瀧口/泉岳寺


「4,800円のコースにしては素晴らしい出来。〆はトリュフ卵かけごはん!」なんて魅力的な情報でしょう。
泉岳寺駅A2出口徒歩10秒(写真は公式webサイトより)。泉岳寺って難しいポジションの駅ですよね。ド都心のはずなのに存在感が希薄。食べログで飲食店を検索してもヒット数が異常に少ない。意外と狙い目な街かもしれません。
ビールで乾杯。グラスが薄く健やかな口当たり。ただし、800円という値段は食事代金と比べてバランスが悪いようにも思いました。そう、当店は全般的に酒が高い。食事の値段をもっと上げて、酒を安くして欲しいなあ。お店としても「お酒は結構、お茶ください」のように言われたら目も当てられないでしょうに。
突き出しに大山鶏ささみのスモークにキノコのマリネ。悪くは無いのですが、作り置きをたった今、盛り付けました感が半端ない。六本木ヒルズのダルマットを思い出す。大山鶏ってそういう運命なのかな。
季節の前菜盛り合わせ。
海ぶどう。塩気と独特の磯の香りが前菜に最適。鴨リエットはポーションが小さすぎて上手に味わえませんでした。
鶏むね肉のバジル和えはハッキリとした味付けで私好み。茄子の煮浸しもしっかりと出汁がきいており優美です。
つくね。黄色は卵黄ではなくかぼちゃのソース。右下はグリュイエールチーズです。ある意味つくねの再構築。かぼちゃのソースが面白い試みであり、旨味に溢れたグリュイエールチーズも見事な取り合わせです。ただ、私は焼鳥を食べに行く機会が少なく詳しくもないので、ごくごく一般的な卵黄で食すバージョンも賞味したかったなあ。2種食べ比べとかもアリかもしれません。
龍力純米ドラゴンエピソード3。暴走族のようなネーミング。しかし味は確かであり柔らかくもキレがある。冒頭に持ってきて良かったですこのお酒。
レバーパテと自家製のブリオッシュ。レバーパテはいわゆる一般的なビストロで供されるものと同等。ブリオッシュは小麦の甘さが目立ちおかわりを求めたくなるほどです。
鶏のコンソメスープ。滋味溢れる逸品。飲む鶏。こういうの大好き。
左はだき身。だき身とは胸肉に皮をくるりと巻きつけ串を打ち、胸肉部分はしっとりとした火入れ、皮部分はバリっとした焦げ目。食欲をそそる香ばしさに旨味を閉じ込めた肉。

右はハツとハツモト。野生的な噛み応え。旨味は控えめであり味よりも歯ごたえを楽しむ1本でした。
大根の鬼おろし。粗い歯でザクザクとおろされた大根おろしです。食物繊維を感じる食感であり、一方で水分もきちんと保持。単なる付けあわせではなく、これだけで立派な一品。
鶏皮の味噌煮込み。名古屋を連想させる濃い口。こってりとした味噌に太めのネギの爽快感。これはごはんが欲しくなる。
柚子唐辛子を味噌煮込みにたっぷりとふりかけます。唐辛子って素敵な器に移し替えるだけでアガりますね。
骨抜き手羽先と深谷ねぎ。手羽先は間違いなく旨い食材ではありますが、食べるのに骨が面倒という問題児。当店ではお店が文字通り骨抜きにしてから供してくれるので、手羽先の良いトコ取りを他の示す。

ソースは比内レバーのペヴェラーダ。ペヴェラーダとは鶏のレバーとサラミを炒めて味付けしたややこしいソースです。誤解を恐れずに述べると、たかが焼鳥のタレにここまで凝ったソースとする執念には舌を巻く。
酒は瀧自慢の神の穂。当店の日本酒は「瀧」やさんずいの取れた「龍」、転じて「竜」のつくお酒ばかりが取り揃えられており楽しいです。
ローズマリーのグラニテ。発想が西洋料理ですね。ローズマリー特有の苦味が舌先をリセットしてくれます。4,800円でここまで高潔なコースに出会えたことに快哉を叫ぶ。
鴨のローストにラタトゥイユ。イタリアンからフレンチまでバラエティ豊か。シェフの来歴が気になります。鴨は野趣溢れる味わいで酒が進む。もう少しポーションがあれば完璧。
最後の串は水郷赤鶏ももにぼんぢり。もも旨し。本日の集大成を感じました。ぼんぢりはちょっぴりクドい。当店のスマートなコースの中では爆発的に脂っぽいので悪目立ちしています。
お食事は土鍋釜ごはん、佐渡島こしひかりです。量はお茶碗たっぷり4杯分。くどいようですが4,800円でここまでやってくれるのは心から感謝。
「ごはんのお供はこの中から3つお選び下さい」とのことで、塩辛に海苔、梅干、バター、イクラに明太子、シャケ、右下は何だっけ?
食べ盛りの男性が典型的に選びそうな3つをチョイス。つれは塩辛イクラまでは同じで、残るひとつは海苔をチョイス。私よりも若干オトナな選択である。

と、この話を後日若い女の子に話すと、「えー、私ならイクラ、イクラ、イクラの3つにする」なるほどそういうモノの見方もありますな。
赤だしは標準的。しかしお椀のシジミの身の取り扱いの正解が未だわからない。私は食材を無駄にすることを嫌うので、味は抜けていようともキッチリ食べきりたい派なのですが、シジミの身を貝から箸でほじくりだすのは美しい所作ではないし、何より時間がかかる。「なんだよこいつチマチマ食いやがって」と思われるんじゃないかといつもヒヤヒヤします。結局全部食べるけど。
出ましたトリュフと南部鶏卵!十番右京ではスペシャリテなどと言い単品で2,000円近くも請求してきますが、当店であれば4,800円のコースのオマケで出して頂けるのは痛快の極み。
丁寧に卵を解きほぐし、醤油を数滴たらしてコシヒカリに流し込み、一息で掻き込む。シンプルな料理ですが最高の味覚です。

結局1杯目は卵かけのみで食し、2~3杯は先の明太子、イクラ、塩辛でおなかいっぱい頂きました。満足じゃ。

いい店です。オシャレで美味しく高くない。なのにそれほど混んでいるというわけでなく使い勝手もグッド。現在の客層は老若男女の別なく食べることに異常なまで執念を燃やす人々が多く、泉岳寺という微妙な土地に訪れることを厭わないぜ的な空気感がありますが、山手線の新駅ができれば人の流れが変わり、一気に予約の取れないお店になるかもしれません。



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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。


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