LAで出会った法曹家の帰国タイミングにちょうどよくワイン会があったので、テーマをアメリカに設定し、キミもおいでよとお誘いするとふたつ返事でOK。海外で1度飲んだだけの関係なのに心を許してひとりで家に来ちゃうだなんて軽いなあ。我々がガチホモで大フィーバーするパーティだったらどうするつもりなんだ。
開始1時間前、テンション高く仕込みをしている最中に唐突に呼び鈴。番長でした。「ジェロボアム(ボトル4本分の大きさ)だから冷やすのに時間がかかるでしょ?」 。当然に冷蔵庫には入らないので、風呂場でショッピングバッグを何重にもかさねて氷をぶち込む。1時間後、皆が集まり始めた頃にようやく冷えたので乾杯。液体だけで3キロ、瓶を含めると6~7キロにも及ぶので注ぐのにも一苦労。注ぎ終わったら風呂場へ冷やしに戻るのが何だか滑稽です。何度も往復するのが面倒なので、皆で飲む歩調を合わせてバッチ処理で注ぎ足す必要あり。
さて今回の料理テーマはアメリカ。まずはコブサラダ。これ、作るのすごく簡単なんですけど見栄えが良いので重宝します。
さて今回より参戦のLA帰りの法曹家。私と彼の馴れ初めを皆に説明すると「ってゆーかタケマシュラン、あの日はただの酔っ払いで酷かったですよ。ビバリーヒルズの路上で寝てましたから」。なんと危機意識のない日本人。自分の軽率さに背筋が凍ります。一方で、何とかなるのが人生でもある。
ナチョスはグァカモレやチリソースなどを自由にディップする形式。
チリ味の挽肉にシュレッドチーズ、サワークリームも用意して、
タコスシェルに各々自由に盛り付ける。アメリカ流の手巻き寿司。
ジェロボアムが一向に空かないので一休みして泡のロゼ。今、一番いい季節ですよねロゼ飲むの。
本当はアメリカンを徹底してシュリンプカクテルを用意する予定だったのですが、質の高いエビの都合がつかず、仕方なしにしっかりと火を通してアヒージョ風に。皆さん優しく特にツッコミはなかったのですが、自分的に何故ここでスペイン?どうして事前にきちんと仕入れなかったホワイ?と自己嫌悪に陥りました。
シチリアでローカルの結婚式に列席してきた外科医がお土産として買ってきた赤。詳しくない品種で、ピノとメルロの中間的な味わい。ちょっとミネラルも感じられて面白かったです。
彼はフランスで働いていたこともあり、ワインに係る審美眼に間違いはありません。今でも数ヶ月に1度はブルゴーニュを訪れ、医学的な見地から生産者と意見を交換するという、正真正銘のワイン
と、唐突に外科医より「タケマシュラン、死にますよ」との死亡宣告。彼とお会いするのは昨年末のシャンベルタンとミュジニー特集以来の半年ぶりなのですが、出し抜けのメメント・モリ攻撃に言葉を失います。「『自己流でファスティングしたら酷い目にあった』という記事、読みました。あれは死の一歩手前でした。脳に糖分は絶対に必要ですから。以後気をつけるように」
さて、ローストチキンが焼きあがりました。ジャガイモにはしっかりとローズマリーをまぶしてあり、サンセールを思わせる爽やかな香りがリビングを満たします。
それではドクターお願いします、とナイフを渡す。すると、何の迷いもなくスイスイと鶏の身体をバラしていきます。こちらはネタのつもりだったのに…。「人間と大体同じですから」と、瞬間、瞳に光が宿る。常人であれば「ぃえええーん?でっきるかなぁあゎたし☆」と二の足を踏むものですよね。
それにしても事務的な手続き。指揮者がタクトを振る優雅な手つきとは対極をなし、ロボットが機械的に作業をする所作に近似。ナイフの入れ方に躊躇いが全く無い。ハサミで封筒を開けているのと同じテンションで淡々と執刀が進んでいきます。
ものの数分で骨と間接と可食部に整理された皿がスタンディングオベーションで迎えられました。「今朝も1件、オペやってきたばかりですから」と、照れ隠しなのか何なのか良くわからないコメントと共に。
