ヴァッカロッサ/赤坂

おののののかとのルビージャックスから丸1年。今年も尊師を囲んで肉会です。

お店のチョイスを任された私は悩みに悩んだ末、単なるステーキから少しだけ捻ってビステッカ。トスカーナ風の暖炉で土佐あかうしを薪焼きすると話題沸騰中の当店へ。それにしてもVACCA ROSSAって、「あかうし」直訳やん。何とも思い切ったネーミングである。
フランチャコルタで乾杯。安定して美味しい。ちなみにお店は外装内装共に真っ白に統一されておりイタリアのロマンティックな街並みやパナウェーブを彷彿とさせます。
タマネギとトマトのコンソメ。儚い味わいで飢餓感を煽る。それにしても白いお皿はピントが合いづらいのう。
生ハムと紅い大根(だっけ?)。先の皿と同様、若干の物足りなさを感じます。後の迫り来る肉塊に向けての意図的な取り組みだとは思いますが。
白はピエモンテのシャルドネ。樽がバリバリにきいていてボリューム感もあり、カリフォルニアのもののように感じました。イタリアワインは玉石混交すぎて自分では選べないから、きちんとしたレストランでその道のソムリエに選んでもらうのが吉ですな。
パンたちは水分量が少なく極めて硬い。小麦の味わいも淡白で、私のタイプではありません。

壁の向こう側から「グイーンガリガリガリ!ドコンドコーン!」という2世帯住宅でも作っているのかと思わせる騒音が聞こえてくるので、工事か何かですか?とお店の方に尋ねると、「いえ、電動ノコギリで牛を解体し、その後、肉を叩き切っているのです」と、なんとも頼もしい回答を頂きました。漠然とした恐怖感。ここならスウィーニー・トッドごっこができるかもしれません。
12時から時計回りにブロッコリー、根セロリ、パプリカ、カブ、アワビダケ、ニンジン、中央はトマト。誠実ではあるものの若干に内気な味わいでした。スープが殊の外おいしく、一滴残らずパンに吸いつけてごちそうさまです。
ピーチ。トスカーナの手打ちパスタです。讃岐うどんのような食感で、ねじれや太さのムラがあり、噛むたびに歯ごたえが移り変わっていくのが楽しい。イノシシのラグーの獰猛な味わいを受け止めるに相応しい食べ応えのあるパスタです。後述の肉は当然のこと、このパスタが抜群に美味しかった。
グラスでこのクラスを出してもらえるのは嬉しいですね。ただ、期待していたよりも深みに乏しく、若干枯れた感じがありました。ブラインドだったら何かわからんかっただろうなあ。
ビステッカの付け合せがちょこんと載せられた純白の皿が恭しく置かれ、
本日の主役、土佐あかうし君参上。高知でしか生産されていない貴重な和牛です。年間出荷量は僅か700頭。これって和牛全体の僅か0.2%なんですよ。
薪の熾火で黒々と焼き上げられたものを、文字通り単刀直入に切り分けていきます。兎にも角にも香りが良い。日本語を学ぶ外国人に「コオバシイ」の意味を聞かれたらこれを嗅がせれば良い。
思わずファンレターを送りたくなる美しい断面。肉汁が漏れないんですよね。旨味が過保護なまでに閉じ込められた緻密な味わい。とにかく肉の密度が濃い。「ちょっと最近回転が早くって、熟成が足りていないので~」と謙遜されていましたが、個人的には透き通るような赤身を直線的に味わうことができ、非常に満足できました。
お次のワインも心憎い。先ほどのブルネッロとは打って変わって迫力のある、私好みの味わいで大満足。
骨の部分も丁寧に余すことなく削ぎ落として下さいます。一番美味しいとこやな。「食べ切れなかった場合はサンドイッチにしますので、是非是非お持ち帰りくださいね~」と、何とも魅力的なご提案。そうとなれば、その場で食べきるとしても、あえてお持ち帰りを狙いにいきました。
ヘーゼルナッツのアイスにレモンクリームのパイ。質実剛健であり間違いなく美味しいのですが、ヘヴィ級でもあり内臓に響きました。あの肉を食べた後であれば、もう少し軽やかなほうが良いかもしれません。
端正なエスプレッソとビスコッティと共にごちそうさまでした。
お持ち帰りのサンドイッチはこんな感じ。常温で翌朝までもつのか?かといって冷蔵すると風味が落ちてしまわないか?と10秒ほど悩み、結局その日のうちに食べてしまいました。いやはや冷めても肉が旨い。こんなに豪勢なサンドイッチは中々ありませんな。

あくまで主役はビステッカであり、そこに至る過程を創り上げるのが非常に上手いお店です。また、ここまでトスカーナを突き詰めたお店は珍しい。徹頭徹尾トスカーナ。その潔い姿勢には恐れ入ります。店全体が哲学の塊で、やりたいことがバリバリに伝わってくるのがいいですね。

課題は価格。ちょっと、高いよなあ。。。東京におけるイタリア料理としては、かなり高価な部類に入ります。同じ金額であればOLがキュルルンときめいちゃうようなリストランテが数多ある中で、あえて当店をチョイスするのは土佐あかうしの相場を理解した、食べ慣れた個性派に限られる気がするんですよね。

したがって、タニマチをうまく獲得できるかが今後の争点となりそうです。個人的には何度でもお邪魔したいのだけれど、支払額を考えると同価格帯のフレンチなどにも目移りしてしてしまうような気がするなあ。と、ここまで書いておいて何ですが、オレ今日1円も払ってないわ。

今夜も本当にごちそうさまでした、と尊師に心からの感謝の言葉を述べると「この歳になると、同世代やそれ以上からは学ぶことはなくなって、若い子たちと食事するのが楽しくなるもんだよ。君の名は希望」と有り難いお言葉を頂きました。
ちなみに参加者の女の子から本命チョコを頂きました。サラハルアオキのボンボンショコラに
日本上陸10周年記念カヌレ。唸るほど素敵なチョイス。ホワイトデーを楽しみにしていてくださいね。

おまけ。翌日に尊師からメールを頂く。

「君は一体何者なんだい?あの後、地元のバーで1杯飲んで帰ったんだけど、馴染みのマスターに『今夜は男の子と食事してきたよ。若いのにすっごくレストランに詳しくってさ』とだけ言ったら、『それってもしかしてタケマシュランですか?』って返ってきてさ」。

もちろん私とそのマスターに面識はありません。


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レストランでの火入れを家庭で再現することに主軸を置いた稀有な本。「焼く」「揚げる」「ゆでる」「蒸す」「煮込む」「混ぜる」「漬ける」など、基本的な調理ほど論理的に取り組む必要があることを得心しました。肉の基本。これを知ると知らないでは大きく姿勢が異なります。




ヴァッカロッサ
夜総合点★★★☆☆ 3.5