Aux Lyonnais/Paris


アラン・デュカスがプロデュースするリヨン料理のお店。カジュアルなブション(ビストロ)だと思ってジャケットなしでの入店でしたが、軒先にドアマンがいたり、ドレスアップした方も所々いたりと焦りました。
客層は40~60代が中心で大人向けのお店です。半分はフランス人で残りは外国人。外国人は英語圏の方が多く、店員さんは安定した英語を話してくれます。アジア人は我々だけでした。
ワインリストが厚く、またその表紙に「2016年9月版」と記載されており、毎月アップデートされる模様。やはりフランス人のワインにかける思いは並々ならぬものがあります。

東京のレストランだと2万円近くするロゼ泡が90ユーロだったので狙い撃ち。サーモン・ピンクの色合いにどこまでも続く繊細な泡立ち。赤系ベリーや生姜のような香り。円く調和のとれた味わいです。
お通しはフレッシュチーズにエシャロットのみじん切りを混ぜ込んだもの。チーズの酸味とエシャロットの酸味のバランスが良く中々の出だしです。
パンはまあ普通。保温される器であったので、いつまでもホカホカに食べることができるのが嬉しかった。
妻の前菜は野菜の冷製スープにフレッシュチーズを添えたもの。クセのある独特の野菜(知らない単語でした)にボンヤリとした味付けで、全然美味しくありません。つくづくアラカルト選びに運の無い女である。
私は「リヨン風シェフのポット」なるものを注文。豚肉とフォアグラをグチャグチャに練って冷製に仕立てたもの。
牛肉ではないものの、最上のコンビーフを感じました。旨味の強い豚肉の繊維質にフォアグラの神々しい鉄分がツルっと滑りこむ。量もたっぷり、シュワちゃんをゴクり。天にも登る心地である。
妻のメインは新出単語。ポップオーバーのようなフワフワのパンに白身魚を練り込んだようなものがバコンバコンとふたつ。ソースはナンチュアソースと言って、アメリケーヌ・ソースのように甲殻類の出汁がベース。

ソースは過不及無い味わいなのですが、パンのようなものの味付けが単調で平板。それでいて量だけはとんでもないので、あまり日本人の口にはあわないかもしれません。彼女は2つのうち1つを食べただけで箸を置きました。隣のテーブルのアメリカ人女性も同じく1つ丸ごと残していたので、つくづくアラカルト選びに運の無い女たちである。
私はラムのオーブン焼き。そこが良いと言う人もいるかもしれませんが、羊特有の香りが強烈で私にはちょっとムリ目です。こちらも一本調子の味付けで、それでいて暴力的なボリュームであるため、ちょっと食べ疲れる。

しかしここで食事を終えるわけにはいきません。今回の旅のテーマはあくまでチーズ。チーズのないデザートは片目の美女である。勢い良く盛り合わせを注文。
…。なんか違う。全然盛り合わさってない。それでいて狂気を感じるほどのポーションです。果たして食べきれるのか。「お、チーズ!追加のパン、お持ちしますね♪」と、私の胃袋とは正反対に店員の足取りはどこまでも軽い。

右のリゴット・ド・コンドリューはまさにリヨンのチーズであり定番のシェーブル。とは言えシャヴィニョルとの味わいの違いはわからないなあ。試験だと外観で判断するしかないのかなあ。

中のやや段差のあるタルトのようなチーズはルブロション。白い粉のような外皮が特徴的。味わいはよくある牛乳製のそれであり、良く言えば誰でも好きな味で、悪く言うとプロセスチーズっぽいです。

左のサン・マルスラン。ゴツゴツごわごわした厚い白カビが牛乳製チーズを覆います。香りは正露丸のようで嗅いだだけで一発でそれと理解。塩味が強烈で、刺すような刺激とおどろおどろしい苦味もたっぷり。非常に個性豊かなチーズです。
小菓子が驚くほど美味しかったです。ううむ、満腹すぎてデセールまで辿りつけなかったのが悔やまれる。隣のテーブルはバケツのようなムースを食べており嬌声が上がっていたので嫉妬に狂う。

総評としては中くらいです。味付けは凡庸ですがポーションが強靭であるためうっかり満足してしまう。腹いっぱい食べてふたりで1本飲んで、税サ込23,000円はパリではそう悪くないディールでしょう。

とは言え味でピンとこさせないのは致命傷。これなら東京の気のきいたビストロのほうがレベルが上だなあ。もっと言えば、ナパバレーのアメリカ人が作るリヨン料理屋、ブションのほうが印象的だったりして。



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