The Napa Valley Wine Train/Napa

ナパバレーワイントレイン。ナパのダウンタウンからセントヘレナまでの往復を時速30キロでのんびり巡る観光列車。こういうものを企画してしまうあたり、いかにもアメリカ人らしいですね。
ナパのダウンタウンの外れに発着駅があります。待合ロビーはゆったりとした設計で、出発時刻の30分前ごろからパラパラと人が集まり始めます。
チェックイ後は1杯飲みながら待つ。クルーズ船でのイベント前の雰囲気にすごく似ています。
グループ別に呼び出しがかかり、順番に乗車します。
我々はビスタドームという席を予約しました。後述しますが、当列車は相席や席の移動を要求されるのが前提という乗り物です。しかし「限られた人生においては新規の他人よりも既存の知人との蜜月を深めるべきだ」がポリシーの私にとっては、追加料金を払ってでも他人と関わりたくない。ビスタドームであれば予約したグループのみの席が確約であり、席の移動もありません。列車内は自由に行き来できるけれど、この車両については通り抜け不可です。
食事にあわせて供されるワインたち。ワオ!と思えるワインは見当たらず、地元の常識的なワインが殆どでした。
カリフォルニアの目映い太陽が壁から天井にかけての大きな窓から差し込みます。
コチラはラウンジ。標準的な席では基本的に相席で、第一陣は往路でコースを食べ切り当ラウンジへ移動します。第二陣は往路はラウンジで過ごし、復路で一気に食事する仕組み。
最後尾には小さなテラス。1日に2往復のみのレアな列車であるため、歩行者や踏切待ちの街行く人々が手をふってくれます。常に手を振られ振り返す皇族の日常を2%ぐらい味わうことができました。
テーブルセッティングは心からダサいです。飲み食いしてひとりあたり30,000円を超えてくるレストランという意味では最低レベルのコーディネイトかもしれません。
ウェルカムスパークリングワインはドメーヌ・シャンドン。ワインリストを見ると、グラスワインは数十種といったところ。
ちなみに神の雫22巻に当列車が登場するのですが、描写は驚くほど無茶苦茶です。遠峰一青は「ナパ・ヴァレーに点在するほとんどのワイナリーのワインを車内で試飲できる」などと知ったような口をきいていますが、常識的に考えてそんなわけありません。

また彼は思いつきでオーパス・ワンやハーラン・エステート、スクリーミング・イーグルなどを注文していますが、そんなお宝をゴトゴト揺れる列車に常備してること自体、犯罪行為に等しい。ローランを口説くために事前に入念に用意した、いわゆるやらせとしか考えられません。

大体あいつはワインをダシに女とヤリたいだけであり、ヘタすると妹すら抱きかねない下衆野郎ですからね憧れちゃいけませんよ。しかもあいつらちょっと口つけるだけで殆ど全部残していきやがる!許せん!私に飲ませろ!
パンはかろうじて温かくはあるものの、給食のパンよりも美味しくないです。バター(?)に限ってはプラスチックを食べているようで気持ちが悪くなりました。
妻はガーリックシュリンプ。かなり大ぶりのエビで、試しに一口だけ頂きましたがわかりやすく美味しい。ハワイの屋台のエビのような味わいです。
私はヤギのチーズが入ったラビオリ。これは信じられないくらい不味かった。おっとっとのほうが100倍美味しいです。アメリカの片田舎の食堂車において手の込んだ料理を期待した私が愚かでした。
サラダかスープを選ぶことができるのですが、妻はサラダを注文。「これは酷い」とのコメント。
私は本日のスープを注文。トマトと何とかの何とかという説明でしたが、要するにスパゲッティ・ミートソースの肉抜きです。決してまずくはないのですが、ケチ臭いレトルトのパスタソースを原液で飲み下しているような感覚。
一皿一皿につきオススメワインが推奨されているのですが、本日のスープについては日替わりであるため指定はなし。自力で写真のロゼを注文したのですが、イチゴや白桃を思わせる味わいで、スープには全く合わなかったです。残念。
出発から20分ほどすると一面のぶどう畑が広がります。ここでも遠峰の野郎の台詞が頭に浮かぶ。「さあもうじきオークヴィルを通り過ぎる。さらにヨントヴィルとナパを越えれば有名な『スタッグス・リープ』がある」という発言。少しワインをかじったことのある人にとっては、気持ち悪くてしょうがない一文です。
誰でもわかるように例を挙げると、東海道新幹線で東京から西へ向かう際、品川あたりで「さあもうじき愛知県を通り過ぎる。さらに静岡と神奈川を越えれば有名な『富士山』がある」という説明をするぐらい無茶苦茶です。東京から西に向かっててこの発言ですよ。彼はセンター試験の地理は50点以下で、足切りで国公立の受験は断念したタイプでしょう。
妻のメインは豚肉をマスタードでどないかしたもの。ソースが見るからに美味しくなさそうです。「もういいや、あげる」と、半分以上を私が引き受けることになりました。
豚肉に合わせるワインはワイン単体だと深みがあって素晴らしいのですが、食事と合わせるとワインの力強さに豚野郎が完全に駆逐されてしまっており、ワイントレインのワインは誰が監修しているんだと怒りがこみ上げます。
私はローストビーフ。アメリカ人の作るローストビーフにハズレなしと信じ込んでいたのですが、見事に信頼を裏切られました。全然ローストな感じはなく、ぬるい温度で長時間茹でたような食感。シーチキンのような食べ応えで肉の旨味も何もありあません。
ワインはカベルネ。ワインに罪は無いのですが、かなり若い味わいであり、悪い意味でパワーのあるローストビーフには合いません。豚肉と牛肉の合わせるワイン、テレコになってるんじゃないだろうか。あ、書いていて今さら気づいたけど、もしかして店員が持ってくるの間違えて逆に置いた!?確かに目の前で注いでもらってない!うわー!
セントヘレナに到着。折り返すための準備やらなんやらで20分ほど停車します。片道だけ乗って、ここからワイナリーツアーに出発する人もいるのですが、明らかに食事を出すテンポが早く、非常に忙しそうでした。ワイントレインの公式サイトでは色々なツアーを組み合わせたプランが提案されておりいずれも魅力的なのですが、あまり欲張らず、のんびりと往復するに留めるのが吉と思います。ちなみにコーヒーは泥水のような味わいでした。
復路はのんびりとデザートをいただきながら。私はチーズケーキにグラン・マルニエの風味をつけたもの。これは実直な味わいでコストコのケーキのように美味しい。
妻はクレーム・ブリュレを注文したのですが、思いがけない形状。意匠も味も中々良い。当列車はデザートのセンスは悪くないのかもしれません。列車の中ではなく、普通の状況でここのパティシエの菓子を楽しんでみたいと思いました。

ナパでワイントレインに乗る予定であることをワイン仲間に告げた際に、「時間の無駄ですよ」と警告を受けた意味がようやく理解できました。2度目はもうない。ただし、一度乗ったことがあるという事実が重要なので、これはこれで経験として良かったです。

ここまで読んだ上でも未だ乗りたいという奇特な方へできる助言と言えば、最安値の席、もっと言えば片道だけのコースで充分ということです。



「北米西海岸」シリーズ目次
今回の旅行ではこの本が心から役立ちました。食やワインに特化したサンフランシスコの紙媒体って意外と少ないんですよね。同じく西海岸を旅する友人に勧めると、5秒の立ち読みで買いました。オススメ!


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