Bistro 釜津田/麻布十番

Bistro 釜津田(ビストロカマツダ)。能登半島の食材に惚れこんだシェフが生産者に会い、直接目利きした素材を提供するというコンセプトです。
 外観はカジュアル。コンクリート打ちっぱなしシャレオッティ階段をぐんぐん地下に潜ると
ライブ感抜群のカウンター席と、テーブル席が2卓。シガールームや立派な絵画など、坪数に割に色々と詰め込みすぎている感があり、若干ごちゃついています(写真は食べログの公式写真より)。
きちんとクロスが貼られ広々としたテーブル席。私がお邪魔した際は満席だったのですが、カウンター席は両隣の間隔が狭く、ちょっと落ち着かないように見えました。
アミューズはホタルイカ。苦味と旨味を上手に表現した大好きなお皿。ただしアミューズとしては少し存在感がありすぎるかもしれません。
お肉たっぷりのサラダ。主題がどちらか取り違えてしまいそうな程の大きさで嬉しくなります。左下はハツ。芯のある噛み応えと野趣溢れる味わいでグッド。バルサミコとフォンのソースはハツの濃さに負けじと喰らいついて来るしっかりとした味付け。美味しいです。

右上はレバー。こちらは臭みが残るというか、レバーの良くない部分がクローズアップされてしまいイマイチでした。中央部の苦味溢れる野菜たちと一緒に食べると割と適度な風味に昇華します。
ズワイガニのフラン。品の良いフランに甲殻類のダシでとった餡を注ぎ込み、蟹肉をこれでもかというぐらい贅沢にトッピング。絶対美味しいですねこの料理。ところどころ黒コショウがピリっとアクセントになっており、旨いが単調になりがちな甲殻系の料理を上手に奮い立たせていました。
「シェフのおすすめコース」をお願いしていたのですが、コレだけは絶対に食べたいとリクエストしたスペシャリテのオニオングラタンスープ。先のフランと同様に、絶対的に美味しい料理です。当店のオニグラはチーズの量がわかり易く多く、バーナーで焦げ目を仕上げるなど、良い意味で青臭いプレゼンテーションです。
甘鯛は火を通した後に高温で皮目を揚げている?肉のむっちり感と皮のバリっと感、ふたつの食感が共存しており面白かった。

下に敷かれた液体はソースではなくスープドポワソン(魚のスープ)。スープドポワソン自体は間違いなく美味しいのですが、迫力のある調理がなされた魚を支えきれていません。セリの強烈な苦味も突き抜けており、統一感の欠落した皿のように思えました。

数日前に魚介専門フレンチのアビスにお邪魔したばかりだったので、なおのこと強く比較してしまい厳しい目の評価です。
パンは一般的で印象に残らず。
お肉はエゾジカ。こちらは悪い意味で綺麗な味わいというか、クリアな透明感があるお肉です。打率ほど打っていないというか、ムシャムシャな食べ応えほど肉を味わえていない印象を受けました。

トランペット茸のソースはキノコの風味を上手に引き出しており好きなタイプ。ただしもう少し塩気があっても良いかもしれません。他方、赤ワインとトリュフのソースは味が濃く満足なのですが、トリュフの風味が赤ワインに圧倒されているような気がします。
グラスの赤は4種類で800~1,400円と良心的。カベルネとメルロとピノが2種。おりょりょシラー無いのかしらーと、仕方なくメルロに流れたのですが、先述の通り野性味に乏しいお肉だったので、バランスの良いこの1杯でちょうど良かったです。
デセールはフランボワーズのアイスにギモーヴ、アプリコットのタルトです。アプリコットのタルトの食感が秀逸。ジトっと舌に沈み込み甘味と香りが駆け抜けます。
コーヒーで〆てごちそうさまでした。

というわけで、ご覧のとおりビストロではなくレストランなお店でした。雰囲気や客層、味が立派で、もっと言えば値段も立派。夜だと12,000円のコースがあったり、アラカルトでも1品3,000円前後が主戦場と、かなり強気に思えました。

たまたまかもしれませんが、能登の食材を前面に押し出している割に至って正統的な料理が続き、勝手に和のエスプリがきいたフレンチを妄想していた私としては少し肩透かしを食った感があります。シェフの料理を否定しているわけではなく、「能登の食材」をコンセプトに据えていると、私のように勘違いしてしまうゲストが増えてしまうのではないか、と、お節介ながらに心配してしまう。

客としての心がけで言うなれば、あまり「ビストロ」や「能登の食材」と限定的に捉えず、大らかな気持ちで臨むほうが良さそうです。意外とビール片手に好きなものをあれこれワガママに注文するほうが満足度は高いかもしれません。

0時ラストオーダー2時閉店と十番の割に遅くまで開いているので、キャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレのような使い方もありでしょう。どことなく店全体がのんびりしているというか、皿出しのテンポが悪い局面がいくつかあったので、コース料理をズバっと食べるぜ!という気持ちでなく、のんびり美味しいものを食べようぜ的にお邪魔しようと思います。

と、あれこれ書きましたが、本質的には好きなお店。今後に期待しています。シェフはまだまだ若く試行錯誤の連続の日々だとは思いますが、見つけるまで探せば骨折りは無駄にはなりません。人生は大いなる暇つぶし。楽しくのびのびと料理し続けて欲しいところです。



関連記事
「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。


Bistro 釜津田
昼総合点★★★☆☆ 3.5
関連ランキング:フレンチ | 麻布十番駅赤羽橋駅六本木駅