で見直すこともないであろう連射の写真に巻き込まれさすがに懲り懲り。この状態では世界遺産を楽しむ歓びも中くらいである。
とは言え鏡の間の美しさには息を呑む。ただ、逆に言うと、ワオと思ったのはこの部屋だけだったかもしれません。宮殿自体は大きいのですが、部屋のひとつひとつは小さく区分けされており、どうにも開放感に乏しいんですよねこのお城。
建物内に見るべきものは何も無いと判断し、早々に庭園へと移動。しかしながらこちらも想像以上に荒涼とした空間であり、道が土色で砂利も多く心が閉じそうになりました。もっと芝生を多用した青々とした空間のほうが私は好きですね。
「週末の11時と15時限定で大噴水ショー!」という大見得を切った企画があり、高慢ちきに8ユーロの別料金を取りやがるのですが、これまたそこらのショッピングモールの噴水と大差ないクオリティで失望しました。
もちろん、ルイ14世の時代であれば大層な呼び物だったでしょうが、私は噴水と言えばどちらかと言うとベラージオのそれから入ったクチなので、なんとも複雑な気分です。

がっかりした世界遺産でした。そう言えば確かに「ヴェルサイユがすごく良かった!」という土産話はあまり聞かないので、なるほどこういうことだったのですね。

「地球の歩き方」大先生は「じっくりと1日かけて見まわるべき」とたっぷりの説得力を持って指南してくれるのですが、歴女でなく普通の観光客であれば正直2-3時間で充分な気がします。だいたい、「地球の歩き方」って大げさですよね。油断するとすぐ「少なくとも1日」だの「数泊してこそ価値がわかる」だの、お前の言うとおりにプランを立てると逆にどこにも行けなくなるわい。
思いのほか時間が余ってしまったので、観光客があまり行かないゾーンへと街歩き。此の日は曜日限定のマルシェが開催されていたことを事前調査済みだったのです。
気のいいニーチャンや、食えと試食を勧めてくるおっちゃん、喧嘩かと思うほどの大声で丁々発止のやり取りに勤しむ店員と客など、ヴェルサイユ宮殿よりも地元民の生活に溶け込むほうが余程楽しく感じました。

ところで、フランスの人たちってパーソナルスペースが狭いですよね。むちゃくちゃ距離が近い。カフェのテラス席でオッサンが2人で話し込んでいる際にでも、今にもチュウしてしまうんじゃないかという距離で熱弁を交わしているのが異国を感じさせてくれます。
テイクアウトの惣菜もバラエティに富んでおり、是非ともランチとして食べてみたかったのですが、あくまで地元民向けの生活に根付いた市場であるため、イートインスペースのような気の利いた座って食べれそうな場所は見当たらず断念。ああ、住みたいなあ、フランスに。
したがって昼食は市場の近くのレストランへ。ローカルが利用する店であれば間違いないはずと高をくくり、適当に入ったお店が大正解。詳細は別記事にて。
ほろ酔い加減で電車を乗り継ぎパリへ戻る。これまた今更ですがオルセー美術館へ。こちらも入念に下調べを済ませており、チケットを買うのに何時間もかかると散々ネット民に脅されていたので、空港のツーリスト・インフォメーションで事前購入を済ませていました。なるほど確かにオルセーに限っては未購入者の列が長く、事前購入者は1秒も待つこと無く入館できたので、私の情強な一面を垣間見た瞬間です。
駅舎を改装した造りの美術館。抜けの良さからの開放感に満たされる。極めて印象的なインテリアであり、個々の美術品はさておき、美術館の存在自体がアートに感じました。
しかし個々の展示について語ると、首がはねられていたり戦争で人がバタバタと死んでいたりと全体的に絶望した絵が多いです。たまに元気そうな奴がいたかと思うと天使の羽をどこまでも伸ばし「ワシら天使やから余裕やけん」というドヤ顔で他人事この上ありません。
また、妙に裸の女性の絵が多く軽くエロ本入っており、鎖国独裁体制の国であれば銃殺刑に処されかねない品揃えでした。
ところで、先述のとおり当美術館は元々駅舎であり、美術館として設計されていないためか動線が非常に悪く、また順路的なものも存在しないため、全ての絵をきちんと見て回っているのか不安に駆られます。入館時に地図を手に入れ、どのように廻るかを決めてから歩き始めたほうが良いでしょう。
目玉は我らがゴッホ先輩、プロニートのパイオニアです。彼の人生は控え目に言って壮絶。

中学中退後、働き始めたものの鳴かず飛ばず。プライベートでも失恋ばかりして、ある日突然宗教に目覚めて布教活動に専心するも、誰の許可も得ていない宗教家であっため業界から追放されてしまいます。

26歳になっても何をするでもなくブラブラしている兄ちゃんを見かねた弟が仕送りをしてくれるようになったのですが、とりあえず食うに困らなくなった状況に味をしめたパイセンは唐突に絵を書き始めます。

プライベートは相変わらずで、人妻の従姉妹に告るという暴挙に出たり、売春婦との間に子供をもうけたり、素人と恋に落ちたかと思うとその相手を自殺に追い込んだりと、クズ人間ここに極まれリ。

絵に関しても絵のモデルになってくれないかと美女に言い寄りつつヤリまくって妊娠させるなどのゲス野郎であり、遂には絵の世界からも追い出されてしまいます。

全てを失った彼はアル中になり、ゴーギャンとのシェアハウスで再起を図るも「お前の自画像の耳おかしくね?」とバカにされたので、悔しくってその耳を切り取るという狂人っぷり。

精神病院にぶち込まれ最期はピストル自殺でその生涯を終えるという迷惑千万極まりないオッサン。実は自殺でなく弟が殺した説もあるとのことで超納得。仮にそうだったとしても弟は無罪でオッケーでしょう。

26歳から一貫して弟からの仕送りに頼るというニート中のニート。芸術の世界で名を馳せるとは、このような突き抜けた感性が必要なのかもしれません。



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