きゃあんヴォーヌ=ロマネ。こういうワインを気楽に飲めるのは宅飲みの美点ですね。ちなみに今回、神咲豊多香の私生児は欠席だったのですが、彼女のブルゴーニュの土を食べて育ったエピソードを外科医に披露すると、「あ、うちの娘にも、土、食べさせてます」。
思いがけずプチプラコーデ。皆正直で液面が一向に下がりません。1,000円前後のワインを傾けながら「ロマネ・コンティはワインではない。ロマネ・コンティだ」という不釣合いな話題が何だかおかしかったです。当然に私はロマネ・コンティなど飲んだことがないので、『ラーメン二郎はラーメンではなく、二郎である』みたいな感じですかね、と謙虚に教えを請うと「やめなさい」とお叱りをうけました。
アメリカ社会はジャガイモとケチャップで8割方回っているので、ポテトチップも用意。意外とこういう何でもないツマミの減りが早いんだよなあ。ホームパーティで人気の食べ物って中々読めない。
「梅雨なのでジャケ買いでーす」と、元アパレル女子。彼女の恋愛感は独特で「何もしないからウチ来ない?」という誘いは絶対にNGだけど、「もしかしたらチュウぐらいするかもしれないけどウチ来ない?」はOKらしいです。ホットドックやポパイで育った男子にそんな直線的な誘い方ムリムリ。
ベーコンチーズバーガー完成。
フライドポテトに切り札のトリュフオイルをたっぷりかけ、香りを立てます。
それではドクターお願いします、とナイフを渡す。すると皆から「外科医の無駄遣いはやめろ」と非難されました。今夜は怒られてばっかしや。
今秋ワインエキスパート試験を受験する好青年は、教科書みたいなワインを持ってきてくれました。個人的にはボルドー大好物なのでガブガブに頂く。
LA帰りの法曹家はナパの顔とでも言うべきダックホーンのメルロ。カリフォルニアらしくないシルキーな口当たりと柔らかな果実味。ううむ、こういうワイン大好き。
「ちょっとどうなってるかわかりませんが~」と外科医が取り出したのは45年前のソーテルヌ。コ、コルクぼろぼろ誰が開けるんだ…皆が俯きがちになりナイチンゲールの沈黙。
仕方が無いので僭越ながら私が抜栓させて頂きます。スクリュープルとナイフを用いて悪戦苦闘。コルク片を落とさずなんとか開けることができました。
見て見てこの色!これ、白ワインですよ!気になるお味は、シェリーというかマディラというか、香ばしいを通り越して、目の前に越えられない歴史を突きつけられた味わい。
今夜も良く飲みました。それにしてもジェロボアムの存在感が大きい。次はマチュザレム(ボトル8本分!)をお持ちして下さるとのことだったので、今度ばかりはバスタブを氷で満たし、塩をぶちまけて冷やす必要があるかもしれません。
今回の反省点ですが、やはりアメリカ料理は退屈ですね。華が無い。味は悪くないが、ときめきも無い。ひとりあたりの食材費はいつもと変わらないのに不思議なものです。それだけ日本人のライフスタイルにアメリカ料理は溶け込んでおり、慣れているという意味でしょうか。日本において高級アメリカ料理屋は難しいんだろうなあ。そんなことを漠然と考えた一夜でした。
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私の参加するワイン会は、ヲタクが集まるというよりは、ワイワイふざけながら飲む形式です。全くの素人もウェルカム。ワインはみんなで飲むものだ。下記にテーマ別にまとめておきました。
- ロマネコンティ1978 ←全くの素人「佐々木」を用いてワインの実力を試行。
- マリアお誕生日会 ←ワインアパートメント在住の美人不動産王の誕生日会。
- 24歳の新入り ←神咲豊多香の私生児デビュー戦。
- シャンベルタンとミュジニー ←総額いくらになることやら。とにかく豪華な会。
- クリスマス ←ワインスクール同期とクリスマスパーティ。
- シャリュキュトリ ←ワインよりもツマミが目立った。
- 牡蠣 ←出張牡蠣職人を招いての300個食い。
- ピンチョス ←サン・セバスティアン帰りを記念してピンチョススタイル。